「なぜペイウォールは有効なのか」革新的なパブリッシャーから学ぶ、ペイウォールの必要性と種類・・・レポート「パブリッシャーのためのペイウォール」【前編】

What’s New in Publishingは、ペイウォール戦略でパブリッシャーを支援することを目的とするレポート「パブリッシャーのためのペイウォール(PAYWALLS FOR PUBLISHERS)」を発表しました。同レポートは、世界中の革新的なパブリッシャーの事例や専門家の見解を含む次の内容をまとめています。

1.なぜペイウォールが有効なのか
2.ペイウォールの種類
3.画一的なアプローチを超えたダイナミックペイウォール
4.ファーストパーティデータの活用
5.組織の意識改革
6.ペイウォールの次の展開

同レポートの内容を前半と後半に分け、前半では1、2を紹介します。

1.なぜペイウォールが有効なのか

パブリッシャーの未来は多様な収益ポートフォリオにかかっており、読者からの直接収入がますます重要な役割を果たすようになっています。この1年半で、ほかでは手に入らない信頼性の高く有益で独自性のあるコンテンツに料金を払いたいと読者が思っていることが明らかになりました。それを裏付けるデータとして、多くのパブリッシャーが新型コロナウイルスに関するコンテンツを有料化したにもかかわらず、トラフィックと購読者数が大幅に増加したことが挙げられます。

また、米国および英国の読者を対象にオンラインニュースを購読する理由についてアンケートをとったところ、両国共に独自性のあるジャーナリズムを重視しており、購読する理由として「無料のニュースよりも質の高い情報を得られるから」という回答が最も多くなったとのことです。

オンラインニュースを購読する理由(What’s New in Publishingのレポートより)

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全体として、サブスクリプション・エコノミーは過去9年間で6倍近く(435%以上)に成長しました。サブスクリプションを採用しているパブリッシャーは、2020年には世界全体で16%の収益増を達成しています。その後、収益増加率は横ばいになったものの、新規購読者の定着率は良好です。

現在、コンテンツの有料化を検討しているパブリッシャーは増えていますが、読者を失うことや広告収入が減ることへの不安によって有料化のメリットが軽減しています。

小規模なパブリッシャーは英国の日刊新聞タイムズのような大手パブリッシャーと読者の獲得を巡って競合しなくてはならないことを懸念しています。しかし調査によると、読者はローカルニュースやニッチなコンテンツに料金を払うことに前向きであることが分かっています。

2.ペイウォールの種類

ペイウォールにはさまざまな種類があり、ハードペイウォールとソフトペイウォールに大別されます。

購読しないとコンテンツにアクセスできないハードペイウォール

ハードペイウォールは、訪問者が購読せずにコンテンツにアクセスすることができず、リスクの高い戦略であるため利用しているパブリッシャーはわずかです。ニッチな分野で市場を独占しているパブリッシャーや、高度に差別化された製品を有するパブリッシャーに有効といえます。エコノミストウォール・ストリート・ジャーナルフィナンシャル・タイムズなどは、ハードペイウォールの導入に成功したパブリッシャーです。

これらは世界的に有名なパブリッシャーですが、2013年に運用が開始されたテクノロジー・ビジネス関連のニッチなニュースサイト「インフォメーション」は、年間399ドル(約4万4,000円)という高額な購読料にもかかわらず、ハードペイウォールを導入して3年で黒字化を達成しました。The Informationの成功は、ニッチで独創性があり高品質なコンテンツの組み合わせが、ハードペイウォール戦略を成功に導く基盤となることを強調しています。

パブリッシャーの設定に基づき一部コンテンツにアクセスできるソフトペイウォール

ソフトペイウォールとは、パブリッシャーが設定した条件に基づいて、読者が一部のデジタルコンテンツにアクセスできるようにするものです。一般的に使用されているペイウォールのほとんどがこのカテゴリーに属します。

