メディア界のニュースや見解を紹介している「Media Voices」と「What’s New In Publishing」は、2021年のメディア業界の動向をまとめたレポート「Media Moments 2021」を発表しました。前回のデータとプライバシー編に続き、今回は印刷編についてご紹介します。
最近ではほとんどの人が紙の新聞を買わなくなり、即時性のあるデジタルニュースを好む一方で、誌市場の売上は持ちこたえているようです。人々の印刷出版市場に対する見解は様々で、印刷業界が縮小し続けていると考える人がいる一方で、まだまだこれから伸びていくと考える人もいます。現実は、それほど白黒はっきりしておらず、もっと複雑であるとレポートでは述べられています。
目次
複雑な図式
新聞市場の衰退は顕著で、だからこそ英国の大手新聞社たちはメディア業界向け調査機関ABCが発表する発行部数には目を向けなくなり、印刷物に対する長年のコミットメントを掲げる大手新聞のThe Guardianでさえ、印刷版の発行部数を非公開にしました。
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現在も公的監査を受けている英国ニュースブランドでは二桁の部数減はよくあることで、昨年はパンデミックが新聞業界の苦境に拍車をかけましたが、これは1960年代から続く傾向を加速させただけだといいます。2009年に発表された過去50年間の米国新聞発行部数のグラフ推移を見ても、それ以来10年間何も変わっていないようです。
ニュース消費に関する最新のデータを見ると、米国人は圧倒的にデジタルニュースを好むようになっており、プラットフォームを問わないニュース消費に関する調査では、回答者の65%が印刷物からニュースを得ることはほとんどない、あるいはまったくないと答えているようです。
一方で雑誌市場は比較的良い方で、英国のメディア誌Press Gazetteが発行部数を分析したところ、米国の雑誌がパンデミックを通じて新聞を上回ったという事実が明らかになりました。特に最大手はコロナ禍でも売上の95%を維持しました。
しかし、定期購読と単行本の売上は依然として減少しており、印刷物の定期購読部数は、この2年間で全体の1億2500万部から1億1600万部へと7%減少し、単行本の売上は2019年上半期の320万部から今年上半期の280万部へと11%減少しました。米国では、9月にMarie Claireの印刷版が閉鎖されました。
2021年に最も成功を収めたのは専門誌で、英国のパブリッシャーFutureは3億ポンドのDennis買収の一環として紙媒体に特化したThe Weekを買収し、Spectatorのパンデミックによる利益押し上げ、Private Eyeの60周年記念など、英国の紙媒体のニュース週刊誌は健闘したようです。
希望の兆し
紙媒体によるデイリーニュースの未来は暗いですが、少なくとも英国では、Social Spiderのようなコミュニティペーパーが唯一の明るい話題となっているとのことです。同社のデビッド・フロイド氏は、Social Spiderが活動しているロンドンの自治体レベルでは、新聞紙の将来について強気の発言をしていましたが、国内外のニュースよりも、地域社会に焦点を当てて、地域社会のための情報でなければならないと、述べています。
即時性よりも奇抜さや個性、コミュニティが重視される分野の出版物が盛んのようで、サミル・フスニ氏のLaunch Monitorのウェブサイトには、9月までの1年間に米国で発売された81誌が掲載されていますが、そのほとんどは、マリファナ情報を提供するBlack Cannabisや、ピックルボールのVogueなど、明確な関心分野に特化しているとのことです。
今後も生き残る可能性が高いのは、50年ぶりにイギリスで創刊されたRolling Stoneや、マーク・アレン・グループが新たに創刊したConsumer Electronics Test & Developmentや、Electric & Hybrid Rail TechnologyなどといったB2B専門の出版社だとレポートでは述べられています。
創刊にあたり、オペレーションズ・ディレクターのカティナ・トゥンバ氏は、出版社が印刷物での創刊を決めたのは、パンデミックの開始以来、印刷物の人気が高まっていたからだと語っており、人々はスクリーンタイムを減らし、PCやモバイル機器から解放される必要があると述べています。
もうひとつ注目すべきは、eコマースにおける印刷とテクノロジーの融合です。Bauer Mediaは、eコマースが大流行した後も順調に成長していることを受け、eコマースのファネルを埋めるために印刷物のポートフォリオに注目しているとのことです。また、同社の雑誌であるGraziaとHeatは、スキャンすると読者が直接ショップにアクセスし、商品情報や購入オプションが得られるような画像を取り入れています。