資産形成情報メディア「MINKABU(みんかぶ)」を運用する株式会社ミンカブ・ジ・インフォノイドが、2022年9月28日にLINE株式会社のライブドア事業を72億円(株式の取得価額71億円+アドバイザリー費用1億円)で買収すると発表しました。
ライブドアの売上高は40億円。ミンカブの2023年3月期の売上予想は75億円であり、目標としていた売上高100億円を達成します。
ミンカブはライブドアの買収によってユニークユーザー数を現在の875万人/月から、8,000万人規模まで拡大できるとしています。収益基盤を大きく広げられる可能性があります。
その一方で、買収によって生じるのれんの償却費が収益性を圧迫するデメリットがあります。
伸び悩むメディアのサブスクリプションサービス
ミンカブ・ジ・インフォノイドは「MINKABU」のほか、株式情報メディア「Kabutan(株探)」を運営しています。メディア事業以外に、収集したデータを金融機関などに配信するソリューション事業も展開しています。
2022年3月期の売上高は前期比31.8%増の54億8,200万円、営業利益は同15.2%増の8億7,400万円でした。営業利益率は15.9%。ミンカブの事業内容は経済情報サービス「SPEEDA」や経済情報メディア「NewsPicks」を運営する株式会社ユーザベースとやや近いところにあります。
ユーザベースの2021年12月期の営業利益率は9.3%。ミンカブはユーザベースよりも稼ぐ力が強く、急成長している会社でした。
■ミンカブ・ジ・インフォノイドの業績推移(単位:百万円)


成長力のあるミンカブですが、投資情報という限られた枠組みで事業を展開しているため、メディアのユニークユーザー数を伸ばし続けることが難しく、売上高が頭打ちになる可能性がありました。
ミンカブのメディア事業2022年3月期の月額課金収入は2億9,900万円。BtoBのソリューション事業は21億7,500万円でした。メディア事業は利益率の高いストック型収入への貢献率が低かったのです。
既存事業の殻を破るべく、大型の投資に踏み切ったのがマスメディアを運営するライブドアの買収です。
事業領域拡大を見出せるM&A
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ミンカブはライブドア買収後のメディアマーケティング戦略として、ライブドアを有効活用してSEO依存から脱却するとしています。
メディア運用において、新規流入のパイプは限られます。自然検索、別メディア、SNS、広告が多くのメディアの流入口の大部分を占めるでしょう。その中でも自然検索は、特定のキーワードで上位表示ができると恒常的な流入が見込めるため、多くのメディアで苛烈なキーワードの獲り合いを続けています。
特にコンバージョン単価の高い投資情報関連キーワードで上位を獲るのは容易ではありません。その点、すでにマス層との接点があるライブドアを活用することで、「MINKABU」や「Kabutan」へとユーザーを送り込むことができます。
ミンカブの発表通りライブドアが月間7,000万ユーザーを持っていたとすると、1%のユーザーを遷移させるだけで70万のユーザーが「MINKABU」や「Kabutan」を訪問することになります。現在のミンカブのユーザー数の1割が獲得できる計算です。
そして買収の一番のメリットは、何と言ってもミンカブの現在の弱点(事業領域が投資情報に限られていること)を克服し、ビジネスの可能性を広げられることでしょう。

ミンカブはマス層にアプローチすることにより、TAM(進出可能市場)を拡大でき、AIやNFT、Digital Marketingへと事業領域が広げられることを示唆しています。
また、ライブドアの利益率の高さも魅力的。ミンカブのデューデリジェンスで算出したライブドアの売上高は40億円、営業利益は10億円です。営業利益率は25%。2023年3月期のミンカブの業績予想にライブドアの業績を入れると、売上高は115億円、営業利益は22億5,000万円。営業利益率は19.6%となります。
しかし、これほど単純ではありません。のれんの償却費が発生するためです。ミンカブはこの株式の取得に71億円もの資金を投じました。
のれんの償却費で営業利益率が今よりも落ちる?
このM&Aで、どれほどののれんが発生するのか試算してみましょう(数字は参考として独自に算出しているものです)。
ライブドアの売上高は40億円。一般的な会社の総資産回転率は1.0と言われています。その数字を当てはめると、ライブドアの総資産は40億円ほど。自己資本比率が安全基準と言われる30%だったとします。そうすると、自己資本は12億円。ここでは自己資本と純資産を同額とします。純資産額は12億円です。
ミンカブは株式を71億円で買収しているので、のれん(買収額と純資産額の差額)は59億円と巨額。更にミンカブは日本の会計基準を採用しています。のれんの償却費を毎年計上しなければなりません。
仮に10年で償却するとします。年間の償却費は5億9,000万円。のれんの償却費を加味した営業利益は16億6,000万円。営業利益率は14.4%。営業利益率は買収前の業績予想で出している16.7%を下回ります。
ミンカブのM&Aは、ターゲットを絞り込んで展開していたメディアが、マス層向けのメディアに手を伸ばした稀有な事例。一時的に利益率を落とす可能性はありますが、次なるステージに向けた準備期間だと捉えることもできます。
ミンカブの株価は、発表翌日の9月29日にストップ高の2,183円(4.41%高)で張り付きました。この買収を市場は好感しています。
M&Aがミンカブの成長をけん引するのであれば、新興企業を中心にマスメディアを獲得する動きが加速するかもしれ