ソフトペイウォールの中でも最も一般的なのが、読者が一定数の記事に無料でアクセスした後に支払いを要求する「メーター制ペイウォール」で、大量のコンテンツを制作するパブリッシャーに最適です。たとえばWiredでは、月に4記事を無料で閲覧でき、それ以上の記事を閲覧したい場合は購読する必要があります。

このような戦略により、読者はコンテンツの質の高さを実感でき、購読する可能性が高まります。それを裏付けるデータとして、ジャーナリズム調査機関のアメリカン・プレス・インスティテュートのメディア・インサイト・プロジェクトが実施した調査によると、新規購読者の47%は、気に入っているサイトの無料記事を読み終わった後に購読者登録をしていることが判明したとのことです。

無料コンテンツにアクセスするために、読者にメールで登録・ログインしてもらうことも重要です。なぜなら、読者のサイト内での行動を把握することで、読者をより深く理解してパーソナライズされたコンテンツを提供でき、購読してもらうことにつながるからです。

米新聞大手ガネットと合併した米新聞大手ートハウス・メディアはこの戦略を取っており、登録したユーザーが購読者になる確率は、未登録のユーザーに比べて4倍になることが判明しました。

ソフトペイウォールのバリエーションとして、ほかにも以下のようなものがあります。

・フリーミアム
無料とプレミアムの両方のコンテンツを読者に提供するもので、すべてのコンテンツを平等に扱うメーター制ペイウォールよりも優れていると考えるパブリッシャーもいる。より価値のあるコンテンツにペイウォールを設けることで、ほかでは得られない独自のジャーナリズムにアクセスするために読者は購読する。一方で無料コンテンツは、より多くの読者にパブリッシャーを知ってもらうことができ、広告収入も得られる。フリーミアムは、独自性のあるコンテンツを強みとするパブリッシャーに最適で、価値あるコンテンツを強調するのに役立つ。

・ハイブリッド
メーター制ペイウォールとフリーミアムの両方の特徴を兼ね備えたもので、読者の行動に応じて無料で閲覧できる記事数の上限を変更したり、購読者限定のコンテンツを提供したりする。USAトゥデイを発行するガネットはハイブリッドモデルを採用しており、全コンテンツのうち約10~20%が購読者向けとなるようペイウォールが設けられている。

フランスの地方紙であるLe Parisienはハイブリッドモデルを採用し、2020年にデジタル購読者数を倍増させた。購読者のみが閲覧できるプレミアム記事の数は、2020年初めには1日10本だったが、2020年末には1日50本にまで増加したとのこと。この戦略がうまくいき、新規購読者の90%がプレミアム記事を経由している。

・タイムウォール
記事公開後1時間などの一定時間はコンテンツを無料で提供し、その後は有料化するというもの。米アイダホ州を拠点とするローカルニュース「Boise Dev」は、タイムウォールモデルにより数万人の読者からの収入を得られたとされている。

そのほかにも一部のパブリッシャーでは、設定条件にかかわらずコンテンツにアクセスできるよう、リーク型またはポーラス型のペイウォールを使用しています。リーク型またはポーラス型の例として、ユーザーがソーシャルメディアや検索エンジンを経由してコンテンツにアクセスする場合や、ブラウザのシークレットモードを使ってアクセスする場合などに無料でアクセスできることが挙げられます。

新型コロナウイルスで見られたように、ニュース速報や災害関連の記事など、社会的重要性の高い記事について有料化を解除する場合もあります。このような戦略により、さらに多くの読者にアプローチすることが可能です。

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【12月6日更新】メディアのサブスクリプションを学ぶための記事まとめ

デジタルメディアの生き残りを賭けた戦略の中で世界的に注目を集めているサブスクリプション。月額の有料購読をしてもらい、会員IDを軸に読者との長期的な関係を構築。ウェブのコンテンツだけでなく、ポッドキャストやニュースレター、オンライン/オフラインのイベント事業などメディアの立体的なビジネスモデルをサブスクリプションを中核に組み立てていく流れもあります。

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Yuka Hirose
Yuka Hirose
ライター・翻訳者。大学で工学を学び精密機器メーカーで勤務ののち、2020年に独立。群馬県出身。

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