右脳×普遍性から考えるpart2…「メディアのイノベーションを生む50の法則」(#09)

目次 【法則19】ユーザーの欲求や人々のニーズを知り理想の社会を実現するユーザーは何を求めているのか欲求5段階で把握純顧客価値でユーザーの満足度を計算するモチベーションのERGモデルでニーズを知る【法則20】ユーザーの感情を理解して心を動かすメディアを創…

特集 連載
右脳×普遍性から考えるpart2…「メディアのイノベーションを生む50の法則」(#09)

【法則19】ユーザーの欲求や人々のニーズを知り理想の社会を実現する

Key Words
〇マズローの欲求5段階説
〇純顧客価値
〇アルダファーのERGモデル

ユーザーは何を求めているのか欲求5段階で把握

根本的な質問で恐縮ですが、あなたは答えられますか。

「あなたは何のためにメディア企業で働いていますか」

「メディアを使って、何を伝えたいですか」

「メディアを使って何を実現し、社会に貢献したいですか」

メディアはあくまでも手段であって、目的は別にあるはずです。目的は人によってさまざまな答えがあると思いますが、メディア企業にいるのであれば人に伝わってこそだと思いますし、その伝わった人が何かを感じ、そして行動してくれて初めて、あなたの「目的」の実現に近づくのだと思います。

ユーザーが何を求めてメディアを欲しているのか、知ることはイノベーションにつながります。「ドリルを買う人が欲しいのは、ドリルではなく穴である」と一緒で、欲しいのはメディアそのものではなく、他の何かのためにメディアを買うのでしょう。

では人々は何をメディアに求めているのでしょうか。それを知るフレームワークのひとつに「マズローの欲求5段階説」があります。アメリカ合衆国の心理学者であるマズローは、人間心理学の生みの親と言われている人物で、人間には5段階の欲求があり、1つ下の欲求が満たされると次の欲求を満たそうとする、と説きました。

  • 第1段階:生理的欲求――生きていくために必要な欲求。食べ物、睡眠など。
  • 第2段階:安全欲求――安全で安心して生活したい欲求。建物、紛争、病気など。
  • 第3段階:社会的欲求――社会的集団に所属したい欲求。家族、社会、組織など。
  • 第4段階:承認欲求――自分を認められたい、承認されたい欲求。注目、賞賛など。
  • 第5段階:自己実現欲求――自分の思いを実現したい欲求。夢、世界観、あるべき自分など。

また、図表のように段階に合わせて「物質的欲求」と「精神的欲求」、「外的欲求」と「内的欲求」、「欠乏欲求」と「成長欲求」に分けることもできます。

さらにマズローは、5段階の上に6段目があり、「自己超越欲求」があるとのちに説明しています。自己を越えて、世界や社会、他者の幸せを願う欲求のことで、人口の2%ほどの人しかその段階にはいかないと述べています。

純顧客価値でユーザーの満足度を計算する

ユーザーの欲求やニーズを知ることは、「純顧客価値」の分析に役立ちます。純顧客価値とは現代マーケティングの第一人者といわれるフィリップ・コトラー教授が提唱した概念であり、ユーザーの満足度や価値を数値化したもので、「純顧客価値」=「総顧客価値」-「総顧客コスト」の計算式であらわされます。

  • 純顧客価値――ユーザーの満足度やその顧客の感じる価値を数値化したもの
  • 総顧客価値――商品価値、サービス価値、従業員価値、イメージ価値
  • 総顧客コスト――金銭コスト、時間コスト、労力コスト、心理コスト

自分のメディアが、どれだけユーザーの欲求を満たし、満足や価値を感じてくれているのかを可視化することができます。

モチベーションのERGモデルでニーズを知る

他にも、人々のニーズを知るフレームワークはどういったものがあるのでしょうか。アルダファーは「ERGモデル」でモチベーション理論を説明しています。

  • 存在欲求(Existence)――人としての低次欲求。
  • 人間関係の欲求(Relatedness)――他者と関係を持ち続けたいという欲求
  • 成長欲求(Growth)――成長し続けたいという高次欲求

