【メディア企業徹底考察 #137】サイバーエージェントの虎の子・メディア事業の黒字化目前へ

サイバーエージェントが中長期戦略の柱の一つに位置付けるメディア事業が黒字化目前まで迫りました。

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株式会社サイバーエージェントが中長期戦略の柱の一つに位置付けるメディア事業が黒字化目前まで迫りました。

2023年9月期通期のメディア事業は、115億円の営業赤字(前年同期は124億円の赤字)を出していますが、4Q単体の赤字は6,000万円(前年同期間は26億円の赤字)まで縮小しています。

メディア事業は2023年9月期の売上高が前期比25.9%も増加して1,411億円となりました。長きに渡って先行投資を重ね、赤字から抜け出すことができませんでした。2024年9月期は通期黒字化も視野に入ります。メディア事業、インターネット広告事業、ゲーム事業の3本柱の黒字化が実現すると、サイバーエージェントの収益構造は大きく変化します。

超一流の営業マンによる26期連続の増収

サイバーエージェントは、「ウマ娘 プリティーダービー」が大ヒットした2021年9月期に売上高が前期の1.4倍の6,664億円に増大しました。ゲーム事業は業績が一時的なヒットに左右されやすく、反動減の影響を受けることも少なくありません。

「ELDEN RING」のヒットに恵まれた株式会社KADOKAWAは、2024年3月期は1.7%の減収を見込んでいます。

サイバーエージェントのゲーム事業は2022年9月期の売上高が前期比13.1%減の2,283億円、2023年9月期は21.6%もの減収となって1,791億円まで下がりましたが、会社全体としては増収を重ね、2023年9月期の売上高は前期比1.4%増の7,202億円となりました。26期連続の増収を達成しています。

決算説明資料より

代表取締役社長の藤田晋氏は、起業する前に人材派遣会社(現在のパーソルキャリア)で営業を担当しており、成果において他の社員と圧倒的な差をつけていたと言われています。サイバーエージェントの業績は何が何でも数字を落とさないという、藤田氏の営業魂が会社に乗り移っているかのような内容です。

増収に寄与したのが、メディア事業でした。サイバーエージェントは、連結子会社だったWebマーケティング事業を行う株式会社マイクロアドを2022年6月に連結から外しています。この会社の売上高は当時120~130億円規模。そのため、サイバーエージェントの主力事業であるインターネット広告事業の2023年9月期の売上高は、前期比7.6%の増収に留まりました。2022年3月期のこの事業の売上高は、前期比17.2%増加していました。

2.5次元ミュージカルにも進出

2023年9月期のメディア事業で話題となったのが、「FIFA ワールドカップ」カタール大会の放映権の獲得。サイバーエージェントは放送のあった1Qに93億円の費用計上を行っています。

この放送単体で投資対効果を図るのは難しいですが、「ウマ娘 プリティーダービー」の収益性鈍化、マイクロアド連結除外という状況の中で、増収へと導いたことは大貢献だったと言えるでしょう。

メディア事業のABEMA関連を見ると、2023年9月期の1Qに広告収入が増大し、その後やや縮小するものの前年を上回るペースで推移しているのがわかります。ワールドカップ効果でABEMAの1週間当たりの利用者数は240万増加しました。2023年9月期4Qの1週間当たりの利用者数の平均は1,879万。ABEMAの視聴者引き付けに成功し、広告収入を増大させることができたと言えるでしょう。

決算説明資料より

ABEMAの周辺事業も好調です。周辺事業は主に競輪のインターネット投票サービス「WINTICKET」が支えています。2023年9月期の取扱高は3,769億円で前期と比較して1.3倍に増加しました。テレビCMに人気俳優の窪塚洋介さんやオダギリジョーさんを起用するなど、認知拡大に努めています。

周辺事業でABEMAを成長させている点も、一流の営業マンである藤田氏らしさを見出すことができます。事業の主体者である株式会社AbemaTVは、テレビ朝日が出資しているものの持ち株比率は36.8%ほど。サイバーエージェントは55.2%で、藤田氏が社長を務めています。藤田氏の意向が強く反映されている会社であり、事業です。

メディア事業を始めた当初、藤田氏はテレビの制作会社のものづくりのレベルの高さに驚いたとインタビューで語っています。サイバーエージェントは営業会社の側面が強く、ものづくりのノウハウがあまりありません。メディア事業においても、コンテンツづくりのノウハウを自社で構築して育てることよりも、効率的かつ効果的にゴール(収益化)に近づく方法を一番に考えているように見えます。

株式会社WinTicketを買収したのは2019年4月。上の売上高の推移を見ると、M&Aを行った後の収益性の高さは目を見張るものがあります。

ビジネスの芽を見つける嗅覚の鋭さは、藤田氏が率いるサイバーエージェント最大の特徴だと言えるでしょう。

そういう意味においては、2023年6月にグループ入りした2.5次元のネルケプランニングには注目すべきでしょう。この会社は舞台「テニスの王子様」や「刀剣乱舞」などを手掛けています。

2023年9月期は900名超の増員

サイバーエージェントは2023年9月期の営業利益が前期比64.5%減の245億円となりました。これは2014年9月期の222億円以来の低い数字。今期からは増収増益にコミットすると明言しています。ゲーム事業の猛烈な売上減に襲われる中でも増収を成し遂げた藤田氏であれば、よほどのことが無い限りは実行へと移してくるでしょう。

ただし、その道は簡単ではありません。

サイバーエージェントは2023年3月期に902名の従業員の増員を行いました。ゲーム事業において309名、インターネット広告事業においては419名増加しています。

インターネット広告事業はサイバーエージェントの得意分野でもあり、コロナ禍以降はWeb広告も堅調なため、業績を底堅く推移させると予想できます。難しいのはゲーム事業。2023年11月に「呪術廻戦 ファントムパレード」をリリースしています。事前登録者数が150万を突破するなど好調な滑り出しを見せていますが、ゲームの人気を長期化させるのは難しくなってきました。

メディア事業の黒字化を実現させた後は、ゲーム事業の業績安定が課題の一つとなるでしょう。

《不破聡》

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