【メディア企業徹底考察 #22】米国事業好調で黒字化、ECと暗号通貨で描く”メルカリ経済圏”の未来予想図

株式会社メルカリが2021年6月期に51億8,400万円の営業利益を出し、2018年の上場以来初の連結黒字となりました。メルカリは、売上高を40~80%増という驚異的なスピードで成長してきた企業です。なぜ、赤字が止まらなかったのでしょうか?

■メルカリ業績推移(単位:百万円)

決算短信より筆者作成

その理由は黒字化した要因を見るとわかります。

2021年6月期は販管費を大幅に抑えることができたのです。メルカリの2020年6月期の販管費率は98.2%。2021年6月期は72.2%でした。販管費としてかかっている金額は、2020年6月期が749億2,100万円で2021年6月期は766億1,700万円です。売上高は39.1%増加しましたが、販管費は2.2%の増加に留まりました。これが黒字化できた要因です。

■売上高・原価・販管費(単位:百万円)

決算短信より筆者作成

中古品売買のプラットフォーム事業を展開するメルカリは、流通量が拡大しても原価が膨らむビジネスモデルにはなっていません。サービスを市場にフィットさせるための宣伝広告費が重くのしかかる構造をしています。日本国内では一定の知名度を得ていますが、認知拡大に苦労しているエリアがあります。アメリカです。メルカリは2014年にグロービス・キャピタル・パートナーズや伊藤忠テクノロジーベンチャーズなどから14億5,000万円を調達し、アメリカ進出していました。長年このアメリカ事業に苦労しており、赤字のもととなっていたのです。

フリマアプリのラクマは海外展開の足掛かりとして台湾を選び、2016年に進出しています。通常、新サービスを海外展開するときはアジア圏から攻め込みます。しかし、メルカリはあえてアメリカを選びました。理由はアメリカの中古市場の規模が大きいこと。そして決済と物流システムが整っていることです。このことから、メルカリはサービス提供から物流、決済までを事業展開の範疇と定めていることがわかります。

しかし、アメリカのオンライン中古市場はeBayという巨大企業が大部分のシェアを握っています。メルカリはどのようにして販管費を抑え、シェアを伸ばすことができたのでしょうか?

この記事では、メルカリのアメリカ市場における急成長、そして新規事業「メルカリShops」「メルコイン」でさらなる拡大を目指す”メルカリ経済圏”について解説します。

新型コロナウイルスという神風

[MMS_Paywall]

数字をみると、メルカリの黒字化は幸運に恵まれた可能性が極めて高いことがわかります。好機をもたらしたのが、新型コロナウイルスであり、厳しい外出制限を強いるロックダウンでした。結論を先に書くと、消費者が小売店に足を運びにくくなり、インターネットでの中古取引が活発になったのです。新型コロナウイルス感染拡大によってインターネット中古取引市場が膨張し、メルカリは販促費を抑えてもアメリカでの流通量を増すことができたと考えられます。

下のグラフはファッションアイテムの中古取引を行うTHREDUPが出した、中古市場の変化を表すグラフです。2020年のオンライン中古市場が27%増加(90億ドル≒9,900億円)したと算出しています。一方、小売り市場は23%減少(3,020億ドル≒33兆2,200億円)しています。オンライン市場は2021年に2019年比で69%増加(120億ドル≒1兆3,200億円)まで拡大する見込みです。

■アメリカファッションアイテム中古市場の変化

※「2020 RESALE REPORT」より

市場の急速な変化により、巨人eBayの流通総額も大幅に伸長しました。コロナ前は800億ドル(≒8兆8,000億円)前後で頭打ちの状態が続いていましたが、2020年に1,000億ドル(≒11兆円)を達成したのです。前年比17.0%もの増加でした。

■eBay流通総額(単位:億ドル)

次にメルカリを見てみましょう。下のグラフはメルカリのアメリカでの流通総額とアクティブユーザー数の推移です。2020年6月期第4四半期(4月-6月)で、急速に流通総額が伸びているのがわかります。前年同期比の2.8倍です。

