NFTの世界に足を踏み入れるパブリッシャー、持続可能な収益はあるのか・・・レポート「Media Moments 2021」

メディア界のニュースや見解を紹介している「Media Voices」と「What’s New In Publishing」は、2021年のメディア業界の動向をまとめたレポート「Media Moments 2021」を発表しました。前回のM&A編に続き、今回は最後の章、新興技術編についてご紹介します。

暗号通貨市場の成熟に伴い、パブリッシャーたちはNFTやメタバースの世界に足を踏み入れました。情報の正確性や真正性を確保するための裏技的な利用から、購読料の支払いのための暗号通貨への投資まで、以前からブロックチェーンの世界には目を光らせていたようです。AP通信が2020年のアメリカ大統領選の投票結果の公開にブロックチェーンを利用し、その正当性を示す不可侵の証明となったことは有名な話です。

2021年は、暗号通貨やNFTをめぐるトレンドの展開が速く、2020年にオンラインで保有されていたNFTの総額はわずか3億4000万ドルでしたが、翌年8月にはイーサリアムのブロックチェーン上で保有されていたNFTの総額は140億ドル規模に達したとのことです。

NFTは利益を生むチャンスか

NFT業界は驚異的なスピードで拡大しており、2021年の初めには、まだ独立した資金源を求めるアーティストのためのものでしたが、2021年の終わりには、グッチやグレンフィディックなどのブランドが独自のNFTを販売し、より多くの既存のプレーヤーが参入してきました。

米国発のニュースメディアQuartzは、ある記事をNFT形式で販売し、このような形で販売された最初のコラムであると主張しました。この記事は結局1イーサリアム(当時のレートで約1800ドル)で販売され、Quartzはパブリッシャーにとって未知の領域であるNFTへの道を切り開いたのでした。

その後、3月にニューヨーク・タイムズ紙は、「このコラムをブロックチェーンで買おう」という見出しが付けられたコラムを掲載し、NFTオークションに出品しました。同紙は最終的に350イーサリアム(当時のレートで約56万ドル)を手に入れ、この実験は大成功だったと宣言しています。この収益はすべて、ニューヨーク・タイムズの慈善基金であるNeediest Cases Fundに寄付されたとのことです。

タイム社はこの動きに乗り、最も有名な表紙をモチーフにした3つのNFTトークンをオークションに出品し、最終的に150万ドル以上を調達し、直ちに14人のチームを立ち上げたようです。社長のキース・グロスマン氏は、1回限りではなく定期的な収入源を促進するために、NFTがどのように定期購読や、メンバーシップに関係しているのかに注目していると述べています。

これらの世界有数のパブリッシャーによる最初の試みの後、他の新聞社もすぐに動き始めました。Quartzの最初の試みから5ヶ月足らずで、米国新聞社ガネットのCEOマイク・リード氏は、「NFTはガネットにとって新たなビジネスチャンスで、この分野がどのように発展し続け、同社のアーカイブがどのように新しい市場で収益化されるかに注目している」と述べました

NFTの分野に関心を持つ多くのパブリッシャーは利益にこだわっており、例えば、雑誌「プレイボーイ」は、収益目的で自社のIPをライセンスアウトすることを決して躊躇せず、NFTをユニークなアバターとしてオンラインで使用する傾向を利用して、約1200種類の「ラビター」を製造しました。

しかし、中には失敗例もあり、米メディアのアトランティックは、オークションの際に2つのNFTが最低出品価格に届かず、結果的に売れなかったようです。

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メディア企業のNFTの急速な台頭は、ブロックチェーンやメタバースの実験とも関係していますが、メタバースというコンセプトはこの分野のほとんどの企業にとってまだ開拓されておらず、自社のIPをメタバースに拡張する以上のことを行っている企業はほとんどないとのことです。米国メディアのハーストは、広告主がメタバース内でどのようにブランディングできるかを実験していますが、パブリッシャーのメタバースにおける可能性はまだ模索中ようです。

新たな収益源の登場

暗号通貨やメタバースに関連したメディアを立ち上げるパブリッシャーの数は、今後も間違いなく増加すると予想されています。暗号通貨を保有する人口の割合が増加していることから、メディア企業もそのような人々に対応しようとしているようです。例えば、ニュースレタープラットフォームのSubstackは、暗号通貨で購読料を支払う機能を徐々に導入しています。こういった動きは、アマゾンのような企業がブロックチェーンと暗号決済に投資することで、より早く押し進められると見られています。AWSの普及とパブリッシャーによる利用を考えると、多くの新聞社が利用者に暗号通貨による支払い機能を提供する日もそう遠くはないと予想されます。

最後に、レポートの筆者は、この機会にメディア各社にNFTや暗号通貨を取り巻く問題、すなわち暗号通貨の採掘や取引に伴う環境コストについても取り上げてほしいと訴えかけています。上辺だけ環境に配慮をしているように装いごまかすのではなく、炭素コストを相殺しているだけだと認めることは、収益のためにそれを利用するパブリッシャーに課せられた責務である、と述べられて

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【12月6日更新】メディアのサブスクリプションを学ぶための記事まとめ

デジタルメディアの生き残りを賭けた戦略の中で世界的に注目を集めているサブスクリプション。月額の有料購読をしてもらい、会員IDを軸に読者との長期的な関係を構築。ウェブのコンテンツだけでなく、ポッドキャストやニュースレター、オンライン/オフラインのイベント事業などメディアの立体的なビジネスモデルをサブスクリプションを中核に組み立てていく流れもあります。

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