ニュースルームは「没入型ジャーナリズム」をどう活用する?・・・BBC、El Paísなど世界のメディアの取り組みを紹介

ロイター研究所は、出来事やシチュエーションを一人称で体験できる没入型ジャーナリズムに関して、好例と呼べる5つの事例を紹介しました。VR(Virtual Reality)、AR(Augmented Reality)を活用したこの分野は、2015年から2016年にかけて盛り上がりましたが、ニュースルームへの導入は伸び悩んでいます。

著者は、没入型ジャーナリズムをニュースルームの持続可能な事業にする方法を探っており、紹介した事例からそのヒントを得たいねらいがあるようです。今回、BBC、El Paísなどの世界各地のメディアが実践した5つの事例を紹介していきます。

ソーシャルメディア体験を模したニュースストーリー

ノルウェーの新聞社Verdens Gangは記事作成の方式について、編集者に大きな自由を与えています。その結果生まれたのがソーシャルメディア体験を模したニュースストーリー「Tinder Swindler」です。これはマッチングアプリTinderで若い女性を誘惑して大金を騙し取った男性についてのストーリーとなっており、スクロールするごとに動画や画像とともに語りかけが現れる全く新しい方式となっています。

スクロール型ニュースストーリー「Tinder Swindler」

この表現はTinderの使用体験に似た構成であり、まさにストーリーそのものを当事者視点で経験できる没入型ジャーナリズムと言えるでしょう。同社は、このフォーマット用の社内ツールを開発し、別の記事「Den digitale blotteren」も作成しました。こちらでは、未成年者に性的な画像を送りつけた犯罪者についての取材、被害者へのインタビューがSnapchatを模したフォーマットで展開されていきます。

これらの記事は、そのユニークさからニュースルーム内外で多くの評価を受けたといいます。

VR体験に対するオーディエンスの効果測定

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BBCは2017年にアフリカのコンゴ川でのVR体験を作り出し、オーディエンスへ向けて公開しました。BBCの制作チームは、参加者に対して、その場と3カ月後で2回のアンケートを行い、この体験がどれだけ記憶に残るものであったかを調査しました。

結果、参加者はアフリカのキンシャサ駅に「立っていた」ことを思い出し、自発的に話してくれており、チームの予想通り非常に記憶に残る経験であったと分かりました。このように、没入型ジャーナリズムを経験したオーディエンスへの効果測定は、その可能性や課題を浮き彫りにしてくれると言えるでしょう。

新興プラットフォームにおける没入体験

ガーディアン紙のVR部門 元編集長であるフランチェスカ・パネッタ氏は、AIとコンピュータグラフィックスで作られ、Instagram上に登場したバーチャルインフルエンサーのSylviaを紹介しています。アーティスト兼デザイナーのジブ・シュナイダー氏によって制作されたこのキャラクターは、不定期更新のプロジェクトとしてリリースされ、実社会における若さへの執着・強迫観念やインフルエンサー文化を解説することを目的としていました。

Instagram上の「バーチャルインフルエンサー」Sylviaは、毎月10歳ずつ年を重ねていき、昨年11月に亡くなった

写真とともに投稿されたメッセージには、事実とフィクションが織り交ぜられており、高いインタラクティブ性を持っていると評価されています。InstagramやTikTokなど新興プラットフォームでは全く新しい試みがあり、ニュースルームも参考にしてみる価値があるのでは、と述べられています。

新しいジャンルへの挑戦

スペインの有名紙El Paísは新型コロナウイルスによるパンデミック下で、独自の3Dモデルを使い、ウイルスが空中でどのように拡散するかを表現しました。また、前述のノルウェー紙 Verdens Gangが作った新型コロナウイルスの感染状況を表す独自のビジュアルは、ユーザーから高い評価を得ました。

没入型ジャーナリズムでは、新聞の一面を飾るような思いテーマが取り上げられがちですが、ライフサイエンスなどの身近なテーマにも適していると著者は言います。

質問形式を取り入れたストーリーテリング

フィンランドの大手日刊紙Helsingin Sanomat「人生の原料」というタイトルの記事を発表しました。この記事は、ユーザーが質問に回答していくことで、独自のパーソナライズ化されたストーリーが生成されるものとなっています。

「あなたが生まれたときに両親のどちらかは20歳未満でしたか」など、どのような家族に生まれたかから始まり、子供時代とその後についての質問へと進んでいきます。そうして、社会で生きていくことに対し子供時代の経験や状況がどのように影響を与えていたかが説明されます。これは、読者の経験を中心に置きつつ、社会的な地位の問題を結びつけることができるため、読者はより没入感のある体験をすることができると言えるでしょう。

テキストに留まらない、ユーザーを巻き込むための工夫が凝らされたストーリーテリングを生み出すことができれば、ますますデジタル化が進むニュースルームの新しい武器となることで

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【12月6日更新】メディアのサブスクリプションを学ぶための記事まとめ

デジタルメディアの生き残りを賭けた戦略の中で世界的に注目を集めているサブスクリプション。月額の有料購読をしてもらい、会員IDを軸に読者との長期的な関係を構築。ウェブのコンテンツだけでなく、ポッドキャストやニュースレター、オンライン/オフラインのイベント事業などメディアの立体的なビジネスモデルをサブスクリプションを中核に組み立てていく流れもあります。

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