【メディア企業徹底考察 #43】メディアドゥと合弁会社を設立したインプレスホールディングス、PODは第3の柱となるか?

2022年4月1日に株式会社インプレスホールディングス株式会社メディアドゥが、合弁会社PUBFUNを設立します。PUBFUNは注文ごとに1冊ずつ印刷・製本して販売するPOD(プリント・オンデマンド)書籍出版市場の拡大が目的。インプレスホールディングスは個人向けPOD書籍出版支援サービス「ネクパブ・オーサーズプレス」を展開しており、累計発行点数は5,000点、累計販売額は5億円を超えていました。メディアドゥは「PUBRID」で書店PODサービスを行っており、累計38,000点のコンテンツを国内外に取次販売していました。PUBFUNはインプレスが51%、メディアドゥが49%の出資比率となり、インプレスの影響力が強い連結子会社となります。

インプレスは「できるシリーズ」の出版やECプラットフォームの開発、「少年ジャンプ+」などの漫画アプリの開発・運用を行うなど事業の幅の広さが特徴です。2021年8月には月刊誌「エアライン」のイカロス出版株式会社を13億6,950万円で買収しています。山岳専門誌を発行する山と渓谷社、隔月誌「旅と鉄道」の株式会社天夢人など、根強いファンが多いニッチ分野の専門誌を発行する出版社を次々と子会社化してきました。

IT専門誌の発行と漫画アプリの開発という盤石な事業に支えられたインプレスは、未来の出版の在り方を模索しているように見えます。

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利益率18%の強力な事業へと成長したマンガアプリ

インプレスホールディングスは1992年に誕生しました。創業者はコンピューター関連の出版社アスキー(現在の株式会社角川アスキー総合研究所)を共同で立ち上げた塚本慶一郎氏です。アスキーと同じくインプレスもIT関連の書籍を出版していました。インプレスが特徴的なのは、創業者・塚本慶一郎氏がオーディオマニア向けの雑誌を出版する株式会社ラジオ技術社(後に株式会社アイエー出版に吸収合併)、「ギター・マガジン」など音楽関連の書籍を出版する株式会社リットーミュージック、デザイン関係の書籍を扱う株式会社エムディエヌコーポレーションに資本参加をしており、4社がグループ企業としてインプレスグループを形成していた点です。インプレスは1994年にパソコン入門者向けの「できるシリーズ第一号」を発行していますが、ITを軸としながらも音楽、デザイン分野においてニッチな書籍の出版をしていました。

この会社の事業が多岐にわたっているのは創業当初からの自然な流れであり、文化であるとも言えます。

業績は堅調に推移しています。2022年3月期第2四半期の売上高は前期比7.2%増の69億8,200万円、営業利益は29.5%増の5億1,600万円となりました。2022年3月期通期の売上高を前期比6.1%増の147億円、営業利益を前期比8.8%減の7億5,000万円と予想しています。

果たしてその好調を支える事業は何なのでしょうか? 読み解いていきます。

■インプレスホールディングス業績推移(単位:百万円)

決算短信より筆者作成
※営業利益の目盛は右軸

2021年3月期は主力のIT(IT関連の出版・メディア)事業が巣ごもり特需の影響を受け、事業利益が前期比276.2%増、モバイル(漫画アプリの開発)事業の事業利益が前期比138.4%増となりました。2022年3月期はその反動減で営業利益がやや下がる見込みです。しかし、予想通りに着地すると営業利益率は5.1%となり、コロナ前の2020年3月期と比較して1.9ポイント上昇します。コロナをきっかけとした消費動向の変化により、収益性は改善されたと見るべきでしょう。

売上高を事業別に見るとITが全体の43.6%を占めており、主力事業となっています。

■事業別売上高の推移(単位:百万円)

決算短信より筆者作成

IT事業は「できるシリーズ」の出版の他、最新のマーケティング情報を発信する「Web担当者Forum」、デジタルビジネス専門サイト「IT Leaders」を運営しており、コロナの影響でリモートワークや面談のデジタル化、マーケティングツールの活用が促進されるほど、収益に繋がりやすい構造をしています。

