左脳×時代性から考える…「メディアのイノベーションを生む50の法則」(#05)

連載の第5回では、左脳×時代性からメディアのイノベーションを考えてみたいと思います。 目次 【法則7】AI×メディア×ビジネスで魅力溢れるコンテンツを作る飛躍的に成長するAIシステムの市場規模業界を再編しうるAI活用のビジネスモデル人々を魅了するAIのコンテン…

特集 連載
左脳×時代性から考える…「メディアのイノベーションを生む50の法則」(#05)
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連載の第5回では、左脳×時代性からメディアのイノベーションを考えてみたいと思います。

【法則7】AI×メディア×ビジネスで魅力溢れるコンテンツを作る

Key Words
〇汎用人工知能、特化型人工知能
〇機械学習、ニューラルネットワーク、深層学習
〇画像認識、自然言語処理、音声認識

飛躍的に成長するAIシステムの市場規模

技術の進歩とメディアの発展は、切っても切り離せません。グーテンベルクの活版印刷技術の発明以降、新聞や出版物のメディアが発展してきましたし、電波の発明以降は、テレビやラジオが躍進してきました。さらにインターネットの登場により、メディアの主役はWEB上に移行しつつあります。

それではこれから先はどうなるのでしょうか。今後もっともの進歩するであろう技術の内の一つに、AIがあります。

IDC Japanの「国内AIシステム市場予測」によると、2019年のAIシステムの市場規模は818億4,400万円で前年比156.0%、2020年は前年比143.2%増の1,172億1,200万円と予想しています。さらに2024年には3,458億8,600万円にまで膨れ上がると予測しており、今後、市場が飛躍的に成長していくと考えられています。

AIとは何なのでしょうか。AIとは人工知能のことで、下記の2つに大きく分類されます。

  • 汎用人工知能(強いAI)――人間のように考え、行動するもの。ドラえもんや鉄腕アトムなど。今のところ、完成形はない。
  • 特化型人工知能(弱いAI)――ひとつのことに特化したもの。お掃除ロボットや将棋AI、自動運転など。

さらに、AIや機械学習やディープラーニングなどたくさんの用語が出てきますが、整理してみましょう。

  • 機械学習――AIが自ら学んで行動できる仕組み。「教師あり学習」と「教師なし学習」などに分かれる。AIの学習方法の内のひとつ。
  • ニューラルネットワーク――人間の脳の神経伝達に似せた技術。入力層・中間層・出力層と別れている。
  • 深層学習(ディープラーニング)――AIが学習する方法のひとつ。ニューラルネットワークの技術を使ってより高度な学習を行う。

業界を再編しうるAI活用のビジネスモデル

では、どういった分野でAIはすでに活用されていたり、活躍が期待されたりしているのでしょうか。メディア業界以外の先行事例から学びます。

  • 金融――株価予測やトレーディング業務。
  • 自動車産業――自動運転、ブレーキなどの事故防止作業。
  • 医療・介護――正確な診断、病気の早期発見、新しい薬の開発。
  • 流通――ロボットによる自動ピッキング、不良品の発見。
  • 警備・セキュリティ――事件や事故の予測、不審人物の検知。
  • 製造――新しい商品のニーズの発掘、不良品の検品。
  • 人材・採用――適材適所を見極める、採用の判定。
  • 農業――育成状況を管理、自動で温度調節や農薬、収穫。

ご覧の通り、どの業界でもAIは大活躍してくれる技術ですし、業界を再編しうる大きな可能性を秘めています。もはや、AIを活用することが前提で、その後の未来のビジネスモデルを考えた方が良いくらいの技術革新といえるでしょう。

人々を魅了するAIのコンテンツ作り

メディア業界では、どういった活用方法があるでしょうか。

すでにIBMのWatsonは、リドリー・スコット監督の映画のトレーラーを作ったり、ICEという料理教育研究所と一緒に自動で料理本を出版したり、絵画を描いたり、作曲したり、物語のプロットを作ったりしています。

  • 汎用人工知能――個人個人にもっとも必要な情報を、選んで届けてくれる。映画や漫画のストーリーを自動作成。
  • 画像認識――映画の自動制作。その人好みの映像を作成してくれる。最新のニュース映像をLIVEで配信。
  • 自然言語処理(テキスト解析)――記事の自動作成。要約、好きな文字量に調整してくれる。読む人に合わせ、小説の言語や方言、主人公の性別や年代、結末を変える。
  • 音声認識――人気曲を分析して作曲。声を真似て、故人のように歌う。ニュースを好きな声、好きな速度、好きな言語で読み上げてくれる。

ワクワクするような、素晴らしいコンテンツがたくさん創られそうです。未来のコンテンツ業界は、ますます人々を魅了する可能性を秘めています。

【法則8】RPAでQCDを劇的に変えコア事業に全力投球する

Key Words
〇AIとRPAの違い
〇品質・コスト・業務時間

RPAの導入で良質なコンテンツ作りに全力投球

新聞社が取材のことばかり考えられるのか、出版社がおもしろい本の企画のことだけを考えていられるのか、というとまったくそういった訳はなく、多くの時間を事務作業や雑務、単純作業に取られています。「良質なコンテンツを作る」ことに全力を注ぐためには、RPAの導入を今すぐにでも進めるべきであると私は考えます。

