Webサイトに投稿された小説や漫画を書籍化する株式会社アルファポリスの2021年3月期の業績が好調です。売上高は前期比37.4%増の77億3,500万円、営業利益は48.0%増の21億6,300万円となりました。2019年3月期の売上高は18.1%増、2020年3月期が13.1%増と10%台で成長していましたが、30%以上もの増収となったのです。営業利益も25.9%から28.0%に急改善しました。
■アルファポリス業績推移(単位:百万円)


2021年3月期に売上高が急伸したのは、ライトノベルや漫画に強みを持つ株式会社KADOKAWAの出版事業も同じでした。数%の増加率で推移していた売上高が、10.5%増の1,295億7,600万円と二桁増になりました。
■KADOKAWA出版事業売上高推移(単位:百万円)


2020年3月ごろから本格化し始めた新型コロナウイルス感染拡大で消費者に行動制限がかかり、巣ごもり需要が生まれました。ライトノベル、漫画は特需の影響を受けたものと考えられます。アルファポリスもその恩恵を受けて売上高、営業利益を大きく伸ばしました。しかし、2022年3月期の売上高は前期比20.2%増の93億円、営業利益は10.9%増の24億円とやや弱気の予想を出しています。予想通りに着地をすると、営業利益率は28.0%から25.8%まで2ポイント以上落とすことになります。
アルファポリスは小説投稿サイトで人気が出たものを書籍化する、「なろう系」をビジネスの柱に据えた稀有な会社です。しかも、2015年5月に立ち上げたゲーム事業を2018年1月にグループ会社に譲渡し、事業を1つに絞り込みました。ライトノベルはヒット作に業績が左右されやすく、安定的な成長が難しい分野です。アルファポリスはどのような成長戦略を描いているのでしょうか。
ヒット作を生み出すシステムを構築
アルファポリスは2000年8月創業。創業者の梶本雄介氏は東京大学工学部出身で博報堂に入社した後、アルファポリスを設立しています。創業当時からインターネットで人気が出た作品を書籍化するビジネスを展開していました。理系出身で博報堂に就職した経歴を活かし、Webサイトの構築、プログラミング、編集、営業などマルチな才能を活かして、日本テレビ系列でドラマ化もされた「THE QUIZ」や「ゲート」などのヒット作を連発します。2014年10月に東証マザーズに上場しました。
出版事業は、作家のセンス、編集者の勘や力量、時代の空気を読む力など、定量化しにくい領域でした。いくらマーケティングや広告に費用をかけたとしても、必ずしもヒット作に繋がるわけではなく、たった1つを世に送り出すのも至難の業でした。その点、Webサイトに投稿された小説や漫画は、すでにユーザーの評価がついており、PV数や読了率などをもとにしてどれだけ読まれているかが定量的に把握できます。
アルファポリスは編集者の勘や時代の空気といった文系の領域を可視化し、ヒット作を生み出すシステムを構築しました。「とある魔術の禁書目録」や「ソードアート・オンライン」のような数千万部のホームラン級の作品を世に出すというよりも、ニッチ層を狙って外さない、正にヒット作を送り出すことを得意としています。
[MMS_Paywall]
■2021年4-6月のライトノベルヒット作

■2021年4-6月の漫画ヒット作

ライトノベルは人気がひと段落すると漫画化し、再び刈り取るのがセオリーです。稼ぎ頭のライトノベル「ゲート」は2017年に続編の刊行がスタートし、漫画化が進行しています。これが再びヒットする好サイクルが生まれています。
実はアルファポリスの売上高の構成比率は大きく変化しています。2014年度はライトノベルが全体の60%以上を占めていましたが、2020年度は漫画が65%以上を占めています。
■2014年度ジャンル別売上構成比率

■2021年度ジャンル別売上構成比率

逆転現象が起こっていることは、アルファポリスにとってマイナス要因である可能性が高いです。同社のビジネスモデルは低コストのライトノベルでヒット作を生み出し、次の工程として漫画の2次利用が生じるというサイクルです。すべての原動力となるライトノベルが枯渇してしまった場合、過去のヒット作に縋ることとなり、業績は緩やかに縮小することとなります。実際、アルファポリスはヒット作に縋って失敗した苦い過去がありました。
予想の1億円を上回った「ゲート」の大量返本
アルファポリスは2017年3月期の売上高が前期比4.8%減の31億8,500万円、営業利益が同80.8減の1億7,400万円となりました。業績を落とした主要因の一つが主力作「ゲート」の返本です。2016年3月にテレビアニメが終了して以降、返本が相次ぎました。返本は予想を1億2,700万円上回り、アルファポリスは2016年11月に下方修正へと追い込まれます。
アニメが放送され、本の売上が加速すると見ていたのでしょう。それが思うようにいきませんでした。「ゲート」は本編ではなく、外伝を多く出版する傾向もありました。これも読者を引き付けられなかった要因の一つになりました。この時期は特に「ゲート」に頼りきっていた節があります。現在も漫画を牽引しているのは「ゲート」であり、やがて人気がひと段落することは間違いありません。
アルファポリスは2つの軸で現状を打開しようとしています。1つはテレビCMで認知度向上を図り、投稿数を増やしてヒット作を生み出しやすい土壌を作ることです。もう1つは海外向け漫画アプリを構築し、新たな読者層を開拓することです。

2021年7月から全国90局以上の地上波テレビCM放映やYouTubeなどでの広告配信を開始しました。Webの小説投稿サイトがテレビCMを打つのは極めて稀な取り組みです。これによって投稿数がどれだけ変化し、ヒット作が生まれるのか。今期の動きには注目が集まります。
海外向け漫画アプリ「アルファマンガ」も2021年7月にリリースされました。課金サービスのすそ野を広げ、収益柱の一つにする計画です。また、漫画の認知度を図り、人気を獲得して映像化を加速することも視野に入れています。
テレビCMもアプリもマーケティングの手腕が問われる領域です。これまでサイト運営や編集、企画に力を入れてきたアルファポリスが、別のステージに入っていることを象徴しています。
出版科学研究所によると、ライトノベル市場は2012年の284億円をピークとして、2019年には143億円と半減しました。アルファポリスは縮小する市場で競合がひしめく中、ヒット作を生み出さなければなりません。文系の老舗出版社と理系の新興企業の壮絶な戦いが始まって