媒体社でありプラットフォーマーであるヤフーが考える広告健全化・・・規制を超える情報開示がカギ

電通が毎年集計している「日本の広告費」によれば、2021年の国内インターネット広告は2兆7052億円となり、広告全体に占める割合も39.8%となり、初めてマスコミ四媒体(新聞、雑誌、ラジオ、テレビ)を抜きました。毎年順調に成長を続けていて、今後も成長基調が続くものと…

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媒体社でありプラットフォーマーであるヤフーが考える広告健全化・・・規制を超える情報開示がカギ

電通が毎年集計している「日本の広告費」によれば、2021年の国内インターネット広告は2兆7052億円となり、広告全体に占める割合も39.8%となり、初めてマスコミ四媒体(新聞、雑誌、ラジオ、テレビ)を抜きました。毎年順調に成長を続けていて、今後も成長基調が続くものと見られます。

一方、その成長痛とも言えるのが広告品質の問題です。インターネット広告はこれまでのマス広告と比較して出稿側、媒体側のプレイヤーが圧倒的に増加した事が一つの特徴で、あらゆるプレイヤーを広告に巻き込みながら成長をしてきました。ただ、プレイヤーの数が膨大なため、その品質維持に向けた努力は困難を極めています。

その広告市場で大きな存在感を持つのが「Yahoo! JAPAN」を擁するヤフー株式会社です。同社は「Yahoo! JAPAN」を中心とする自社メディアに広告を掲載する媒体社であり、同時に提携パートナーの広告枠も含めて販売するプラットフォーマーでもあります。同社でも広告品質を高めるための様々な施策を打ってきました。日本を代表する企業がどのように取り組んできたのか、お話を聞きました。

中村 茜(なかむら・あかね)
ヤフー株式会社 マーケティングプラットフォーム統括本部 トラスト&セーフティ本部 ポリシー室長

鈴木 航(すずき・わたる)
ヤフー株式会社 マーケティングプラットフォーム統括本部 広告プロダクション本部 ビジネスデベロップメント部長

坂下 奈津子(さかした・なつこ)
ヤフー株式会社 政策企画統括本部 デジタルプラットフォーム政策室長

媒体社かつプラットフォームのヤフー、広告品質向上に向けた方針とは

―――本日はお集まりいただきありがとうございます。始めに皆さんの自己紹介をお願いします。

中村:広告事業部門にて、広告表現、アドフラウドやブランドセーフティなどの業界課題に対し、ガイドラインを定め品質確保に努めています。また、その啓発活動なども行っています。

鈴木:私が所属している広告プロダクション本部は、プロダクトをつくる部署です。私自身は事業開発を担当しており、パートナーアライアンスや取扱基本規定などの作成、デジタルプラットフォーム取引透明化法(以下、透明化法)や個人情報保護法の改正などに伴うサービスをつくっています。

坂下:私は新法への対応や、ビジネスサイドの政策要望を政府にお伝えする仕事をしています。最近はYahoo!ショッピングや広告の透明化法対応業務が多くなっています。

―――貴社は媒体社かつプラットフォームという2つの側面をお持ちですが、ヤフーの広告品質向上に向けた方針やコンセプトについて教えてください。

中村:媒体社としてユーザーの方々に対してはもちろん、広告主様をはじめ広告会社、配信メディアパートナーなどに対しても、広告品質は重要な位置付けと捉えています。あらゆるステークホルダーに安心してサービスをご利用いただけるよう、品質向上の取り組みに加え透明性の確保も大切だと考えており、2019年には品質担保のための課題や取り組みを示した「広告品質のダイヤモンド」を掲げました。業界全体の課題でもあると思いますので、業界をリードしつつ健全性に貢献できるよう、日々業務にあたっています。

―――こうした動きはどの部署がリードし、体制がつくられているのでしょうか。Zホールディングス全体の動きでもあるのですか?

