「WIRED SZ Membership」「VOGUE GIRL+」コンデナストのサブスクを支えるプロダクトマネージャーという役割・・・「進化するサブスク」#6

Media Innovationの2021年3月特集は「進化するサブスク」。今やメディアにとって最重要のビジネスモデルに位置付けられつつあるサブスクリプション。国内でもトライするパブリッシャーが増加し、今までのようにビジネスパーソンに訴求する以外のメディアも増えてきました。いまサブスクに起きている変化は、そして未来は、考えていきたいと思います。31日にはイベントも開催します!

グローバル・メディア企業であるコンデナスト。「VOGUE」「VOGUE GIRL」「GQ」「WIRED」といった強力なブランドを擁し、近年では大戦略としてコンシューマービジネスの拡大に力を注ぎます。日本法人のコンデナスト・ジャパンでも「WIRED」そして「VOGUE GIRL」でサブスクリプションのサービスを開始しています。

そんな同社でサブスクリプションのサービスを牽引するのが、メディアを「プロダクト」と捉えてアプローチするプロダクトマネージャーという役職だそうです。2つのメディアのサブスクリプションの現状も含めて、コンデナスト・ジャパンの牛木裕美氏と高橋努氏にお話を伺いました。

コンデナストのサブスクリプションを牽引するプロダクトマネージャーとは

―――お二人の肩書を見ると、日本のパブリッシャーでは余り見かけない「プロダクト」というタイトルがありますが、どういった仕事をされているのでしょうか?

牛木: コンデナスト・ジャパンではオーディエンスグロースとGlobal Product and technologyいう組織の中にプロダクトデベロップメントというチームがあり、そこに所属しているのが高橋などのプロダクトマネージャーです。

編集部が制作する優れたコンテンツに対して、リーチ最適化、ブランド価値最大化、といったマーケティング視点でアプローチする役割です。手法としてはWebマーケティング的な手段、プロダクト改善、提携やアライアンス、広告出稿まで非常に広い活動領域があります。

編集部がメディアをコンテンツとして捉えるのに対して、プロダクトマネージャーはメディアをプラットフォームプロダクトとして捉えて、短期、長期の両方の視点を持って成長のためのアプローチをしていく役割と理解していただければ良いと思います。

―――どういった人がプロダクトマネージャーとして向いているのでしょうか?

牛木: 要件は非常に難しく、サービスへの愛やコンテンツ理解がありながら、専門的なデジタル知識が求められます。デジタルマーケティングのバックグラウンドは必須で、コンテンツマーケティングもしくは開発のスキルのどちらかを求めています。

いまコンデナストには「Vogue」「VOGUE GIRL」「GQ」「Wired」でそれぞれ1名ずつのプロダクトマネージャーが在籍しています。それぞれ個性は異なりますが、高橋はUI/UXのプロフェッショナルとして高い専門性を持っています。

―――米国ではパブリッシャーにプロダクトマネージャーという肩書が増えていると聞きます。コンデナストではいつ頃から生まれたのでしょうか?

牛木: 私が入社した当初はウェブプロデューサーという肩書でした。その後に、以前在籍していたリクルートに倣ってメディアプロデューサーに変えました。プロダクトマネージャーという名称に変えたのは3年ほど前からで、実は本社にはそういう肩書はありませんでした。ただ、「プロダクト ●●」というタイトルを持った人が今では多数いて、非常に重要視されています。

プロダクトマネージャーはテック企業では花形で、文字通りプロダクト=サービス全般を取り仕切る仕事です。編集部はコンテンツ制作に優れていますが、それだけではテクノロジーをベースにしたメディアを成長させる事は出来ないと思います。編集部のやりたい事も含めて、プロダクトに落とし込んで成長を導くのが私達の仕事です。

グローバルでサブスクリプションに取り組むコンデナスト

―――「WIRED SZ Membership」そして「VOGUE GIRL+」とサブスクリプションの導入が続きましたが、どういった背景があったのでしょうか?

牛木: コンデナストのグローバル全体の戦略としてコンシューマービジネスの収益化が重要なミッションとなっています。その先陣を切ったのが日本では「WIRED」ということになりました。

高橋: 「WIRED」はロングリード(長文)のコンテンツや海外の翻訳記事を中心に、テクノロジーを中心とした最新事例やインサイトを提供するメディアですので、自然とサブスクリプションサービスの着想を得ました。グローバルと異なるのは、専用のカテゴリを設けてパッケージ化した事です。更に付加価値をもたせるために雑誌のPDF版の配布や、ウェビナーの開催などを打ち出しています。

WIREDのサブスクリプションサービス「WIRED SZ MEMBERSHIP

―――サブスクリプションを始めて想定外だった事はあるでしょうか?

高橋: 幾つかの特典をパッケージにしたのですが、記事を読むことを最重要視するユーザーが多数だったのは驚きでした。ニュースレターは登録時にオプトインした方だけに配信をしていますが、9割以上のユーザーに購読されていて、非常に高い開封率とクリック率を誇ります。これは「WIRED SZ Membership」のコンテンツに高い評価を貰えている現れだと思います。

牛木: サブスクリプションを始めた事で改めてブランド価値が明確になったと感じます。「WIRED」にならお金を払ってもいい、というユーザーがこれだけ多くいたというのは嬉しい驚きですし、未知の世界に挑戦するビジネスパーソンにとって先進的なアイデアやインサイトを届ける「WIRED」が不確かな未来への希望になっているのではないかと感じています。

―――具体的にはどのようなコンテンツが人気なのでしょうか?