■アメリカ事業GMV(流通総額)/MAU(アクティブユーザー数)の推移

決算説明資料より

2021年6月期第3四半期に流通総額3億ドルを突破して、3億2,000万ドル(≒352億円)を達成しました。メルカリは日本でも同様の現象が起こりましたが、アメリカほど伸びてはいません。2020年6月期第4四半期の国内の流通総額は1,804億円で、前年同期比1.4倍の伸びに留まりました。日本よりも外出制限が強かったアメリカでの潮目の変化が、いかにメルカリにとって大きかったかがわかります。

THREDUPはオンライン中古市場が2021年の360億ドル(≒3兆9,600億円)から、2025年に770億ドル(≒8兆4,700億円)まで伸びる予想を出しており、メルカリにとって有利な条件が続く可能性は高いです。

メルカリShopsとメルコインで拡大するメルカリ経済圏

アメリカ事業が思わぬ形でひと段落したメルカリ。恒常的な黒字となれば、事業への投資も加速するでしょう。

決算説明資料より

今後、メルカリが力を入れる事業は大きく2つあると考えられます。1つはコード決済サービス「メルペイ」、もう1つは新規事業です。メルカリは2019年2月にメルペイを開始し、2021年4月に利用者数は800万人を超えました。メルペイの仕組みはPayPayなどと同じですが、ターゲットが大きく異なります。

メリカリが決済を始めた目的は、メルカリで取引をするとユーザーの売上金が銀行に振り込まれ、必要なときに現金を引き出して使うという煩雑な流れを解消することでした。メルペイを使うことにより、銀行を経由することなく、メルカリで取引されたお金をレストランやスーパーで使うことができます。不用品の処分と生活必需品の入手という流れをシームレスにつなぐことが大命題としてありました。ここを軸にして考えると、メルカリの事業展開は一つの柱が通っていることがわかります。

メリカリは2021年1月に株式会社ソウゾウを立ち上げました。ソウゾウはスマートフォン上でECサイトを開設する「メルカリShops」をリリースしています。中古取引からECへと軸をずらしたのです。これにより、メルカリで不用品を売り、メルカリShopsで必要なものを買うという流れができ、それを媒介するメルペイの利便性は上がることになります。メルカリは経済圏を広げました。

そして2021年4月に株式会社メルコインを設立しました。暗号通貨事業へ参入し、資産運用や与信へと事業を拡大するものと考えられます。

※「株式会社メルコイン設立に関するお知らせ」より

メルコイン立ち上げ以前、メルカリは資産運用サービス「Funds」と提携し、2020年11月に「メルカリ サステナビリティファンド#1」を立ち上げました。1億円の募集金額に対して、40秒ほどで満額申し込み達成するほどの人気を得ています。このファンドはメルカリの売上残高でのみ投資が可能で、年2.0%の利回りで運用するというものです。

暗号通貨の投資と同じ、閉じた経済圏での資金確保はこの時点で成功していました。メルカリは独自の暗号通貨を開発することにより、投資ニーズを自前で獲得しようとしています。

アメリカ事業が軌道に乗ったことで、2021年からメルカリの新規事業開拓は活発になりました。経済圏を拡大する手法は楽天とよく似ています。経済圏をどこまで拡張できるのかが、メルカリの次の成長フェーズのポイン

2,779ファンいいね
226フォロワーフォロー
2,470フォロワーフォロー

【12月6日更新】メディアのサブスクリプションを学ぶための記事まとめ

デジタルメディアの生き残りを賭けた戦略の中で世界的に注目を集めているサブスクリプション。月額の有料購読をしてもらい、会員IDを軸に読者との長期的な関係を構築。ウェブのコンテンツだけでなく、ポッドキャストやニュースレター、オンライン/オフラインのイベント事業などメディアの立体的なビジネスモデルをサブスクリプションを中核に組み立てていく流れもあります。

最新ニュース

関連記事