ブランドと顧客の関係性は一体化していく、D2Cは「Direct to Community」…長瀬次英氏にきく

D2C(Direct to Consumer)の新たなブランドが花盛りです。多彩な分野で新ブランドが誕生し、国内でも成功したブランドの中には数十億円の時価総額がつくものも登場してきした。こうしたD2Cブランドの根底にあるものは一体何なのか、今後どのような進化を遂げていくのか。

マーケターとして以前ユニリーバ、日本ロレアル、インスタグラム(フェイスブック)などで活躍し、いま他業種にわたって10社近くの会社をパラレルワークしながら更に自身でもD2Cブランドの立ち上げに奔走しているという長瀬次英氏(PENCIL & PAPER.COM株式会社 CEO、Visionary Solution株式会社 CEO)にお話を伺いました。

長瀬 次英
1976年、京都府綾部市生まれ。中央大学総合政策学部国際政策文化学科卒業。2000年、KDD(現・KDDI)に入社。その後、J. Walter Thompson Japan、ユニリーバ・ジャパンなどを経て、2014年にインスタグラムの初代日本事業責任者(BDL)に就任、日本におけるインスタグラムの収益モデルを確立した。続いてロレアル日本法人で初代CDO(最高デジタル責任者)に就任、その後もエンターテインメント会社LDH JAPANの執行役員兼CDO等を務め、デジタルシフトを牽引。2019年には自ら会社を設立した他、同時にコスメブランド等の顧問やアパレルブランドのCEO、ブランディングカンパニーのCSO(最高戦略責任者)を務め、それらを同時平行させるパラレルワーキングを実践している。
初の書き下ろし書籍「マーケティング・ビッグバン インフルエンスは「熱量」で起こす」発売中。

―――いま複数のD2Cブランドの立ち上げに携わってらっしゃるそうですね

D2Cという点で分かりやすいのは「GO FOOD」という新しい低糖質食品デリバリーのブランドに携わっています。一方で、華やかな豪華客船の建造やホテルの建設とった箱モノもプロジェクトベースで関わっておりこれも広い意味でD2Cと捉えています。というのも、流通の仕組みとだけD2Cを捉えるのは狭いと思っていて、顧客ときちんと向き合って、商品を届けるという、ある意味では「本来あるべき姿」に回帰するのがD2Cの本質だと思ってるからです。

ーからだデザイン食ー GOFOOD

ただ、従来のようにマスマーケティングで大量に販売するというモデルはこの姿勢とは遠いところにありました。「世の中の全ての人がお客さん」というような考え方で、大量にCMを出稿して、全員が同じ商品を使ってもらう事を目指すようなのがマーケティングとされていました。マーケティング担当者も現場から遠い場所にいて、顧客ではなく、市場を見た仕事になっていました。ここからの転換というのがD2Cの本質だと思っています。

―――なるほど、顧客との向き合い方の変化がD2Cだと

そうです。例えは悪いですが、今までは戦闘機で空爆していたのが、今後はヒットマンを雇って確実に狙うような感じでしょうか(笑)。

例えば地元でバーを開くとして、Instagramで100万人のフォロワーを集める必要はないですよね? それよりも地元にいる人、100人にフォローされた方がいい。数は集めなくても、何度も来店してくれて、お金をちゃんと落としてくれるファンを獲得できれば、それで商売が成り立つはずです。

同じようにブランドも規模は小さくても、熱狂的なファンを獲得する事でビジネスが成り立つ世界ができつつあります。顧客が細分化しているという見方もありますし、今までは本当は細分化されていたニーズに応えられなかった、それが工場も小ロットで生産できるようになり、流通も小回りが効くようになり、実現できるようになったという要因もあると思います。

例えばコスメの世界でピンクが好まれるというのは多分にステレオタイプだったと思うし、ピンクといっても色々なピンクがあります。他の選択肢をこれまでは提示できなかったのが、できるようになっているという側面があると思います。

―――D2Cブランドが既存の巨大ブランドを脅かしている面もありそうですが、既存ブランドはどう戦ったら良いでしょうか?

既に膨大な顧客がいて、それに会社が最適化してしまっている企業にとっては相当なチャレンジだと思いますが、細かなニーズに応えていくと経営のレベルで決断すべきでしょう。ただし、簡単ではないと思いますので、組織を分けたり、会社自体を分けたりする工夫は必要だと思います。ロレアルでも「ニックス」という別ブランドを立ち上げインフルエンサーを起用してD2C的な戦い方にチャレンジしていました。

既存の組織でやっていくためには、D2Cブランドは流通だけでなく、全ての発想がデジタルネイティブで作られているという難しさがありますし、細分化されたニーズに応えていくということは売上規模が大きくならないという事を意味するケースが大半だと思います。

―――D2Cブランドが既存の巨大ブランドを脅かしている面もありそうですが、既存ブランドはどう戦ったら良いでしょうか?

