メディアはDXをどう実現するか、新聞社とデジタルメディアの双方を経験した古田大輔氏に聞く

9月25日に開催する半日間のオンラインカンファレンス「Publishing Innovation Summit 2020」では、世界の先進事例を元にパブリッシャーの未来について議論します。

元朝日新聞で、BuzzFeed Japanの創刊編集長を務め、現在はメディアコラボ代表としてジャーナリスト/コンサルタントとして活躍する古田大輔氏からはデジタルトランスフォーメーションを実現した新聞社として世界を代表するニューヨーク・タイムズを取り上げ、「なぜ、NYタイムズのDXは成功したのか 危機に必要とされるメディアとは」と題して講演いただきます。

講演の前に、なぜ今一度ニューヨーク・タイムズの取り組みを振り返るべきなのか、古田氏にお話を伺いました。

古田 大輔(ジャーナリスト/メディアコラボ代表)
2002年朝日新聞入社。社会部、シンガポール支局長などを経て、デジタル編集部。2015年に退社し、BuzzFeed Japan創刊編集長に就任し、3年で国内有数のネットメディアに。2019年に独立して株式会社メディアコラボを設立、ジャーナリスト/メディアコンサルタントとして活動。主な役職にインターネットメディア協会理事、ファクトチェック・イニシアティブ理事、ONA Japanオーガナイザーなど。

―――最初にこれまでのご経歴を伺えますでしょうか?

2002年に朝日新聞に入社して、地方勤務や社会部を経て海外特派員になりました。東南アジアへの赴任だったのですが、彼らの方がデジタル化している事例に驚きました。日本に戻ってからはデジタル編集部に所属しましたが、新聞社という紙に特化した巨大な組織の中でデジタルに取り組むには課題が多いことに気づきました。そのころ、ニューヨーク・タイムズがまとめたデジタル改革のための「イノベーション・リポート」を読み、その中で取り上げられていたバズフィードを取材した事がきっかけで、日本版立ち上げのための初代編集長として加わりました。

バズフィード日本版には3年半在籍して2019年に退職し、メディアコラボという会社を立ち上げました。名前から分かるように、これからのメディア作りにはコラボレーションが欠かせないと考えています。海外では業界団体や協会が多数あり、草の根での情報交換も盛んです。日本でもメディア業界関係者が助け合う土壌を作りたいと考えて、Online News Association日本支部、日本インターネットメディア協会、ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)などの活動にも参加しています。

―――今のメディアを取り巻く環境をどのように捉えられていますか?

バズフィード日本版は2016年1月にローンチしたのですが、3年半の在籍中にメディア環境は激変しました。2016年当時はソーシャルの拡散力で一気に成長するメディアが続出し、その代表格がバズフィードでした。最初はテキストで、次に動画で、急成長するミレニアル世代に巨大なリーチを取ったデジタルメディアが次のマスメディア的な存在になるという論調がありました。特にFacebookの動画では1本で1億PVを超える視聴回数を数えるものも稀ではありませんでした。

それが逆回転したのが2016年のアメリカ大統領選挙でした。ソーシャルの拡散性を悪用したプレイヤーが、信頼性のあるメディアを上回るリーチで選挙を撹乱しました。いわゆる「フェイクニュース」問題です。ビジネスモデルの面でも膨大なリーチはあるものの広告収入は伸び悩みました。プラットフォームへの利益の集中、乱立するメディアに対し、マーケットの成長に限界がありました。デジタルの世界でも巨大なリーチを獲得して、プレイヤーが少なかった時代のマスメディアモデルでビジネス化するのは難しいという事が明白になりました。

この流れを受けて、2017年頃からの議論は「信頼性」と「収益性」になってきました。追い風となったのが、ここ2,3年でエンゲージメントを分析する環境が整ってきた事です。信頼性のあるコンテンツで、ユーザーのエンゲージメントを高める事が、サブスクリプションなどに繋がり、収益性を向上させる事が分かってきました。ここで勝ちパターンを見つけたのがニューヨーク・タイムズですが、その課題も分かってきた、というのが現在だと思います。

―――講演ではどういった話を期待すれば良いのでしょうか?

ニューヨーク・タイムズの躍進の契機となったのが先程も紹介した「Innovation Report」です。社内用のリポートですが、BuzzFeedがすっぱ抜いて世界中に公開されました。デジタルの新興勢力に押され、身売り寸前と言われたニューヨーク・タイムズが現状を分析し、メディアとして進むべき指針をまとめた超大作です。6年がたった今も、メディアのデジタルトランスフォーメーション(DX)の要諦は全てここに書かれていると言っても過言ではありません。

英語でとっつきにくいという人のために、詳しい解説記事を連載したこともあります

「Innovation Report」が提示したのは、自分たちのコアコンピタンスを理解した上でのDXの重要性です。メディアに限りませんが、自分たちの強みを捨ててDXに走る例が散見されますが、それは上手くいきません。インターネットに挑戦するからとって、信頼性をウリにしていたメディアが、PVモデルで収益化しようとしてそれまでと路線が違うバズ狙いの記事を量産しても難しいでしょう。そうではなく、本質とは何かを見つめなおす必要があります。

英語という事もあって、まだまだ読まれてない方も多そうで、とても勿体ないので、この機会にぜひ改めて開いてみて議論できればと思っています。

―――楽しみにしています。最後に古田さんから見てメディアにおけるチャンスはどのような部分にあるとお考えでしょうか?

情報は世の中に絶対に必要なものです。メディアはその情報のプロですから、存在意義がなくなる事はありません。僕は、きちんとしたサービスで、世の中に貢献できれば正当な対価が支払われる社会だと考えているという意味では楽観的です。なので、チャンスは幾らでもあると思います。

メディアには大きなチャンスがある一方で、既存のメディア企業にとっては大変な状況である事も事実です。デジタルの良さは小さい投資で成長できる可能性が多いにある事です。ただ、巨大組織になった旧来のメディア企業を支えるだけの収入を生むのは一朝一夕にはいきません。それはニューヨーク・タイムズの6年間を振り返れば明確です。実際には血を大幅に入れかえるくらいのリストラと採用をやっているわけです。コアコンピタンスは変えずに、でも全く異なる会社になるくらいの覚悟は必要でしょう。

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Manabu Tsuchimoto
デジタルメディア大好きな「Media Innovation」の責任者。株式会社イード。1984年山口県生まれ。

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