旅行プラットフォームを展開する株式会社エアトリの業績が急回復しています。2022年6月16日に2022年9月期の通期業績予想の上方修正を発表。売上高を従来予想の3.5%増となる145億円、営業利益を同30.0%増の26億円、純利益を同30.0%増の18億2,000万円に修正しました。
エアトリは2020年9月期に89億9,400万円の営業損失(前年同期は6億7,600万円の営業利益)を計上。しかし、2021年9月期には31億4,200万円の営業黒字化を実現していました。2022年9月期の営業利益はそこから17.3%減となるものの、営業利益率は17.9%で同水準となる見込みです。
本業で稼ぐ力を表す営業利益率は、業績好調だったコロナ前を大きく上回ります。
なぜ、エアトリは早期回復を実現できたのでしょうか?
■エアトリ業績推移(単位:百万円)


債務超過寸前のエイチ・アイ・エス
大手旅行会社はコロナの痛手から全く立ち直っていません。株式会社エイチ・アイ・エスの2022年10月期第2四半期の営業損失は281億3,000万円。前年同期間の316億6,900万円と比較すると、やや損失の幅を縮小しているものの大赤字から抜け出せません。エイチ・アイ・エスは2022年4月末時点で自己資本比率が5.8%と債務超過寸前まで追い込まれています。
全国の近畿日本ツーリストを統括するKNT-CTホールディングス株式会社は、2022年3月期に営業損失を76億8,600万円(前年同期は270億8,200万円の営業損失)計上しています。KNT-CTホールディングスは2022年3月期において、個人旅行店舗を40か所、団体旅行支店を18か所、クラブツーリズムの旅行センターを9か所、本社事務所4社を閉鎖、縮小しました。大ナタを振るいましたが、依然として赤字が続いています。
エアトリが早期黒字化を実現できた背景には2つの要因があると考えられます。1つは早い段階で事業を多角化しており、旅行事業一極集中型のビジネスモデルを脱していたこと。もう1つは事業規模が比較的小さく、固定費が競合に比べて小さかったために経営の小回りを利かせやすかったことです。
分散投資でリスクヘッジ型のビジネスに
エアトリは3つの事業を展開してます。オンライン旅行事業、ITオフショア開発事業、投資事業です。ITオフショア事業はベトナムのホーチミンやハノイ、ダナンにてEコマース、Webソリューション、ゲーム開発などを請け負うもの。開発にかかる人件費を抑えたいという企業の要求に応えるサービスです。
エアトリはコーポレート・ベンチャー・キャピタルを持っています。2017年9月に子会社化したメディア運用会社株式会社まぐまぐは、2020年9月にジャスダック市場(現:グロース市場)に上場しています。このベンチャー・キャピタルが投資事業です。
■エアトリの出資先(一部)
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売上面では、圧倒的に旅行事業が他事業を上回っています。しかし、2021年9月期の営業利益ではITオフショア事業、投資事業の貢献度が高くなっています。ITオフショアは2021年9月期に5億1,900万円の営業利益を出しており、営業利益率は38.5%。極めて利益率の高い事業です。

売上高の構成比率を見ると、旅行が88.2%、ITオフショアが7.6%、投資が4.2%。しかし、営業利益においては旅行が65.7%、ITオフショアが13.3%、投資が21.0%を占めています。事業を分散して利益率を高めることに成功しているのです。
旅行事業も3つのパートに分割しています。1つ目はチケットの手配などの旅行関連。2つ目は訪日旅行客向けWi-Fiレンタルなどの訪日観光客向けのサービス。3つ目はまぐまぐを主体としたメディア運用やオンライン診療を提供するライフイノベーションです。
エアトリは提携や出資によって事業を拡大する手法を得意としてきました。リスクヘッジ型の経営スタイルが、コロナ禍という逆風から身を守ることになりました。
宣伝費と人件費を大幅に削減
迅速な経営判断と実行力も光りました。
エアトリはコロナ禍を踏まえて2020年9月期に68億9,600万円もの減損損失を計上。新型コロナウイルス感染拡大により、M&Aで生じたのれんやソフトウエアを中心とした固定資産の価値を見直しました。この期に83億8,000万円の純損失を出しています。
大打撃を受けることになりましたが、エアトリはバランスシートの効率化が進んだと好意的にとらえ、減価償却費圧縮のほか、一段と経費削減を進めて利益回復に努めるとしました。
事実、エアトリの原価率と販管費率は改善されています。

原価率:64.7%(2020年9月期)→57.3%(2021年9月期)
販管費率:42.9%(2020年9月期)→30.3%(2021年9月期)
特に改善効果が大きかったのは販管費でした。12.6%も縮小しています。販管費の内訳をみると、広告宣伝費、従業員給付費用を大幅に抑えているのがわかります。

旅行需要が回復するに従い、広告宣伝費の負担が重くなると考えられますが、コロナで巨額の減損損失を計上したことによって減価償却費は少なくなりました。以前よりも利益を出しやすくなる可能性もあります。
旅行需要喚起策は再び実施されるか?
今後の焦点となるのが、旅行需要がどのタイミングで回復するか。2022年1-3月の日本人の国内旅行の消費額は2兆2,032億円。未だ2020年同期間比で66.8%の水準に留まっています。
日本人国内旅行消費額の推移(単位:億円)

ホテルや旅館の客室稼働率も、大型連休があった5月でさえ20%台に留まっています。
■施設タイプ別客室稼働率の推移

株式会社JTB総研は、2020年2月から消費者への旅行に関する意識調査を実施しています。2022年3月に実施した調査によると、「1年以内に国内旅行を予定・検討している人」の割合は全体で39.2%。2021年10月の調査から3.4ポイント上昇しているものの、まだまだ回復とは程遠いのが現実です。
試金石の一つとなるのが、政府主導の旅行需要喚起策。観光庁は6月17日に、6月の感染状況を見極めたうえで、7月前半より全国を対象とした観光需要喚起策を実施すると発表しました。喚起策で旅行需要に勢いがつき、回復スピードが上がる可能性もあります。
コロナを機に高利益体質へと生まれ変わったエアトリ。需要回復とともに、次の成長ステージへと向かうタイミングを虎視眈々と狙っているは