既に膨大な顧客がいて、それに会社が最適化してしまっている企業にとっては相当なチャレンジだと思いますが、細かなニーズに応えていくと経営のレベルで決断すべきでしょう。ただし、簡単ではないと思いますので、組織を分けたり、会社自体を分けたりする工夫は必要だと思います。ロレアルでも「ニックス」という別ブランドを立ち上げ賞品開発のはじめからインフルエンサーを起用してD2Cにもっと響きやすい戦い方にチャレンジしていました。

既存の組織でやっていくためには、D2Cブランドは流通だけでなく、全ての発想がデジタルネイティブで作られているという難しさがありますし、細分化されたニーズに応えていくということは売上規模が大きくならないという事を意味するケースが大半だと思います。

―――なるほど、D2Cブランドは大きなビジネスにするのが難しいと

それは別に悪い事じゃないと思いますね。特にデジタルネイティブの若い世代には、一昔前のようにビジネスで当てて一攫千金を目指すような考え方は薄いと付き合っていて感じます。それよりも持続可能で、多くの関係者を満足させながら、適切な利益を上げるという在り方が社会的にも求められているように思います。

ただ、もちろんビジネスを広げていく方法はあると思います。

一つは、D2Cは「Direct to Community」じゃないかと思う面もあって、尖ったものであれば特定の商品が好きなコミュニティが形成されていくと考えています。化粧品でも、単純に良い色が出るから、という機能の評価ではなく、世界観やライフスタイルが重視されるようになっていて、その価値観を共にするコミュニティですね。

その価値観にフォーカスすれば提供する商品は別に化粧品に限らないし、同じ世界感を持ったポーチがあってもいいし、アパレルなんかもあってもいいはずですし、自然にコミュニティが求めると思います。

柴田陽子がデザイナーを務めるアパレルブランド。BORDERS at BALCONY (ボーダーズアットバルコニー) 

私が関わっているBORDERS at BALCONYでも主にワンピース等の「服」を販売していたのですが、そのワンピースの世界観を気に入ってくれる人のライフスタイル全般を彩っていくという方向に転換、つまりキャップやバッグ、エプロンやヨガウェアーなども開発して、ラインナップとカテゴリーを広げています。

―――従来のブランド企業のように多数のブランドを持つというのもありそうですね

そうですね。1つ1つのブランドは小規模でも、尖ったブランドとそこに紐づくコミュニティを多数扱うことによって事業としての規模は広げられると思います。ただ、今までの化粧品ブランドのように、何千人もが一つのブランドに携わるというような世界にはならないでしょうね。それよりも、一人がパラレルワーキングで様々なブランドに携わりながら生きていくような世界観の方が近いと思います。ブランドと顧客という関係性はダイレクトに繋がるというよりも、一体化していくのかなと思います。

―――生産と消費が一体化していくと

ユニリーバのリプトン(紅茶)は「茶園から直接ティーポットへ」というのがブランドコンセプトです。ここには色々な意味が込められていると思うのですが、作るのもコミュニティ、消費するのもコミュニティという風に僕は捉えています。聞いていると、農園や工場の人達もリプトンのファンなんですね。作り手と消費者が一体化していて、皆の思いが一体になることで魅力的なブランドが作られている。

これは今携わっているブランドでも同じような発想を持っていて、スキンケアオイルなのですが、原料は地方で取れるので、地元の人に収穫をお願いして、現地で干したり殻を割ったりしてもらって、それが地元の経済を回す事に繋がり、さらに拾った種を拾って植える事で防風林になって街を守ってくれる、というようなコミュニティの中でビジネスが循環して、最初のファンになってもらう、というような事をやっていたりします。

―――とても面白いですね。今後のD2Cはどうなっていくと思われますか?

世の中は良い方向に向かっていると思っていて、それは先程も言ったように、拝金主義じゃなくて、本当に良いものを適切な価格で提供して持続可能なビジネスを作ろうという人がとても増えています。D2Cはそういう本質的に良いものを、顧客の方をきちんと向いて、提供する姿勢の事を指す言葉という風に理解されればと思います。

また、ブランドはメーカーが作るものという考え方も明らかに変わりました。僕のような個人でも色々なブランドを立ち上げられるようになったし、インフルエンサーも、主婦も、誰でも想いを込めた商品を作って売れる世の中になってきました。メディアだってブランドを立ち上げられるし、それをしない方が不思議な気もします。

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浜崎 正己
メディアの立ち上げと運用を支援する(株)メディアインキュベート の代表。1988年千葉県生まれ。Twitter : https://twitter.com/masaki_hamasaki

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