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報道が良質な情報を届け続けるためには? JX通信社 米重社長・・・メディア業界2021年の展望(5)

新型コロナウイルスによって平時と全く異なる一年となった2020年。みなさんにとってはいかがだったでしょうか? そして2021年に向けてどのような事を取り組んでいくのでしょうか? 今年もMedia Innovationで大変お世話になった皆様に今年の振り返りと来年への展望をお聞きました。「メディア業界2021年の展望」全ての記事を読む。

テクノロジーで報道の課題を解決することを目指すJX通信社。災害・事故情報などを速報する「FASTALERT」や、高い精度で知られる世論調査、速報に強みを持つニュースアプリ「NewsDigest」などを展開します。代表の米重氏は報道研究家としても知られます。今年は1月の「Media Innovation Meetup #11 AIでメディアはどう変わるか」や4月の「#14 コロナウイルスの中でメディアはどうあるべきか?」に登壇いただきました。

米重克洋
株式会社JX通信社 代表取締役社長、CEO、報道研究者
1988年8月、山口県生まれ。2007年、私立聖光学院高等学校(横浜市)卒業後、学習院大学経済学部に進学。2008年1月に当社設立。中学・高校時代に航空業界専門のニュースサイトを運営した経験から「ビジネスとジャーナリズムの両立」という課題に着目。

2020年はメディア業界にとってどのような年だったでしょうか?

特にニュース分野に絞り込んで述べると、コロナ禍でビジネスモデルやコンテンツのあり方を根本的に見直さざるを得ない、大きな局面転換の年になりました。

いわゆるレガシーメディア(特に新聞社)の新規事業は、従来、特に本業に寄与するものでもなく、資産や持てる強みを活かせるものでもない、いわば「士族の商法」のようなところがありました。言い換えると、社員が思いついたものを気ままに試してみるような「余裕」が感じられたものです。

今年は、その余裕が無くなってきたことで、より「メディアがビジネスとして持続可能なしくみを作る」という、本質的な課題解決への集中が見られるようになりました。例えば紙面とデジタルの統合編集の拡がりや、メンバーシップの数の最大化をKPIとしたと思しき様々なコンテンツフォーマットの展開など、ユーザーの目に見える変化が進んだと感じます。

このながれは人の動きにも出てきています。レガシーメディア「から」デジタルメディアに行くのではなく、逆にデジタルの世界からレガシーメディア「に」飛び込む人の動きが目立ちました。このながれをとても嬉しく思っています。

メディアのビジネスモデルをごくごく単純化して捉えれば、ユーザーの滞在時間を仕入れて、最大効率でお金に変換する、というものです。その変換手段は広告でも課金でも良いのですが、既存ユーザーの満足度を高めながら、新規ユーザーを呼び込む力のあるコンテンツと、そのコンテンツを継続的に生み出せるだけのエコノミクスが必要です。そこを作りきれないとどこかで力尽きるので、その課題解決に経営資源を集中させていくのは良いことだと思っています。

ただ、こうした動きが地方にはまだ今ひとつ拡がっていないように見えるのは残念です。

ネット空間の「ニュース」は未だ多くが東京発です。ローカルな情報の取材や発信は、当然その地のローカルメディアに強みがあります。ここを東京発、もしくはアメリカ発のプラットフォームに総取りされる前に、ネット、とりわけスマートフォンでの滞在時間最大化とマネタイズという争いに食い込めるチャンスがまだあると思っています。今なら間に合わないこともありません。

これからのメディアに求められること、直面する課題はどういったことでしょうか?

