民主主義にはメディアの力が必要【Media Innovation Weekly】12/13号

おはようございます。Media Innovationの土本です。先週は札幌出張でした。まだそこまで寒くなく、色々と北海道の食を堪能してきました(観光?)。今週の「Media Innovation Weekly」をお届けします。

このニュースレターは毎週月曜日発行、メディア業界の一週間を振り返っていきます。 メディアの未来を一緒に考えるMedia Innovation Guildの会員向けのニュースレター「Media Innovation Newsletter」 では毎週、ここでしか読めないメディア業界の注目トピックスの解説や、人気記事を紹介していきます。ウェブでの閲覧やバックナンバーはこちらから

今週のテーマ解説 民主主義にはメディアの力が必要

中国を始めとして世界で力を増す専制主義に対して、米国が主導となって始めて開催された「民主主義サミット」。その中で、米国のアントニー・ブリンケン国務長官は民主主義を支えるメディアやジャーナリズムを積極的に支援する考えを示しました。

オンラインで開催された民主主義サミットで講演するバイデン大統領(左)とブリンケン国務長官(右) (Photo by Chip Somodevilla/Getty Images)

民主主義サミットでブリンケン国務長官が明らかにしたのは2つのイニシアティブです。

一つは「独立系メディアの支援」。国際開発庁が主導して、公益メディアのための国際基金(International Fund for Public Interest Media)に最大3000万ドルを拠出します。この基金は10月に設立されたばかりのものですが、BBCやニューヨーク・タイムズを率いたマーク・トンプソン氏と、今年のノーベル平和賞を受賞した、フィリピンでメディア企業を運営し何度も投獄されたマリア・レッサ氏が共同議長を務めます。

基金は慈善団体や財団などから資金を集めていて(トンプソン氏の古巣のBBCが運営する財団も含まれる)、2022年から発展途上国でのメディアを支援するために1億ドルの資金調達を目指しています。米国からの3000万ドルの拠出は大きく前進させるものになりそうです。

さらにMedia Viability Acceleratorを立ち上げ、最大500万ドルを拠出します。こちらは「データの共有、技術支援、金融サービスに焦点を当てることで独立の報道機関をより持続可能なものにする」ということで(CNN)、既にある程度の基盤を持っているメディア企業に対する支援がメインになりそうです。

もう一つは「ジャーナリストの保護」です。これは世界的に攻撃を受ける懸念が高まっているジャーナリストに対する、物理的、デジタル的、そして法的な支援措置です。

こちらも国際開発庁からジャーナリストのための名誉毀損防止ファンド(Defamation Defense Fund for Journalists)に最大900万ドルを拠出。これはジャーナリストに対して名誉毀損などの法的措置によって合法的な活動を止めようとする行為からジャーナリストを守る事を目的としたものです。

加えて国務省ではジャーナリズム保護プラットフォームを立ち上げるために最大350万ドルを提供。こちらはリスクのあるジャーナリストに対して、デジタルとリアルの両方での安全トレーニング、心理社会的ケア、法的支援などを提供するためのものです。

危機に瀕するジャーナリストたち

ブリンケン国務長官が明らかにした施策は前者は「メディア組織の支援」であり、後者は「ジャーナリストの支援」です。前者はメディアビジネスが持続可能ではなくなっているのではないか? というここ数年来の危機感から来たものです。特に新型コロナウイルスの猛威がメディアビジネスを傷つけ、世界的な基金の設立にも繋がりました。

一方で近年は後者にもフォーカスが当たるようになりました。今年のノーベル平和賞を受賞したマリア・レッサ氏とドミトリー・ムラトフ氏はそれぞれフィリピン、ロシアでメディア企業を運営していますが、権威主義的な政府の妨害を長年受けてきました。レッサ氏は何度も投獄され、ムラトフ氏の経営するメディア企業はこれまでに6名のスタッフが暗殺されてきたといいます。さらにデジタルになり、物理的だけではない妨害にも焦点が当たるようになっています。

今年の3月には英国政府がメディア関係者やジャーナリストを暴力や脅迫、オンラインでの被害などから護るための初の国民行動計画を発表しました。さらに英国とアイルランドのジャーナリストの労働組合がグーグルと協力して、身体の危険、ソーシャルメディア上での攻撃やサイバー攻撃に直面している記者のための、無料のオンライン対話型トレーニングツールを提供開始したというニュースもありました

ジャーナリスト保護委員会(Committee to Protect Journalists)の調査によれば、2021年に報道活動の結果、投獄された記者は293人で過去最高。少なくとも24名が殺害されたということです。特に中国では50人が刑務所に入っていて、ミャンマーでもクーデター以降、多くの関係者が投獄され、世界でも2番目の数に急上昇したということです。

◆ ◆ ◆

米国が世界のメディアを支援するために費やす予算は、2020年から約40%増加して、今年は2億3600万ドルとなったということです。

日に日に米国と中国の対立が深まり、民主主義と専制主義の対立の色が濃く感じられるようになってきた昨今。民主主義サミットの開催はまさにそうした状況を象徴するものですが、それに併せた支援策を発表する声明で、一番最初に紹介されているのがメディアに対する支援である事は、米国が民主主義の成立には独立したメディアの存在が必要であると強く考えている事の現れと取ることができるでしょう。

メディアにも様々なスタイルがあり、全てのメディアが「民主主義を実現する」と大上段に構える必要もありませんが、少なくとも社会を前向きに良いものにしていく、という想いは持って仕事に取り組んでいかないと、と改めて感じました。

