【メディア企業徹底考察 #101】新規上場するトランザクション・メディア・ネットワークスの成長期待が高い理由

クラウド型のキャッシュレス決済サービス事業を行うトランザクション・メディア・ネットワークスが、2023年2月27日に上場承認され、4月4日にグロース市場に新規上場します。

キャッシュレス決済はQRコードやクレジットカードなど、形態やブランド別に複数の端末が必要。しかし、トランザクションのクラウド型電子決済端末は、それを一台に集約できます。中長期的には、消費者の購買データを販促やファイナンスに活かす情報プロセシングを推進し、小売店が高度な情報分析をできる仕組みを構築するとしています。

ベンチャーの中でも、とりわけ成長期待の高い会社の一つです。

吸収金額115億円で需給の悪化は避けられないか

トランザクション・メディア・ネットワークスは、2008年3月に決済システムの共通インフラを提供する目的で設立されました。三菱商事株式会社トヨタファイナンシャルサービス株式会社が共同出資しています。

三菱商事はローソン、ライフコーポレーション、日本ケンタッキー・フライド・チキンなどの小売店や飲食店を傘下に収めています。また、子会社の三菱食品はイトーヨーカドー、ダイエー、イオンなど主要なスーパーマーケットと取り引きがあり、トランザクションは三菱商事という強力な後ろ盾を得て活動できます。

なお、トランザクションの代表取締役社長の大高敦氏は、三菱商事からの出向を経て移籍し、代表に就任しています。副社長2名も、もともとは三菱商事の社員でした。

トヨタファイナンシャルサービスは、ローンや保険などの自動車を中心とした金融サービスを提供していますが、クレジットカードやキャッシュレス決済サービスも提供しています。そのため、トランザクションは大手POSシステムやカード会社との連携が図りやすく、事業を推進しやすいという特徴があります。

トランザクションの取締役・冨本祐輔氏はトヨタファイナンシャルサービスのイノベーション本部副本部長を務めています。

トランザクションはゼロから事業を立ち上げたスタートアップではなく、日本を代表する優良企業のネットワークやノウハウを活かし、エリートサラリーマンで経営陣を固めた会社だと言えます。

三菱商事は34.03%、トヨタファイナンシャルサービスが13.35%の株式を保有しています。代表の大高敦氏の保有比率はわずか2.98%。しかし、住友商事株式会社の社内ベンチャーとしてスタートした株式会社MonotaROが上場した際も、当時の代表取締役社長・瀬戸欣哉氏の持株比率は1.9%でした。商社が出資して立ち上げたベンチャー企業の代表の持株比率は2~3%と高くはありません。

なお、上場時に三菱商事は143万株、トヨタファイナンシャルは95万株を売却する予定です。公募と売出で1,300株余りが市場に放出され、需給バランスが崩れる可能性があります。吸収金額115億円の比較的規模の大きな案件です。

5つのキャッシュポイントを設けた巧みなビジネスモデル

業績は極めて堅調に推移しています。2022年3月期の売上高は前期比10.7%増の71億3,900万円、2023年3月期は同7.6%増の76億8,100万円を予想しています。2024年3月期は同22.7%の大幅増を見込んでいますが、これは大型案件の導入を見込んでいるため。契約獲得の確度は高いと言えそうです。

新規上場申請のための有価証券報告書より

経常利益はややブレが大きいものの、本業においては安定的に利益を出しています。

2020年3月期に大幅な増収増益になっていますが、これは改正割賦販売法や軽減税率のポイントバック等の政策的な追い風が吹いて端末設置台数、登録料などが増加したためで、一時的な要因です。中期的には業績の浮き沈みは少なく、持続的に成長すると予想できます。

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トランザクションのキャッシュポイントは以下の5つがあり、フロー収入とストック収入に分散されています。

収益源1.非接触リーダー・ライター等の「決済端末販売売上」-フロー収入
収益源2.加盟店へのデータ還元や決済ブランド追加等のシステムカスタマイズによる「開発売上」-フロー収入
収益源3.加盟店等から得られる月額固定の決済処理利用料である「センター利用料」-ストック収入
収益源4.利用する決済ブランド毎の課金および台数から設定する「登録設定料」-ストック収入
収益源5.加盟店への入金精算の手数料である「QR・バーコード精算料」-ストック収入

小売店が汎用電子マネーに対応するには、各種決済サービスを取りまとめるゲートウェイ事業者と契約する必要があります。全国展開するスーパーマーケットや百貨店の場合、ポイントシステムを導入しているケースが多く、決済サービスと連携するために、高額な費用を投じなければなりませんでした。

トランザクションは独自ポイントや一部の共通ポイント、地域マネーなどにも対応しています。システムそのものも、他社と差別化が図りやすいという強みがあります。

新たな取り組みとして、「nextore」をリリースしました。これは中小企業向けのサービスで、大規模小売店以外にも営業先を広げられます。決済端末を導入してフロー収入を得た後は、手数料のストック収入が入ります。中小企業にも手を広げることで、成長を加速するだけでなくストック収入の安定化が図れます。

トランザクションが安定的に成長できる理由は3つに集約できます。1つ目は大企業から中小企業に対応するサービスを持っていること。2つ目は三菱商事をバックとする広範な販売ネットワークを構築していること。3つ目はフロー収入を得た後にストック収入で堅実に業績を拡大できることです。

キャッシュレス決済比率を30%から80%へ

トランザクションの中長期的な取り組みである、情報プロセシングにも期待ができます。目指しているのはクラウドPOSから集約された決済データと、非決済データを融合させた新たなサービス。収集したデータを保管、分析、連携して販促などのマーケティング活動を促進しようとしています。

現在、企業の多くはPOSデータを保管しているものの、分析をしきるまでには至らないケースが散見されます。トランザクションはPOSデータを分析する企業とのシステム連携機能を提供し、小売店が活用しやすい形でデータを提供しようとしています。

2025年にデータセンターの移設を計画中。事業拡大への設備投資も着実に行っています。

POSデータの分析機能が提供できるようになれば、トランザクションの第6の収益源が作れます。しかも、ストック収入なので、安定的な成長に期待できるでしょう。

日本のキャッシュレス決済比率は30%程度と言われています。アメリカの56%、韓国の94%などと比較するとまだまだ浸透していません。経済産業省は2025年に40%、将来的には80%まで引き上げる計画を立てています。キャッシュレス決済を浸透させるためには、小売店や飲食店などの受け皿の整備が必要。トランザクションはキャッシュレス決済市場の拡大という波に乗る可能性もあり

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