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その他の領域から考える…「メディアのイノベーションを生む50の法則」(#07)

【法則13】SDGs×ビジョン・経営理念でコアコンピタンスを強化する

Key Words
〇SDGs(持続可能な開発目標)
〇メディア企業のビジョン
〇SDGsのビジネス戦略

経済効果12兆ドルと雇用約4億人のチャンス

自社の利益だけ、メディア業界のことだけ、日本のことだけ、という経済価値を追求する時代は終焉に向かい、これからはSDGsの発想のもと、世界が一丸となってより良い世界を目指す新しい時代に変わってきています。

SDGsとは何でしょうか。SDGsは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称で、2015年の国連サミットで採択された、2030年までに持続可能でよりよい世界になるために国連加盟国が達成を目指す国際目標です。貧困や教育、気候変動など、地球規模の大きな問題を解決するため、17の目標と169のターゲットから構成され、「誰ひとり取り残さない(leave no one behind)」という共通理念のもと、作られています。

SDGsは、法的拘束力もありませんし、ペナルティもありません。しかしそこには大きなビジネスチャンスがたくさん転がっています。2017年のダボス会議では、SDGsにより2030年までに少なくとも12兆ドルの経済効果をもたらし、3億8000万人以上の雇用が創出されるという調査結果を報告しました。世界中の企業が同じ目標に向かって動き出すとなれば、そこにはたくさんのビジネスチャンスが生まれてきます。

さらに私はメディア企業こそSDGsに取り組むべきだと考えます。理由は「ビジョン」と「新ビジネスチャンス」です。

企業のビジョンや経営理念に直結するSDGs

日経新聞の社是は「中正公平、わが国民生活の基礎たる経済の平和的民主的発展を期す」です。正にSDGsの目標16である「平和と公正をすべての人に」と同じ未来を見ています。

小学館の理念は「出版物が世の中全ての悪いことを 無くすことはできないが、 人の心に良い方向を生み出す、 何らかの小さな種子をまくことはできる。 人生の中で大きく実となり、花開く種子を まくという仕事が出版であり、 これが当社の理念です」はSDGsの目標4である「質の高い教育をみんなに」に直結しています。

朝日新聞の企業理念である「ともに考え、ともにつくる」は、目標17の「パートナーシップで目標を達成しよう」と思想は等しく、講談社の「出版という事業を通して、人々の暮らしの役に立ち、心の豊かさに資すること。そして、社会の繁栄と人類の平和に貢献したい」もまた、目標16「平和と公正をすべての人に」と同じ思いを持っています。

どのメディア企業も、ビジョンや経営理念はSDGsと同じ思いや未来を見ています。SDGsに取り組むことで、より企業のコアコンピタンスの強化につながり生存戦略の鍵になります。

メディア企業が取り組むべきSDGsの目標とは

さらに、メディア企業がSDGsに取り組む理由として、下記が挙げられます。

  • 強い発信力とクリエイティブな力を活かして、SDGsの認知や普及に努める
  • 高品質のコンテンツを生み出し続け、目標4の「質の高い教育をみんなに」を達成する
  • 元々、R&D費や研究開発費が少ないメディア企業の中で、目標9の「産業と技術革新の基盤をつくろう」を目指すことにより、新たなメディアプラットフォームやメディア媒体を作る
  • オープンイノベーションを推進し、目標17の「パートナーシップで目標を達成しよう」を推し進め、新しいビジネスモデルや新しい協業のスタイルを生む
  • 新聞や雑誌など、森林伐採につながる紙の供給量を抑え、デジタルに移行し、目標15の「陸の豊かさも守ろう」や目標12「つくる責任つかう責任」を目指す

私たち一人一人が取り組める目標もたくさんありますが、やはり経営トップの積極的な関与が、イノベーションを促すカギになります。経営陣がビジョンや経営理念にのっとり、経営戦略にまでSDGsを落とし込んでくれれば、新しいビジネスチャンスを手にできるかもしれませんし、イノベーションを起こすことができる可能性があります。