高橋: 先進的な内容を扱うからか、「WIRED」は記事の寿命が非常に長いという特徴があります。サブスクリプションは2019年10月にスタートしたのですが、初期に配信した記事でも、今でも読まれ続けているという記事が多く存在します。

例えば、実現が困難なアイデアに向かう「ムーンショット」という考え方についての記事や、「数学の魔術師」と呼ばれるシュリニヴァーサ・ラマヌジャン氏についての記事、ヴィーガニズムが意外に地球に優しくないという記事などです。ビットコインの記事なども定期的に読まれます。

―――マーケティングはどのように取り組まれてきたのでしょうか?

牛木: まずは低コストで始めてみよう、という考え方でスタートしていますので、プロモーションのコストが実は殆どありませんでした。ただ、今後は投資していきます。

高橋: 地道なコンテンツ施策、編成の工夫でユーザーを集めてきたのが最初の一年間でした。ただ、データも溜まってきていますので、今後は大きく広げていく事を考えています。

ライフスタイルならではの難しさ、「VOGUE GIRL+」 の挑戦

―――続いて「VOGUE GIRL+」でサブスクリプションを導入した背景を教えてください

牛木: 実は「WIRED」と似た課題感なのですが、「VOGUE GIRL」では従来は高いブランド価値を生かした高単価な広告ビジネスを展開してきました。広告ビジネスは継続しつつも収益を多様化しエコシステムを構築するにはどうしたら良いかというのが課題でした。その一つのアプローチとしてユーザーからの収益を得るサブスクリプションに挑戦したということです。

VOGUE GIRLのサブスクリプションサービス「VOGUE GIRL+

―――提供するコンテンツはどのように考えられたのでしょうか?

牛木: 「VOGUE GIRL+」のようなサブスクリプションはグローバルでも先進的な試みなので、グループインタビューなどは試みましたが、まずは一歩を踏み出さなければ、という側面が強かったように思います。

コンセプトとしては女性が安心できるコミュニティを掲げています。メディアの世界においても男性優位は長くて、女性誌といっても「男性に良く見られたい」「モテる為に綺麗になりたい」といった男性視点の考え方が強かったように思います。「VOGUE GIRL+」はそうではなく、自己実現のビューティのためのコミュニティで、変に上昇志向を煽るわけではなく、ダイバーシティを後押ししながら、そこに集まる人が安心して過ごせるようなコミュニティを作っていきたいと思っています。

具体的な構成要素としては、ビデオ、ライブ、ウェビナーなど新しいフォーマットで、しかもスマホ画面で映えるクリエイティブという今までと全く異なるものが必要になっていますので、まさに試行錯誤をしている段階です。

―――スタートして一ヶ月、どのような反響が寄せられているでしょうか?

牛木: 「WIRED SZ Membership」のようにビジネスに直結したニュース性のあるものとは大きく異なり、得られる価値の金額換算が難しいライフスタイル領域でお金を払って貰うのは、とても難しい挑戦だと捉えています。ただ、初動は順調で、想定通りのコンテンツがヒットしユーザー獲得ができています。とはいえ、まだ十分な量のコンテンツは届けられておらず、まだ手探りの段階です。

海外チームからの反響はとても大きく、LINEというプラットフォームを活用して低コストにスピード感を持ってサブスクリプションを立ち上げるという戦略は良かったと思います。ただ、プラットフォームや戦略が良くてもコンテンツが無ければ絵に描いた餅ですので、まずはそこに注力しています。

―――こちらはどのようなコンテンツが人気なのでしょうか?

牛木: 「VOGUE GIRL」の元々の人気コンテンツである「しいたけ占い」の個人鑑定が受けられるチャンスがあるという企画は人気です。中条あやみさん、池田エライザさん、佐久間由衣さんといった人気女優たちのここでしか読めない豪華な連載も人気ですね。会員限定のクローズドな場なので、キャスティングが大変なのですが、ウェビナーのような双方向の場も今後は力を入れていきます。

◆ ◆ ◆

―――最後に、今後のチャレンジについて教えてください

高橋: 繰り返しになりますが、「WIRED」のサブスクリプションはサービス開始から一年が経ち、様々なデータが溜まってきましたので、よりユーザーの行動を可視化しながら、どういったユーザーに何が求められているのか興味関心を軸にしながら、よりパーソナライズされたウェビナー、ニュースレター、コンテンツ、サービスに変えていけないかと思っています。また、それをより高い質で提供していくのも引き続きの課題だと考えています。

牛木: チーム全体を見る私の立場からは、サブスクリプションはタスクフォース的にチームが組まれ運用してきました。ただ、フェーズによって体制は異なるべきだと思いますので、最適化していくのが今後の課題だと思います。また、「VOGUE GIRL+」のようなライフスタイルのサービスではコンテンツフォーマットの最適化が鍵になると思いますので、ここの試行錯誤を続けていくのと、「WIRED SZ Membership」ではどうマーケティングを仕掛けていくか、この辺りが今後の挑戦だと考えています。

特集: 進化するサブスク(2021年3月)

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Manabu Tsuchimoto
Manabu Tsuchimoto
デジタルメディア大好きな「Media Innovation」の責任者。株式会社イード。1984年山口県生まれ。

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