右脳×時代性から考える…「メディアのイノベーションを生む50の法則」(#06)

目次 【法則10】メディアの強みを生かし新ビジネスを作るオープン・イノベーション外のリソースを活かし新しいアウトプットを生むメディアは元々オープン・イノベーション向きオープン・イノベーションで重要な3つの視点他企業との協業で広がるメディアの未来【法則…

特集 連載
右脳×時代性から考える…「メディアのイノベーションを生む50の法則」(#06)
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【法則10】メディアの強みを生かし新ビジネスを作るオープン・イノベーション

Key Words
〇チェスブロウのオープン・イノベーション
〇オープン・イノベーション向きなメディア企業
〇オープン・イノベーションの3つの視点

外のリソースを活かし新しいアウトプットを生む

オープン・イノベーションはこの5年ほどで日本でも急速に広まりを見せており、アクセラレーション・プログラム、コーポレートベンチャーキャピタルの組成、大企業の協業募集などのプロジェクトが多く生まれ、ビジネスニュースやケースとしてご存知の方も多いと思います。メディア企業でも、現在、集英社や小学館がスタートアップとのアクセラレータプログラムを開始しています。

オープン・イノベーションとは、2003年にハーバード大学経営大学院の教授だったヘンリー・チェスブロウ氏が書籍『OPEN INNOVATION―ハーバード流イノベーション戦略のすべて』の中で提唱した概念で、自社の組織内だけではなく、外部にある組織のリソースを活かして、新しいアウトプットを生み出す手法及び方法論のことです。

イノベーションとは「新結合」、すなわち要素の掛け算から生まれるとシュンペーターは説いています。そういった意味でも、オープン・イノベーションは、外の組織のリソースと自身の組織のリソースを掛け算することを前提とする手法であり、非常に合理性があり、様々な組織のイノベーション手法として定着していきました。

では、メディア企業がオープン・イノベーションを活用する場合、何がポイントになるのでしょうか。

メディアは元々オープン・イノベーション向き

実はメディア企業とオープン・イノベーションは非常に相性が良いと、私は考えます。メディアの事業の運営思想として、既に自然とオープン・イノベーションを受け入れやすい事業主体・事業構造になっています。

これには2つの理由があります。

1つ目は、そもそもほとんどのメディアが、受発注の仕組みが多いながらも、外部リソースを掛け合わせてサービスを運営する事業モデルが前提になっているからです。

外部情報を取材しての記事化やコンテンツ化、外部ライターやモデルの機用、制作会社や開発会社、広告代理店、印刷事業者、店舗や配信設備、IPの制作やイベントなど、ビジネスモデルを俯瞰するバリューチェーンに対してToC、ToBどちらにしても1社で垂直統合して全部自社で完結させるモデルではなく、編集と発信というコアバリューは内製しつつも、外のリソースを活用していくことを常にやってきているからです。

2つ目は、コンテンツなどの人の生み出すソフトなアセットが、リソースとして比較的提供しやすい点です。オープン・イノベーションの場合、相手にリソースを提供してもらう際に、こちらも相手に何が提供できるかという視点も重要になります。その時にメディア持つ枠や編集力、記事や企画力、読者ネットワークなどはソフトなものであるため、カスタマイズもしやすく、提供ハードルも工場やデバイスなどのハードのアセットに比べると提供しやすいといえるでしょう。

しかしながら、市場が成熟しているため閉じたエコシステムにいることが多く、一部のエース社員や経営陣以外は、取材を除くとその業界界隈の外との事業的な関わりを持っている方が少ないのではないでしょうか。

ではメディア企業がオープン・イノベーションを推進していく場合、どういったことがポイントになってくるのでしょうか。

オープン・イノベーションで重要な3つの視点

オープン・イノベーションは、チェスブロウ教授が提唱して以来15年以上の歴史を持っており、かなり理論的な体系化がされています。メディア企業の場合、次の3つのポイントに注意しながら事業開発を推進していく必要があります。

1つ目は、提携のゴールの定義です。そもそもどのようなイノベーションを起こしたくて、どのようなリソースがほしいのか、方向性だけでもまとめておくことが重要です。目的の無いアクセラレーション・プログラムや協業の公募を行ってしまい、参加してもらったスタートアップ企業や社内担当者相互で疲弊してしまう例がたくさんあります。丸投げで、良いアイディアを求めるなどそういった甘いことはありません。

2つ目は、ビジネスモデルの拡張です。メディア以外のまったく他分野のビジネスモデルでも、事業を一緒に考えてみる視野を持つことが大切です。コンテンツを作成し、印刷やWEB配信コンテンツ代や広告費をもらう現状のモデル以外の可能性がないか、むしろこちらから先行投資を行い、後から回収したり権利化できるようなことはないかなど、未来のビジネスモデルは今のモデルの外があることを前提に考える必要性があります。むしろ商流図だけでいえば、メディアのようなコンテンツそのもので課金が成立したり、広告モデル100%で運営できる方がマイノリティだからです。