この3つの頭文字をとってERG理論としました。マズローの欲求段階と違うところは、マズローは一番下の欲求から順番に満たそうとしていくとしているのに対し、アルダファーは必ずしも一番下の欲求から満たそうとするのではなく、上の欲求から求めることもあり、3つの欲求すべてに同時に対処する必要があると述べています。また、人々がより低位の欲求に退行することも珍しくないと主張しています。

あなたのメディアが、ユーザーのどの欲求やニーズを満たすために伝えているのか、どういった欲求を実現させて社会に貢献したいのか、時折見つめ直すのも何か新しい発見につながるかもしれません。

【法則20】ユーザーの感情を理解して心を動かすメディアを創造する

Key Words
〇プルチックの感情の輪
〇ラッセルの感情円環モデル
〇行動経済学

人間はネガティブな感情の方が多い生き物?

メディアから影響を受けたユーザーは、どういった感情を持つのでしょうか。ユーザーの感情を理解することは、イノベーションを生むうえで非常に重要です。

アメリカ合衆国の心理学者であるプルチックは、人間の感情の構造を、花びらのような輪で説明しました。

  • プルチックの感情の輪

人間には8つの基本的な感情(喜び、悲しみ、信頼、嫌悪、怒り、恐れ、期待、驚き)があるとしました。そして「恍惚」>「喜び」>「安らぎ」のように、その8つの感情にはそれぞれ強度があり、中心に向かって感情の強さは強くなります。

さらに感情同士が混ざり合うことによって、様々な感情が生まれると考えられました。例えば「喜び+信頼=愛」などです。また、喜び⇔悲しみ、信頼⇔嫌悪、怒り⇔恐れ、期待⇔驚きは対になる感情であり、混ざり合うことはなく、簡単には移行しないとプルチックは述べています。

プルチックの理論は、感情の関連性が分かりやすいので、人間の気持ちを理解するのに非常に役立ちます。

  • ポジティブな感情「喜び」「信頼」
  • ネガティブな感情「悲しみ」「嫌悪」「怒り」「恐れ」
  • まだどちらでもない感情「期待」「驚き」

に分けると、ネガティブな感情の方が種類が多いことが分かります。人はネガティブな部分の方が多いということが、ユーザーの感情理解につながりそうです。

ラッセルの感情円環モデルと喜怒哀楽

ラッセルの感情の円環モデルも、ユーザーの感情を理解する上では非常に興味深いです。

  • ラッセルの感情円環モデル

ラッセルは、すべての感情は「覚醒⇔眠気」「快⇔不快」のマトリクスの中で、円環の形に並んでいると提唱しました。二次元で近くにある感情は似ていたり移行しやすく、対にある感情は、移行しにくいと述べています。

この感情円環モデルのマトリクスは、喜怒哀楽とも同じように分類できます。

感情を理解する行動経済学とプロスペクト理論

経済は感情で動いています。行動経済学で最も代表的な理論である「プロスペクト理論」を発表し、2002年にノーベル経済学賞を受賞したカーネマン教授も、人間は感情により非合理的な行動を取ると発表しています。

行動経済学とは、経済学に心理学的要素を取り入れて研究する手法で、経済は合理的や論理的だけでは説明できないことが多くあることが示されています。

プロスペクト理論では、利益と損失に関する意思決定のメカニズムをモデル化したもので、同じ5万円でも得られた時の満足度よりも、失った時の不満度の方が大きいと説明しています。プロスペクト理論でも、人間はポジティブな感情よりも、ネガティブな感情の方が大きいことが分かります。

感情を理解することにより、ユーザーの気持ちに共感でき理解できるようになり、心を動かすことにつながります。イノベーションのタネは、ユーザーの感情を理解し、動かすことから始まるかもしれません。

【法則21】五感を通じて情報を伝達しユーザーの新たな感情を生む

Key Words
◯五感×メディア
〇メラビアンの法則
〇五感以外の感覚

五感に訴えるメディアの種類と関係性

自分のメディアが人のどの感覚に届けることができるのか、理解して知っておくことはとても重要です。脳が感動したり、幸せになったりと、感情が生まれるのも、五感を通じてです。どのようにすれば人の五感に届き、脳に伝わり、そして感性を揺さぶるコンテンツを作ることができるのでしょうか。