中村:広告品質に関しては、私が所属しているトラスト&セーフティ本部が中心になっています。基準を決める役割としてポリシー室があり、それ以外に審査の仕組みをつくるシステム開発部門、基準に基づき審査を行う審査部門が在籍しています。

広告の品質向上は、弊社が長期的に存続するための役割も含まれていると思っています。ユーザーに嫌厭されるような広告を出せば数年後にユーザーが離れてしまう可能性もあり、目先の収益よりも中長期的にヤフーが広告ビジネスで存続するためにどうあるべきか、経営陣以下グループ全体が共通の認識として持っていることです。

ユーザーからも広告バナーに付いている「i」アイコンからご意見をいただくので、それを本部で分析し、何を不快と感じどういったトラブルが発生しているのかを収集した上で、ポリシーへ反映しています。

具体的な取り組みと、パートナーやユーザーの反応は?

―――広告審査、配信面の健全化(ブランドセーフティ)、アドフラウドの排除の具体的な取り組みについてお聞かせください。

中村:広告審査については掲載基準を設けていますが、法律と同じように基準の本文だけでは解釈しがたい部分があるので、詳細を説明するヘルプページやラーニングポータルサイトで事例や考え方を発信しています。直接取引がある企業様には、説明の機会も設けています。また、掲載をお断りした場合にどの基準に抵触したのかをお伝えし、表現の見直しや修正をお願いすることなどを通じて、透明性の確保にも努めているところです。

配信面の健全化やアドフラウドの排除に関しては、広告配信ができないコンテンツページの基準などをオウンドメディアで解説し、広告配信パートナーの方々にわかりやすくお伝えしています。取り組みのひとつとしてリアルタイムに不正を検知するアドベリフィケーションベンダーと提携し、トラフィック毎にアドフラウドを判定するシステムを導入しており、人の審査とシステムによる排除の両軸で取り組んでいます。その結果を「広告サービス品質に関する透明性レポート」としてまとめ、審査実績や掲載をお断りした件数、基準の見直しなどを公表しています。

―――膨大な数の広告をチェックされていると思いますが、データやAIなどはどこまで活用されているのでしょうか。

中村:広告審査についてはシステムの方が圧倒的に速度が速いので、システムで判断しているものも多いですね。ただ、AIが判断を行うには正解となるデータが必要ですので、まず人の目で審査をして正解データをつくり、AIに学習させながらシステム審査の精度を担保しつつ、システムによる審査対象を拡大させ続けています。AIも以前から導入していたシステム審査のひとつという認識ですが、手法は年々進化しており、できることは増えてきています。

―――取り組みの結果を表す評価基準などはあるのでしょうか。ユーザーや広告主にとって良い効果が表れていることがわかるエピソードなどがあれば、併せて教えてください。

中村:現状の広告主様を含め、広く広告主になりうる方々に対してアンケート調査を実施し、品質に関する取り組みについてどう感じているか、基準内容はどうか、審査結果はわかりやすいか、などの質問で満足度を確認しています。アドフラウド、ブランドセーフティに関しても同様のアンケートをとっており、弊社の取り組みに対しては一定の評価をいただいていると感じています。

ユーザーの方々からは「このバナーが嫌い」というごく個人的な感覚をはじめ様々なご意見をいただきますが、その内容の変化という部分で「違法な広告を載せるべきではない」というご意見はあまり見かけなくなっているので、品質改善はある程度進んでいると理解しています。

今後は徹底した情報開示がカギ。中長期の発展を見据え各社との協業も視野に

―――広告品質に関して世界的な政策的規制が行われようとしていますが、その流れに対する貴社の姿勢をお聞かせください。


《Manabu Tsuchimoto》

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Manabu Tsuchimoto

デジタルメディア大好きな「Media Innovation」の責任者。株式会社イード。1984年山口県生まれ。2000年に個人でゲームメディアを立ち上げ、その後売却。いまはイードでデジタルメディアの業務全般に携わっています。

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