【法則14】働き方改革から生まれる価値観の変化と可処分時間を味方につける

Key Words
〇働き方改革
〇一億総活躍社会の実現
〇価値観の変化と可処分時間の増加

一億総活躍社会の実現に向けた多様な取り組み

日本の労働人口の減少、政府主導の大々的な施策、自分らしく生きたいという思い、新型コロナウィルスの影響――。さまざまなことが要因となり、近年、働き方改革が注目されています。

働き方改革とは、「働く方の置かれた個々の事情に応じ、多様な働き方を選択できる社会を実現し、働く方一人ひとりがより良い将来の展望を持てるようにすることを目指しています」と言われ、一億総活躍社会の実現に向けた取り組みのことを指します。2016年には内閣府が、好循環モデルとそれに関する取り組みを提唱しました。

具体的な施策でいえば、下記のような施策を政府主導で実行していき、法律・条例で定めることでその推進をしていきます。

  • 長時間労働の是正
  • 雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保
  • 柔軟な働き方がしやすい環境整備(テレワーク、副業・兼業など)
  • ダイバーシティの推進(障害者就労の推進、女性が活躍できる環境整備、外国人材の受入れ、若者雇用推進)
  • 賃金引き上げ、労働生産性向上
  • 再就職支援、人材育成
  • ハラスメント防止対策

働き方改革により、人々にはどのような変化が起きるのでしょうか。大きく分けて、「価値観の変化」と「可処分時間の増加」に強く影響が及ぶことが考えられます。

ユーザーの価値観の変化がゲームチェンジを生む

働き方改革により、人々の価値観が大きく変化し、働き方や暮らし方、そして生き方にまで意識が変わってきます。これまでの当たり前とされていた前提が見直されることで、自分の中の当たり前も見直す機会となりました。さらに、柔軟な働き方により、関わる人間関係に変化が生じ、それに伴い価値観も変化する可能性が出てきます。

これまでメディアが意識していたターゲットやペルソナが大きく変化しているため、それに対応したメディアも必要になります。既存メディアにもリブランディングが必要になってきますし、メディア業界にいる人そのものが、当たり前をイチから見直して、メディアの存在意義や再定義など見直しを行う必要性があります。よりユーザーの視点に立ったメディアの在り方を再考しなければいけません。

しかしこの大きな流れの変化は、チャンスとも言えます。「副業メディア」「ダイバーシティメディア」「長時間労働をしなくても自分らしく生きるメディア」など、ゲームチェンジが起きた今だからこそ、新たな市場がたくさん生まれます。ユーザーの変化に合わせて柔軟にコンテンツを生み出していける体制作りが重要となってきます。

重要なのは「ユーザーにとって有益か否か」

さらに、可処分時間の増加も大きく影響をもたらすことが予想されます。テレワークにより通勤時間がなくなったり、長時間労働自体が見直されたりすることにより、人々の可処分時間が増加します。可処分時間が増えると、どういったことが起こるでしょうか。

まずはパーソナルメディアの増加が考えられます。個人が情報発信をする機会がさらに増え、コンテンツの総量がますます増えます。1億総クリエイター時代にますます拍車がかかります。コンテンツの増加により最適な人に最適なコンテンツが届くようになると、ますます旧メディアは存在意義を問われることになります。マスメディアにしか出来ないコンテンツとは何か、その差別化がより重要になってきます。

「どこの出版社のコンテンツか」「どこの放送局の映像か」よりも、「その記事や映像がユーザーにとって有益か否か」がより鮮明に大事になっていきます。「何を届けるか」よりも「誰に届けるか」をより大切にしたメディア作りが必要になります。

理系技術とビジネス感覚を手に入れる

そういった時代の変化に合わせて、メディア人である我々も変わっていかなければいけません。働き方改革に合わせて、どういったふうにシフトチェンジしていけばいいのでしょうか。

① 可処分時間→理系の技術力を身につける

大手メディアの社員は、大半の人たちが文系出身です。しかし、GAFAなどIT企業と戦わなければいけなくなった次の時代には、デジタル、データ、プログラミングなどの理系の技術力が必須になってきます。いつまでも技術音痴ではいられません。増えた可処分時間を機会ととらえ、理系の技術を身につけるチャンスにしたいです。