3つ目は、業態視座の拡張です。2つ目と絡みますが、メディア業だけではなく、ある意味「ブランドと趣向性、ユーザープールを持ったソフト商社」だと思い、俯瞰して経営してみることが重要になります。今おこなっていないビジネスや業種へ、提携企業と一緒に飛び込めるチャンスが無いか、違う業態へ進出できないかを常に狙っていきます。最近、非メディア企業が逆にメディア業やコンテンツビジネスへ進出することが非常に増えています。こちらとしても今の商流やメディアというビジネスの中にパートナーを入れるのではなく、こちらのアセットを組み先のアセットと絡めたことで違う業態に進出できないか考えていく方が強いイノベーションを生めるでしょう。

この3点は、一言でいえば「外部から見たときにどのような可能性を持っている組織なのか」を体系化してメタ的な自社理解をしていく過程とも言えます。メディアに携わる人たちは外を取材することは慣れていますが、編集的な側面以外で自分達の事業的なレゾンデートルを定義する言は経験がなかったりします。理論的な体系化や推進などの部分での条件よりも、オープン・イノベーションを行う上で、俯瞰して自社の見方を変えていくことが最初のキーになるわけです。

他企業との協業で広がるメディアの未来

「メディア企業のオープン・イノベーション活用」に絞り今回はお伝えしましたが、オープン・イノベーションは、その掛け合わせるリソース側のメリットや文化的な許容が必要になったり、複数のステークホルダーと協業目線で進めるかなどのビジネス的なハードルがたくさんあります。しかしそれらのハードルを越えて様々なパートナーさんと組んでいくことで、「広告主」としてしか見れていなかった企業が共同商品開発パートナーへ、普段対象ではなかったスタートアップ企業がグロースパートナーへ、メディアではないものがメディアへ、など、新しいマネタイズや企業像が待っています。オープン・イノベーション以外でも、他企業やスタートアップ企業と組むことは、イノベーションを生むうえで非常に重要です。

眠っているアセット、持っているアセットを整理して、オープン・イノベーション、いかがでしょうか?

【法則11】「デザイン思考」でデザインからニーズとイノベーションを生む

Key Words
〇洞察・観察・共感
〇発散と収束
〇プロトタイプ製作

デザインによるイノベーションへのアプローチ法

イノベーションとは技術革新に限ったことではなく、さまざまなアプローチや組み合わせによって生み出すことができます。近年では、デザインによるイノベーションへのアプローチ「デザイン思考」が非常に有名で、新規事業や新商品開発、経営戦略に取り入れる企業も増えてきました。

デザイン思考はアメリカのデザイン会社・IDEOの創始者、ティム・ブラウンにより有名になった発想方法で、プロダクトやサービスのデザインを考える時に、ユーザーのニーズや行動をしっかりと理解し、ユーザーの問題解決をもとにアイディアを創出する考え方です。既存の発想の枠に収まらない、より画期的なアイディアが生まれる思考方法です。IDEOはこれまで、デザイン思考の発想方法により、アップルのマウスの発明やドッキングシステム、パームやマイクロソフトやP&Gの新商品など、数千の画期的な商品を次々と生み出してきました。

IDEOのデザイン思考による商品作りの特徴として、「洞察・観察・共感」「発散と収束」「プロトタイプ製作」があります。

徹底した現状理解が新たなニーズを生み出す

IDEOではデザインに取り掛かる前に、徹底してユーザーの現状理解を行います。ティム・ブラウンは特に次の3つが大切だと語っていま。す

  • 洞察(インサイト)――他者の生活から学び取る
  • 観察(オブザベーション)――人々のしないことに目を向け、言わないことに耳を傾ける
  • 共感(エンパシー)――他人の身になる

そして、洞察・観察・共感で得た情報を元に、ブレインストーミングやポストイットを使って、まずは発想を発散させます。チームで発想を発散させることにより、より多くのアイディアを手に入れ、問題解決の選択肢を多く生み出します。

一般的な問題解決の方法では現状把握の後は「分析」→「綜合」に進んでしまいますが、IDEOでは現状把握のあとに発想を「発散」させて選択肢を増やしてからアイディアを「収束」させて、そこから「分析」→「綜合」と進むので、解決方法の幅が圧倒的に広がるのです。

プロトタイプ製作は早く・安く・簡単に

デザイン思考の最も特徴的な作業のひとつに「プロトタイプ製作」があります。発散・収束で出てきたアイディアを、より早く、その場にあるもので安く、簡単なものでいいのでとにかく実際の形にします。ティム・ブラウンは「やっつけ仕事でかまわない」と言っています。むしろ高コストで時間をかけて製作してしまうと、そのアイディアにのめりこんでしまうことになり、他のアイディアが試せなくなってしまいます。プロトタイプを製作することによって、さまざまなアイディアを同時に模索することができますし、新たな問題や新たな解決方法が短時間で見つかり、検証や分析を早くまわすことができるようになります。