山と渓谷社やリットーミュージックの売上高は横ばいで成長性に欠けていますが、楽器を新品・中古品を売買する「デジマート」を運用するなど、事業の幅を広げる努力を重ねています。

売上ではIT事業が支えていますが、成長性や利益に注目すると見え方は変わってきます。2021年3月期のIT事業は特需に支えられましたが、2019年3月期においては漫画アプリのモバイル事業が上回っているのです。

■事業利益の推移(単位:百万円)

決算短信より筆者作成

利益率に注目すると、モバイル事業の強さは一層際立ちます。特需に支えられたIT事業の2021年3月期の利益率が12.5%、モバイル事業が18.0%です。5.5ポイント上回っています。

■事業別利益率(2021年3月期)

決算短信より筆者作成

モバイル事業は「少年ジャンプ+」「コミック りぼマガ」「ジャンプBOOKストア!」など人気週刊誌のアプリの開発・運用を行っているほか、「銀魂 公式アプリ」や「ONE PIECEアプリ」など人気作品も手掛けています。着実に実績を積み上げており、今後も受注数を増やすものと予想できます。すなわち、インプレスは会社の次なる成長エンジンを手にしたのです。

学術書以外の需要を見つけられるか

事業を強固なものにし、ニッチ分野の出版社の買収を繰り返してきたインプレスの次なる一手がPODでした。インプレスのPOD書籍出版支援サービスを行う子会社株式会社インプレスR&Dは、その他事業に含まれますが2021年3月期の時点で利益は出ていません。社員数も5名に留まっています。合弁会社設立にインプレスの役職員を出向するとしており、組織マネジメントが大きく変わると予想できます。

PODは数百冊しか売れる見込みのない希少本を流通させる仕組みです。出版社や個人(著者)が契約すると、電子書籍としてオンライン上に配本できます。更に印刷機を持つ書店は注文があると製本して消費者に販売することが可能になります。日本では神田の三省堂本店にいち早く導入されました。

PODの流れを大きく変えたのがAmazonです。2011年4月からPODを導入し、洋書から取り扱いを開始しました。現在では国内の本も扱っています。楽天ブックスやhontoなどのオンライン書店も導入を開始しました。

この仕組みは編集、制作、流通までが基本的にすべてデジタルで完結するため、コスト低減が図れるメリットがあります。在庫を抱える必要もありません。返本はなく、人気が出れば通常の書籍としての販売も可能です。専門書や希少本、一部のファンに愛されるニッチ分野は紙の本の需要が多い分野です。PODの需要を掘り起こすことができるかどうか。ここがポイントです。

PODを取り入れたシリーズとしてよく知られているのが「講談社学術文庫」です。1976年に創刊以来、2,600点を発行してきました。POD版はサイズと文字を大きくして読みやすさにこだわっています。出版社は需要のない本を重版することはありませんが、学術書は一定の需要がある領域です。PODに最も向いた分野と言えます。しかし、学術書の需要は細く、これだけで事業が成り立つとは考えられません。

PODは大日本印刷株式会社も本格参入した分野です。しかし、目覚ましい成果には繋がっていません。インプレスのベンチャー気質とIT技術、ニッチな出版社をグループに持つ独自のノウハウで第3の事業へと成長させることができるのか。この会社らしい取り組みが本格スタートしました。

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【12月6日更新】メディアのサブスクリプションを学ぶための記事まとめ

デジタルメディアの生き残りを賭けた戦略の中で世界的に注目を集めているサブスクリプション。月額の有料購読をしてもらい、会員IDを軸に読者との長期的な関係を構築。ウェブのコンテンツだけでなく、ポッドキャストやニュースレター、オンライン/オフラインのイベント事業などメディアの立体的なビジネスモデルをサブスクリプションを中核に組み立てていく流れもあります。

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