② 副業・兼業の解禁→他のビジネスモデルを学ぶ

ビジネスモデルが長く変わらなかったメディア業界の人たちは、ビジネス・お金儲け、に疎い人が多いと感じます。「良いコンテンツを作れば売れる!」時代はとうに過ぎており、デジタルを駆使したビジネスの仕組みを知り、そして新しく作っていかなければいけません。副業・兼業の解禁をチャンスととらえ、ベンチャーやIT企業、もしくはまったく業種の違う会社に身を置き、ビジネスモデルを学ぶ機会にするべきだと考えます。

③ 長時間労働の是正→生産性の向上

メディアはブラック企業の代表的なイメージがあります。実際に労働時間は非常に長く、深夜まで社屋には煌々と灯りが付き、夜遅くまで働いています。しかしそれではこれからの時代、持続的に成長していくことはできません。メディア企業も効率化を目指し、働き方を変え、生産性を向上していくべきだと考えます。「オレたちには働き方改革は関係ない」と考えるメディア人も多くいますが、これを機に、生産性の向上に取り組むのもいいかもしれません。

このように、「メディア」「コンテンツメイカー」「ユーザー」と川上から川下まですべてにおいて大きく変化をもたらすものが“働き方改革”です。この大きなゲームチェンジを機会ととらえ、変化をチャンスに変えられることを願っています。

【法則15】グローバル視点のビジネスモデル・制作・流通が勝機を生む

Key Words
◯リバース・イノベーション
◯時差を利用した制作体制
◯流通の国際的コンプライアンス

レガシーメディアもDX化に大幅シフトチェンジ

日本のメディア業界の歴史は古く、いわゆるマスコミは100年以上の歴史を持つ企業が多くあり、まったくゲームチェンジが起きてきませんでした。

一方、世界を見渡すと、グローバルなメディアは最先端な企業ばかりで、Google、Facebook、アップル、Amazon、Netflixなどはサブスクやアドネットワークなどの新しいビジネスモデルをたくさん生み出してきています。

歴史あるアメリカのニュース雑誌「TIME」紙もデジタル売上が印刷版を上回っていますし、アメリカの新聞「NYタイムズ」もサブスクファースト路線に大々的に舵を切って成功を収めています。

では日本のメディア企業はグローバルに視点を合わせた場合、どういった戦略が必要になってくるのでしょうか。ここからはバリューチェーンの川上から川下の順で、「ビジネスモデル」→「制作」→「販売」でどのようにグローバル化できるか、考えていきたいと思います。

間もなく?メディア版リバース・イノベーション

グローバルな視点でメディアのビジネスモデルを考えたときに、「リバース・イノベーション」の発想は欠かせません。

リバース・イノベーションとは米国の経営学者であるビジャイ・ゴビンダラジャン教授が2012年に提唱した概念で、発展途上の新興国で生まれた技術や商品、アイディアを先進国に逆流させて、世界に普及させる戦略コンセプトのことです。一般的にイノベーションとは先進国で生まれ、世界中に普及し、新興国にも広がっていきます。しかし従来の流れとはまったく違うリバース・イノベーションは、先進国では決して生まれない斬新さを持ち、大きな影響力をもたらし、先進国の既存市場を破壊する力さえ持っています。

ビジャイ・ゴビンダラジャン教授が例に挙げた事例として、以下のものなどがあります。

〇インドのナーラーヤナ病院の開胸手術

アメリカでは2万ドル以上かかる開胸手術を、ナーラーヤナ病院ではわずか2000ドルで実施しています。そんな低価格にもかかわらず、ナーラーヤナ病院の純利益率はアメリカの平均より上回っており、さらに質でもバイパス手術患者の死亡率はアメリカより下回っています。ナーラーヤナ病院はプロセス・イノベーションにより、標準化や労働者の専門家化、規模の経済、ライン生産方式など工業分野ではなじみのコンセプトを多く取り入れ、成功に導きました。

〇GEヘルスケア社の800ドルの心電計

新興国の市場に合うように価格を抑えるため、大幅に設計を簡素化し、機能を絞り、小型軽量化したことにより、800ドルの心電計の生産に成功しました。すぐに先進国でも市場が見つかり、欧州を中心に大ヒットしました。