これらのサイクルを何度も繰り返すことで、より完成された斬新なアイディアの製品に近づいていきます。

d.schoolのデザイン思考5段階プロセス

スタンフォード大学のd.schoolが提唱した「デザイン思考の5段階プロセス」は、IDEOのメソッドを視覚化させて、より具体的にフレームワークに落とし込んでいます。

  • 1.共感(Empathise)――ユーザーの行動を深く理解し、思いを共感し、何が問題なのかを見つける
  • 2.定義 (Define) ――ユーザーのニーズや問題点を明確化させる
  • 3.概念化 (Ideate) ――新しい解決方法となるアイディアを多く生み出す
  • 4.試作 (Prototype) ――早く、安く、簡単にプロトタイプを作る
  • 5.テスト (Test) ――実際のユーザーに使ってもらい検証する

これらの5段階を、必ずしも連続で行うわけでなく、行ったり来たり、時には飛ばしたりさらには何度も繰り返したりしながら、製品の完成へと近づけるのです。

デザイン思考はデザイナーのためだけというわけではなく、人々が気づいていないニーズを発見し、斬新なアイディアでイノベーションを生む、誰もが使える思考方法です。技術革新的なイノベーションは数多く量産するには限界があったり、メディア業界には少し縁が遠い感じもしますが、デザイン思考によるイノベーションは継続して多く生み出すことができますし、メディア業界に向いているのではないかと思います。

【法則12】「アート思考」でビジネスに哲学と魂と表現力を注入する

Key Words
〇アート思考
〇アーティストとデザイナーの違い
〇アートとは

AからBまで行くのでなく、B地点を発明する

デザイン思考と同じく、近年盛り上がりを見せている思考方法に、「アート思考」があります。ユーザーやクライアントのニーズを基に、そこから商品のアイディアやプロトタイプを創り出していくデザイン思考。一方、アート思考は、ユーザーのニーズや実現性に関係なく、アーティストのように自分だけの視点や発想から自由にアイディアを創出する思考法で、これまでの常識にとらわれない、より柔軟なアイディアが生まれます。

『アート・シンキング』の著者でニューヨーク大学の助教授のエイミー・ウィテカーは、「アート・シンキングは、AからBまでできるだけ良い方法で行くのでなく、Bを発明することである 」と言っています。

これはデザイナーとアーティストの違いからも説明がつくかもしれません。

  • デザイナーはクライアントの依頼をデザインで問題解決する人
  • アーティストは芸術家であり自己表現をする人であり、クライアントはいない

アートは作り手の哲学が反映されるもので、人々を魅了してファンを作り、社会に影響を与えるものです。アート思考から生み出された商品は、そういった可能性に秘めています。

偉大なアーティストが語る「アートとは」

アート思考は、まだ定義もしっかりとは決まっておらず、創造プロセスもフレームワークもまだ確立されていません。アートがうまく説明できないのと同じく、アート思考もうまく説明ができないようです。

アーティストがアートのことを語った名言で、以下のようなものがあります。

  • レオナルド・ダ・ビンチ――「その手に魂がこめられなければ、アートではないのだ」
  • 横山大観――「いい絵とは、ああっと言うだけで、ものが言えなくなるような絵だ。どうだこうだと言える様な絵、言いたくなる様な絵は大した絵ではない」
  • オスカー・ワイルド――「偉大なアーティストは物事をあるがままには決して見ない。もしそうしたのなら、アーティストではなくなっているのだ」
  • 岡本太郎――「芸術は売れなくてもいい。好かれなくてもいい。芸術は認められなくてもいい。成功しなくてもいい。自分を貫いてぶつけて無条件に自他に迫って行く事が芸術だ」

いかがでしょうか?なんとなく、アートが分かった感じがしました。この「アート」と「ビジネス」を掛け合わせることにより、確かに今までにない斬新なアイディアが生まれる感じはします。

(以下、第7回に続く)

メディアのイノベーションを生む50の法則

第1回:メディアの変遷と未来
第2回:イノベーション理論の歴史
第3回:「左脳」×「普遍性」
第4回:「右脳」×「普遍性」
第5回:「左脳」×「時代性」
第7回:その他の領域 part1
第8回:「左脳」×「普遍性」 part2
第9回:「右脳」×「普遍性」 part2

第10回:「左脳」×「時代性」 part2
第11回:「右脳」×「時代性」 part2(10/19ごろ公開)
第12回:その他の領域 part2(10/26ごろ公開)

以下、続く。

《出村大進》

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出村大進

出村大進

株式会社小学館マーケティング局。 毎月開催するメディア・マスコミ業界中心の勉強会&交流会「一冊会」を主催。 早稲田大学大学院経営管理研究科卒業。石川県生まれ。

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