RPAとは。RPA(Robotic Process Automation)の略で、業務自動化を実現するテクノロジー・ロボットのことです。事務作業を「ミスなく、短時間で、24時間」行ってくれるため、企業の変革や、働き方の改革には欠かせないツールです。

AIとの違いは、

  • AI――大量のデータを学習して分析することによって、AI自らが考えて自動で仕事をする。膨大なコストと、導入までに時間がかかる。

それに対し、

  • RPA――判断を伴わない、単純な作業のみ。100%ミスがない。コストは安く、すぐに導入できる。

品質・コスト・業務時間に劇的な効果が期待

では、メディア業界ではどういったことにRPAを使用できるのでしょうか。メディアでは、QCDに劇的な効果を期待できると考えられています。

  • Quality(品質)――文字の誤植や音声のミス、映像の間違いのチェック。コンテンツ作りに必要なマーケティング・データを、自動で抽出、作成してくれる。WEBメディアの同一性のチェックや、異常値のチェック。
  • Cost(コスト)――リサーチャーの人件費を削減してくれるユーザーからのコメントや反応を常にチェック。
  • Delivery(業務時間)――自社メディアアプリの操作。数値の集計。顧客情報の管理。

すでにRPAを導入している民法キー局や大手ITメディア企業もあります。イノベーションを生むには、コアコンピタンスに全力で力を注げる環境作りが大切であると言えます。

【法則9】サブスクリプションで世界は製品からサービスにシフトする

Key Words
〇所有の時代から利用の時代へ
〇3つのサブスク成長要因
〇共創の時代

サブスクの隆盛で物の豊かさから心の豊かさへ

サブスクリプションとは、「一定の期間ごとに一定の料金を支払うことで、製品やサービスを一定期間利用できる」ビジネスモデルのことです。新聞や雑誌の定期購読が原型と言えますが、近年のサブスクは、従来、買い切ることでしか利用できなかった製品やサービスにも広がり、2018年頃から新しいステージを迎えています。たとえば、「ラクサス」ではブランドバッグの借り放題を提供したり、トヨタ自動車の「KINTO」も自動車のサブスクを開始したりと、話題になりました。

19年度のサブスクサービスの国内市場規模は、矢野総合研究所によると6,835億2900万円とされ、18年度から121.5%の伸びを見せました。

これらの背景には、生活者の関心が「物の豊かさ」から「心の豊かさ」へと移り、できるだけモノを持たない暮らしに憧れる人が過半に達する等の価値観の変化に加え、サブスクがもたらす効用として、経済が鈍化する中で支出への心理的ハードルを下げたり、拡大を続ける製品・サービスを都度比較検討する面倒から解放されたりすることがあるものと、内閣府や消費者庁の調査から分かります。

音楽市場におけるサブスクの成長要因とは

19年の国内において、音楽配信、動画配信、電子書籍、デジタルニュース等の「デジタルコンテンツ」のサブスクは、ITC総研によると4,050億円の市場規模があり、メディア・コンテンツがサブスクの牽引役と言っても差し支えないでしょう。国内では、11年にHulu、15年にAWA、Apple Music、Netflixがサービスをスタートさせており、16年にはDAZNやSpotifyも参入し、「定額、見放題、聞き放題」の先駆けとなりました。

世界の音楽市場は、IFPIによると14年の140億ドルから5年連続でプラス成長を遂げており、19年には202億ドルに達しました。200億ドルを超えたのは04年以来です。この成長を牽引したのは、音楽ストリーミングで、14年の14億ドルから19年には114億ドルへと急拡大し、売上全体の56.1%を占めるまでになりました。その中でもサブスク型の音楽ストリーミングが売上全体に占める割合は42%となっており、フィジカル音楽の21.6%を大きく上回っています。

ここまで音楽市場におけるサブスクが成長した要因は3つ考えられます。

1つ目は、利用者にとっての本質的な価値は、コンテンツや楽曲そのものを通じた体験にあることです。もちろんCDやDVD/BRのパッケージ自体の魅力や、アーティスト/クリエイターがアルバムの曲順やジャケットに込めた思いをリスナーが受け取る体験もそのひとつですが、デジタル化によってコンテンツのモジュール化が進んだ結果、曲1曲が与える体験にフォーカスがあたりました。賢明な利用者は、純粋に楽曲による体験だけを求めたのです。

2つ目は、サプライヤーにとってデジタル化されたコンテンツは複製が容易であり、限界費用がゼロに近いことです。曲1曲の制作コストは変わらないとしても、フィジカルで届ける場合には、固定させるCDやDVD/BRの枚数分、包装の個数分の費用が1パッケージ毎に積み増されます。これを音楽ストリーミングで届ければ、1でも∞でもかかる費用は変わらないわけです。