他にも、ロジテック社の中国市場向けのマウス、P&Gのメキシコ向けの女性用ケア用品など、たくさんの事例が挙げられています。

一般的に新興国では、低価格、簡素な設計、絞った機能、高い耐久性が求められているため、従来とは異なる条件での開発が必要となります。そうした限られた条件下でゼロから開発するからこそ、今までにない画期的なアイディアや商品が生まれやすくなります。

ではどうすればリバース・イノベーションを生むことができるのでしょうか。ビジャイ・ゴビンダラジャン教授は先進国と新興国との間にある5つのニーズのギャップに注目するべきだと述べています。

  • 性能のギャップ
  • インフラのギャップ
  • 持続可能性のギャップ
  • 規制のギャップ
  • 好みのギャップ

すでに先進国で市場ができあがっているからこそ、新興国から新たなビジネスモデルが立ち上がるのがリバース・イノベーションです。メディア業界は今まさに、Google、Facebook、アップル、Amazon、Netflixなどが市場を作りました。リバース・イノベーションが起こるのはこれからです。

先進国だけでなく新興国にも目を向けて、グローバルな視点で戦略を立てていくことが、これからのメディア業界にとって重要になってくるでしょう。

時差を利用したコンテンツの制作体制

次に「制作」の観点からグローバル化を考えていきます。

制作技術の発展により、場所や時間に縛られずにどこでもいつでも作品を作ることができるようになりました。 そうなると、時差をうまく利用して24時間作業ができ、制作スピードを上げることができるようなりました。

アニメや漫画の製作現場ではすでに導入が進んでいますが、日本とイギリスと米国ロサンゼルスはちょうど8時間ずつ時差があるので、日本が9時から17時まで働いて、作業を9時のイギリスに引き継いで、イギリスが9時から17時まで働いて、作業を9時のロサンゼルスに引き継いで、ロサンゼルスが9時から17時まで働いて、作業を9時の日本に引き継ぐということができるようになります。

 これにさらにインドやニューヨーク、ドイツの制作チームを入れると、より時間を効率よく使い、コンテンツ作りのスピードを上げることができます。

アニメ映画やCG映像、フルカラーの漫画やコンテンツなど、多くの人がかかわらなければいけないメディアの現場こそ、このグローバルの制作視点が非常に役に立ちます。

国際的なコンプライアンスを重視した流通

最後に「流通」を見ていきましょう。デジタルコンテンツ白書によると、2018年の流通別ではパッケージが3兆7,422億円(前年比 94.5%)、ネットワークが3兆6,086億円(同111.2%)、放送 が3兆5,926億円(同98.6%)、劇場・専用スペースが1兆7,156 億円(同103.9%)となり、ネットワークが放送を逆転しました。さらに2019年にはネットワークはパッケージをも超えるとこが予想されており、コンテンツ市場の流通ではネットワークが一番大きい規模になります。

ネットワークで欠かせないのがプラットフォームによる流通で、Youtubeやアップル、AmazonやNetflixのプラットフォームが大きな収益を上げてくれます。

しかしここで気を付けなければいけないことがあります。市場がグローバルになるからこそ、下記の内容やワードには非常にナーバスにならなければいけません。

  • 宗教・政治批判
  • 民族・人種・男女差別
  • アダルト系
  • 残虐系
  • 薬・ドラッグ系

ユーザーから批判を浴びるどころか、炎上や不買運動や社会問題に発展する場合もありますし、プラットフォームからアカウントが消されてしまうこともあります。コンテンツメイカー側がしっかりとした知識を持ち、コンテンツの隅々まで管理する体制をとる必要があります。

(以下、第8回に続く)

メディアのイノベーションを生む50の法則

第1回:メディアの変遷と未来
第2回:イノベーション理論の歴史
第3回:「左脳」×「普遍性」
第4回:「右脳」×「普遍性」
第5回:「左脳」×「時代性」
第7回:その他の領域 part1
第8回:「左脳」×「普遍性」 part2
第9回:「右脳」×「普遍性」 part2

第10回:「左脳」×「時代性」 part2
第11回:「右脳」×「時代性」 part2(10/19ごろ公開)
第12回:その他の領域 part2(10/26ごろ公開)

以下、続く。

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株式会社小学館マーケティング局。 毎月開催するメディア・マスコミ業界中心の勉強会&交流会「一冊会」を主催。 早稲田大学大学院経営管理研究科卒業。石川県生まれ。

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