前項の課題は、業界にとって過去20年変わらず課題であり、今後も当分課題であり続けると思いますが、それとは別の課題を1つ挙げたいと思います。
それは、デマやフェイクニュース、陰謀論の流通をめぐる課題です。

私も身近な人に「アメリカ大統領選は不正選挙だった、と聞くけどどうなの?」などと意見を求められることが増えました。正直1人2人なら歯牙にもかけないところですが、かなりの頻度で聞かれました。TVで発言する芸能人コメンテーターの発言にも、陰謀論の影が見て取れることが増えました。こうした体験から、我々が思っている以上に、消費者は非伝統メディアからの陰謀論やデマ、フェイクニュースを浴びているという危機感を覚えています。デマやフェイクニュースを一定以上浴びることで「そういうことが本当にあったかもしれない」「マスコミが報じないのは何か不都合や陰謀があるからでは」と多くの消費者がうっすら思い込み始めているかもしれません。まさに嘘も100回言えばなんとやら、という状態です。

こうした誤情報や陰謀論はSNSをはじめとするプラットフォームを通じて流通しています。したがって、これらプラットフォームのモデルの再構築が必要です。

プラットフォームのモデルとは、具体的にはアルゴリズムとデータで読者に自分好みの情報を見せ続けて、滞在時間とその収益変換効率を最大化するものです。読者が引き込まれるほど、滞在時間が増えて蓄積・活用できるデータも加速度的に増えます。このため、経時的に滞在時間や収益変換効率にストレッチをかけやすくなっていきます。いわばデータ資本主義的な状態です。

これによる弊害、社会的な問題が増幅してきたのが、先に述べたような今日の状況だと考えています。

このモデルで消費者をフィルターバブルに閉じ込める以外の方法で、経済合理性を担保するモデルの開発が必要です。このニューモデルが、民主主義社会を持続可能な状態にするには必要不可欠だと考えます。

ニューモデルを構築せず、消費者をバカにして上から目線で説教するようなアプローチでは物事は何も変わりません。社会全体のリテラシーの水準を高めるには、数世代分の時間と莫大な教育資源の投下を要します

同様に、プラットフォームを政治的に恫喝するアプローチもまた、問題解決に寄与しません。他に代替できるモデルがない以上、従来どおりの商売を多少マイナーチェンジしながらも続けるしかないからです。

パブリッシャーやプラットフォームが「正確な情報や多様な言論をバランスよく読者に届けながら、従来以上に収益性を担保できる仕組み」を皆で考えて、作っていく必要があります。かくいう私もその課題に対する解は持ち合わせていないのですが(だからこそここで提起しています)、その手段としてテクノロジーが必要不可欠であることには疑いの余地がありません。

2021年に取り組みたいと考えていることはどういったことでしょうか?

前の2つの項目でそれぞれ課題を挙げましたが、我々JX通信社なりの解決策として「多くの消費者が無料で良質な情報源にアクセスできるエコノミクス」の実現に取り組みたいと考えています。

有料課金サービスで商売が成立するだけでは、上記で述べてきたような課題を解決しきれません。このご時世で未だにニュースにお金を払える余裕のあるごくごく一部の人にしか、声が届かないからです。

サブスクリプションのながれ自体はとても重要で、決して否定するものではありません。サブスクリプションは、コンテンツではなく「サービス」としてのニュースの価値を見直すうえでも重要です。その前提を明確にしたうえで、その先の課題の解決に取り組みたいと考えています。

そのひとつは広告モデルのアップデートです。弊社が提供するニュース速報アプリNewsDigestは、2020年はMAUが前年比4倍以上の規模に成長し、規模のうえでは先行する大手ニュースアプリに近づいてきました。が、従来からの広告モデルには大きな課題を感じています。具体的にどのような課題を特定していて、どう解決するかは企業秘密なので書けませんが、他のメディアにも展開できるようなモデルづくりを意識して取り組みます。

結果、多くの消費者が、自分の求める正確なニュースをリアルタイムに且つ無料で受け取れる仕組みを、長期的に持続可能な形で構築したいと考えています。

この課題は遠大なので、2021年中、つまりあと400日足らずで解決する見通しはありません。JX通信社は「報道ベンチャー」ですので、ベンチャーらしくスピード命で取り組みますが、途中小さな失敗を何度も繰り返すでしょう。それは分かったうえで、気長に取り組んでいきたいと思っています。

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Manabu Tsuchimoto
Manabu Tsuchimoto
デジタルメディア大好きな「Media Innovation」の責任者。株式会社イード。1984年山口県生まれ。

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