そして3つ目が、ツーサイドプラットフォームとして、サブシディサイドであるコンテンツサプライヤーのストックの確保が比較的容易であったことです。これまでレーベルがパッケージ販売することで確立してきたビジネスモデルは、海賊版の流布によって危機的状況にあり、たとえ限界利益が低下したとしても、ストリーミングへの舵取りを余儀なくされました。楽曲は過去のものであっても、その体験価値は新曲と違いはありません。カタログ楽曲を含めた多数の魅力的なコンテンツが投入されたことでマネーサイドである利用者の参加を増やし、利用者が増えればサプライヤーも関与を高めるという、サイド間のネットワーク効果が働いたのです。

サブスクリプションがメディアに与える影響

サブスクは、生活者とメディアとの関係にも影響を与えます。これまでのマスメディアは、新聞・雑誌という記事・文章のパッケージを売ることや、電波でコンテンツと広告とをパッケージ化して届けることで、マネタイズを果たしてきました。ところが、デジタル化によってアンバンドルが進み、コンテンツ単位での課金が可能になると、好きなコンテンツを自在に組み合わせて享受できるプラットフォームが躍進します。デジタル化されたコンテンツは、パッケージ当たりの利益額には及ばないものの、無数のトランザクションとオートメーション化によって、高効率で利益を生むようになりました。20年のメディア総接触時間に占めるデジタルメディアのシェアは、博報堂DYの調査によると51.6%と拡大しており、特に若年層では7割前後と顕著になっています。

さらに大量のコンテンツと利用者データ抱えるプラットフォームは、これまでメディアが提供してきた”セレンディピティ”という体験をも、アルゴリズムとAIによるキュレーションで代替します。サブスクは利用者にとって参加ハードルが低い分、離脱も容易です。利用者を飽きさせることなく、使い勝手を追求することで、離脱率を抑えることに躍起です。構造的に利用者ファーストなのです。

一方、無数のコンテンツと相反するように「お気に入りコンテンツ」のヘビーローテーションの傾向は、新型コロナウィルス感染拡大の影響による安心・安全への回帰からか、博報堂DYの調査によると19年の47.9%から20年は61.8%と上昇しており、音楽サブスクに見られる「モンスターヘッド」と「ロングテール」と言う両極化にも通じています。聞き放題であっても、特定の楽曲しか聞かない利用者が多数を占めているのが実情のようです。

とはいえ、「ロングテール」として、これまでのマスメディアの世界では生き残れなかったコンテンツも、エコシステムを支えています。多様な利用者のニーズに応え、きっかけさえあれば、新曲ばかりでなく、サブスクの「聞き放題」という効用が増すように多数のカタログ楽曲も再生されることになるでしょう。従前のメディアには実現出来なかったクリエイターを支える仕組みです。

このような時代では、メディアは今まで以上に、人間の知覚器官の拡張として、人の側にあり続けることが求められるように思います。IDCによれば全世界の2020年の総データ量は59ゼタバイトを超えるとされており、とても人一人の能力では知覚に至りません。メディアと生活者の関係は、情報を届けて終わりではなく、コンテンツを通じて、ともに体験を生み出し続ける共創へと移り変わる必要があるでしょう。製品からサービスへシフトする世界の重要指標は、LTV(顧客生涯価値)です。人口減少社会において、マスを求め続けることはもはや不可能です。生活者との深く持続可能な関係から生まれる価値を最大化していくことが、メディアの再構成に繋がると考えています。サブスクは、そんなメディアの行く末に示唆を与えるビジネスモデルでもあるのです。

※参照
矢野総合研究所「2020サブスクリプションサービスの実態と展望」2020年3月30日
内閣府「令和元年度国民生活に関する世論調査」2019年8月
消費者庁「平成28年度消費生活に関する意識調査 結果報告書」2017年7月
ITC総研「2020年サブスクリプションサービスの市場動向調査」2020年2月
博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所「メディア定点調査2020」2020年7月
IDC「Worldwide Global DataSphere Forecast, 2020-2024」2020年4月

(以下、第6回に続く)

メディアのイノベーションを生む50の法則

第1回:メディアの変遷と未来
第2回:イノベーション理論の歴史
第3回:「左脳」×「普遍性」
第4回:「右脳」×「普遍性」
第5回:「左脳」×「時代性」
第7回:その他の領域 part1
第8回:「左脳」×「普遍性」 part2
第9回:「右脳」×「普遍性」 part2

第10回:「左脳」×「時代性」 part2
第11回:「右脳」×「時代性」 part2(10/19ごろ公開)
第12回:その他の領域 part2(10/26ごろ公開)

以下、続く。

《出村大進》

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出村大進

出村大進

株式会社小学館マーケティング局。 毎月開催するメディア・マスコミ業界中心の勉強会&交流会「一冊会」を主催。 早稲田大学大学院経営管理研究科卒業。石川県生まれ。

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