総務省方式では、コンテンツは次の3つに分類されます。

  • テキスト系コンテンツ――視覚。新聞、雑誌、書籍など。
  • 音声系コンテンツ――聴覚。音楽ソフト、ラジオ、配信など。
  • 映像系コンテンツ――視覚+聴覚。テレビ、映画、パッケージソフトなど。

五感とは、言わずもがなですが、人間が外界を感知する感覚のことで、「視覚」「聴覚」「触覚」「味覚」「嗅覚」の5つに分類されます。

  • 視覚には、文字や絵、映像、3Dなどにより伝達が可能で、未来は360°立体映像や高精細映像などが期待されます。
  • 聴覚には、音楽や音声など音により伝達するが可能で、未来は超高音質や大容量音声などが期待されます。
  • 触覚や味覚や嗅覚にはメディアでは伝達が難しいとされていて、直接イベントや雑誌の現物付録などでしか伝えられないのではないでしょうか。香りが出る映画館や触った感じが分かる機器など、実験的なものが少しずつ出てきており、触覚、味覚、嗅覚が分かるメディアインターフェイスの開発が期待されます。

五感にはどのように刺激を与えられるでしょうか。

  • 「視覚」――光
  • 「聴覚」――音
  • 「触覚」――化学物質(気体)
  • 「味覚」――化学物質(液体、固体)
  • 「嗅覚」――高い温度(温覚)、冷たい温度(冷覚)、痛覚、接触、圧力、振動(触圧覚)

こうして見ると、メディアで伝えられる「視覚」と「聴覚」よりも、メディアで伝えづらい「触覚」「味覚」「嗅覚」の方が、人はより刺激を感じ取り、脳に伝えていることが分かります。伝えることが本望のメディアにとって、むしろメディアで伝えづらい「触覚」「味覚」「嗅覚」の方が伝わりやすいという皮肉な結果になっています。

印象の55%が視覚情報のメラビアンの法則

では人は五感を使ってどのように情報を得ているのでしょうか。メラビアンの法則によると、視覚情報から取っているが55%、聴覚情報からが38%、言語情報は7%と明らかにしています。

メラビアンの法則とは、アメリカの心理学者アルバート・メラビアンが提唱した理論で、人は矛盾した情報を得たときに、何に基づいて印象を受け止めたかを、実験を用いて検証したものです。メラビアンは、「楽しいね」と言いながら、声のトーンは低く、不機嫌な顔をして言うなど、矛盾した情報を伝える様々な実証実験を行いました。

言語情報よりも見た目や表情などの視覚情報や口調などの聴覚情報の方が人に伝わるということが分かります。

五感以外の感覚や感性や直感とは

五感以外には、どんな感覚があるでしょうか。第六感というスピリチュアル的な直感もありますし、空間把握の感覚、さらにバランスをとるための平衡感覚を言う研究者もいます。さらに、植物には20感覚あるともいいます。光の質量や光の方向の感覚、日照時間や温度の感覚などです。

五感以外にも、様々な感覚があり、それぞれが脳に情報を伝達していることが分かります。メディアとは、情報を相手の感覚に伝え、そして脳に伝達していく中間媒介です。これからも様々な手段でユーザーの感覚に情報を伝え、アプローチしていきたいものです。

(以下、第10回に続く)

メディアのイノベーションを生む50の法則

第1回:メディアの変遷と未来
第2回:イノベーション理論の歴史
第3回:「左脳」×「普遍性」
第4回:「右脳」×「普遍性」
第5回:「左脳」×「時代性」
第7回:その他の領域 part1
第8回:「左脳」×「普遍性」 part2
第9回:「右脳」×「普遍性」 part2

第10回:「左脳」×「時代性」 part2
第11回:「右脳」×「時代性」 part2(10/19ごろ公開)
第12回:その他の領域 part2(10/26ごろ公開)

以下、続く。

《出村大進》

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出村大進

出村大進

株式会社小学館マーケティング局。 毎月開催するメディア・マスコミ業界中心の勉強会&交流会「一冊会」を主催。 早稲田大学大学院経営管理研究科卒業。石川県生まれ。

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