今週の人気記事から ヤフー、5700万件の広告素材を非承認

ヤフーが自社の広告ネットワークにて、2021年の上半期で5700万件の広告素材を非承認にしたというレポートを発表しました。2020年の下半期と比較すると若干の減少となりましたが、内訳で「薬用化粧品(医薬部外品)、化粧品」や「最上級表示、No.1表示」、「ユーザーの意に反する広告の禁止」という規約違反によるものの割合が増加したのが特徴。ヤフーのみならず、アドネットワーク各社は広告審査の厳格化を進めており、そうした影響によるものと見られます。

一方でヤフーではネットワークの広告掲載先の審査も強めていて、広告掲載を停止するケースも増えているようです。内訳では、アドフラウド疑い(21%)、運営者の明示不備(14%)、個人・実体不明事業者(12%)などとなっているということです。

一方で色々な声を聞くと、質の低い広告主と、質の低い広告掲載媒体がどちらも淘汰されることによって、広告単価が引き上げられる事が理想ですが、残念ながらそこまでは至っていないようです。規制が単なる市場の制約ではなく、成長源になるような取り組みを業界を挙げて考えていかないといけないですね。

1.ヤフー、2021年度上半期は約5,700万件の広告素材を非承認・・・広告サービス品質に関する透明性レポート

2.SmartNews Awards 2021大賞が「文春オンライン」に決定…受賞20メディアを発表

3.「北欧、暮らしの道具店」、スマホアプリが1年半で150万DL突破・・・アプリで年間売上1.7倍増、EC売上の6割がアプリ経由

4.TikTok、クリエイター向けに新たな収益化ツールを発表・・・動画への投げ銭が可能に

5.メルカリが事業計画を公開、成長余地はどこにある?

6.「TBS NEWS」、コンテンツ共有プラットフォーム「ノアドット」からの記事配信をスタート・・・コンテンツ流通を促進

7.ライバープロダクション手掛けるPRIME、博報堂DYベンチャーズから資金調達・・・調達額は総額5億円に

8.クリーマの成長可能性、ハンドメイド市場で構築する「経済圏」

9.世界のECアプリのインストール数は前年比10%増、Amazonが首位陥落…Adjustがレポートを発表

10.PORTO、音声広告のサーチリフト効果を実証・・・radikoとSpotifyの重複接触で22%のスコア上昇

会員限定記事から ツイッターの新機能はパブリッシャーにも有益

ツイッターが買収したScrollを元に開発したTwitter Blueというサブスクリプションサービスについての記事が注目を集めました。これは対象となっているメディアの記事を広告非表示で見られるというもの。キャッシュされた記事ではなく、実際にパブリッシャーが運営しているサイトに遷移するため、ユーザーデータがそのまま保持できるという利点があります。

Twitter BlueではScrollのこうした特徴だけでなく、クッキーなどで収集した追加のユーザーデータをパブリッシャーが閲覧できるようにしているということです。このデータが有益なため、Scrollには参加していなかったワシントン・ポストやロサンゼルス・タイムズといったパブリッシャーも新たに参加を決めているということです。日本ではまだ開始されていませんが、気になるニュースですね。

1.【メディア企業徹底考察 #35】主力の手帳販売から転換・・・「ほぼ日」がサブスクアプリに大型投資する理由とは?

2.Twitter Blueの「広告非表示機能」は、パブリッシャーに収益以上に重要なものをもたらす

3.ID管理のOkta、買収した「Auth0」との統合を進める

4.GoogleのUX評価基準「Core Web Vitals」スコア調査・・・改善進むも米上位100サイトの半数がGOOD要件満たさず

5.米メタ、VRプラットフォーム「Horizon Worlds」を米国とカナダで一般公開・・・「メタバース企業」へ前進

6.ジャーナリストが自身の身を守るためのトレーニングサービス「Storysmart」がスタート・・・英国の労働組合とグーグルが共同で設立

7.カナダで”オーストラリア式”ニュース対価支払い法の実現が近づく・・・年間計1億ドルの支払いという予想も

8.米教育出版社5社がShopifyを提訴・・・「教科書の海賊版販売を放置した」と主張

9.Facebook、投げ銭購入時に「アプリストア手数料」を回避可能に

10.Instagramが10代の若者を保護する新機能を発表・・・利用時間の抑制やプライバシー保護を強化

編集部からひとこと

一泊二日ですが札幌に行ってきました。まだそこまで寒くはないといった感じでした。どうも「今年はウニが不漁で高いよ」ということで、確かに街中でも余り見かけませんでした。でも折角なので、ということで、帰京前のランチで「むらかみ」に。お目当てのウニ丼にはたどり着けたのですが、なんと●●●●円も!とても奥さんには言えません・・・。貴重なウニ、ご馳走様でした。

今年も残り3週間、頑張っていきましょう!では

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【12月6日更新】メディアのサブスクリプションを学ぶための記事まとめ

デジタルメディアの生き残りを賭けた戦略の中で世界的に注目を集めているサブスクリプション。月額の有料購読をしてもらい、会員IDを軸に読者との長期的な関係を構築。ウェブのコンテンツだけでなく、ポッドキャストやニュースレター、オンライン/オフラインのイベント事業などメディアの立体的なビジネスモデルをサブスクリプションを中核に組み立てていく流れもあります。

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Manabu Tsuchimoto
デジタルメディア大好きな「Media Innovation」の責任者。株式会社イード。1984年山口県生まれ。

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