キャラクターのライセンスビジネスなどを手掛ける株式会社サンリオが、2022年8月2日に早くも2023年3月期通期の業績予想を上方修正しました。売上高は従来予想を5.1%上回る574億円、営業利益は56.7%もの増加となる47億円を見込んでいます。
国内外のロイヤリティが前期と比べて大幅に伸びていることや、テーマパーク「サンリオピューロランド」の集客状況が改善しました。
サンリオは2022年6月に開催した定時株主総会で新取締役3名の就任を決議。新たな経営体制で好スタートを切りました。しかし、中長期的には苦戦が予想されます。
通期の営業利益率は4.8%→8.2%に回復
サンリオの業績が予想通りに着地をすると、新型コロナウイルス感染拡大が深刻化する前の2020年3月期の売上高、営業利益を上回ります。2021年3月期は32億8,000万円の営業赤字となりましたが、V字回復を果たしました。
■サンリオ業績推移


サンリオの業績回復への貢献度が高かったのは、主力となる国内の物販。3年ぶりに全期間にわたっての営業が可能となり、店頭イベントの実施で集客に成功しました。
■前年同期比増減に対する各地域の影響額(売上高・営業利益)

営業制限の撤廃や、消費者のコロナに対する警戒感が薄れたことにより、サンリオピューロランドやハーモニーランドの入園者も増加しています。2022年4-6月の累計入園者数は前年同期間比でサンリオピューロランドが190.5%、ハーモニーランドが182.8%となりました。入園者はおよそ2倍に膨らんでいます。
ピューロランドは3期ぶりに1Qの黒字化を実現しました。
営業利益においては、アニメやゲームキャラクター、アーティストとのコラボレーション企画が好調に推移し、新規案件の獲得数が増加するなど、ライセンス事業が改善効果に一役買っています。
中国はゼロコロナ政策に転換し、未だに厳しい行動制限が課されています。サンリオはヘルス&ビューティー関連で現地の有名化粧品ブランドとのコラボレーション商品を展開。2022年4-6月は前年同期間と比較して売上高を8億円近く上乗せすることができました。
2023年3月期第1四半期時点での営業利益率は17.2%。コロナ禍の痛手から立ち直り、回復基調が鮮明になりました。
ただし、サンリオは2015年3月期の営業利益率が23.4%でした。上の業績推移のグラフを見ると一目瞭然ですが、中長期的な視点で見ると稼ぐ力は失われています。
[MMS_Paywall]
強力なキャラクターを生み出せないジレンマ
サンリオはキャラクターを開発し、直販グッズの販売や他社へ権利を付与してロイヤリティ収入を得ています。近年はヒットにつながる新キャラクターを生み出せていません。
下の表は各エリアの物販、ロイヤリティの推移です。2022年3月期の売上高は、アジアのロイヤリティを除いたすべての項目で2015年3月期を下回っています。
■エリア・事業別売上高推移(単位:億円)

2015年3月期ごろまでは、「ぐでたま」、「KIRIMIちゃん.」、「Show By Rock」などの新たなキャラクターの創造に邁進していた時期です。ぐでたまは一時ハローキティ、マイメロディに次ぐ人気を獲得するまでに成長。Show by Rockは従来のサンリオファンである女性若年層から、成人男性へとターゲットの裾野を広げることに成功しました。
Show by Rock の音楽ゲームアプリは2018年8月にダウンロード数が350万を超えるヒット作となりました。テレビアニメは2021年1月に3期が放映されています。
サンリオは新たなヒットキャラクターを生み出すためのIP創造部を新設し、「NEXT KAWAII PROJECT」というファン参加型のキャラクター発掘プロジェクトをスタートしました。しかし、その成果は今のところ出ていません。
欧米の”kawaii”を浸透させたハローキティ、その立役者は?
サンリオは鳩山怜人氏を見限ったことが業績低迷に拍車をかけたのではないか、という疑念が頭をもたげます。
鳩山怜人氏は2008年5月にサンリオ米国法人のCOOに就任しました。創業者・辻信太郎氏の長男で副社長を務めていた辻邦彦氏からのラブコールを受けてのものでした。 鳩山怜人氏は三菱商事株式会社に入社し、エイベックス株式会社などのコンテンツビジネスに携わっていました。
サンリオは2005年3月期にサンリオピューロランド、ハーモニーランドの減損損失219億円を計上。財務状況が悪化したため、三菱商事などを引受先とする第三者割当増資を実施しました。サンリオと三菱商事はアニメ制作などで提携します。
鳩山怜人氏と辻邦彦氏との出会いが生まれ、米国法人COO就任の提案へとつながりました。
海外事業の経営再建に乗り出した鳩山怜人氏は、従来の物販中心のビジネスから方向転換。ライセンス方式でBtoBに舵を切ります。2012年までに欧州で759社、北南米で597社とライセンス契約を結びました。
ハローキティは「仕事を選ばない」キャラクターとして知られ、消火器やゲーミングチェアなど、思いもよらない商品とコラボレートしています。これはライセンスビジネスへと急速に舵を切ったため。当時、レディ・ガガやブリトニー・スピアーズなどのセレブリティが、メディアやSNSでハローキティのファンであることを公言していました。マーケティング戦略も絶妙なものでした。
鳩山怜人氏は海外事業立て直しの功績が買われて2010年6月取締役に就任します。しかし、一番の理解者だった辻邦彦氏が2013年11月にロサンゼルスで急性心不全のため急逝してしまいます。
創業者・辻信太郎氏は同族経営に固執しました。2016年6月の株主総会で、孫の辻朋邦氏を取締役に昇格させ、次期社長の有力候補だった鳩山怜人常務の退任を決議したのです。
2020年7月に辻信太郎氏は社長から会長へと退きました。辻朋邦氏が社長に就任します。
辻朋邦氏は1988年11月生まれの33歳。2014年にサンリオに入社しています。わずか1年で専務に昇格しており、十分な経験を積んでいるとは言えません。
サンリオは中期経営計画において、2024年3月期までに2021年3月期と比較して17億円の利益改善を行う目標を立てています。しかし、本腰を入れて取り組むべきは新規IPの創造。その具体的な方針が見えてきません。
サンリオは売上高の成長力を失い、かろうじて利益を出す典型的な”ゆでガエル”企業になりつつあります。そこから抜け出すための具体的な戦略を打ち出すことが重