【メディア企業徹底考察 #109】成長性が失われたZホールディングスが300億円削減の大改革を実行

Zホールディングス株式会社が、大きく生まれ変わろうとしています。Zホールディングスとヤフー、LINEの3社を合併し、新会社LINEヤフーを2023年10月に設立する計画です。 新会社が誕生するタイミングで、LINEとYahoo!JapanのIDを連携。2024年にはPayPayとのID連携も進め…

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Zホールディングス株式会社が、大きく生まれ変わろうとしています。Zホールディングスとヤフー、LINEの3社を合併し、新会社LINEヤフーを2023年10月に設立する計画です。

新会社が誕生するタイミングで、LINEとYahoo!JapanのIDを連携。2024年にはPayPayとのID連携も進めるとしています。合併後は役員報酬の削減やオフィスの集約、業務委託費の大幅な見直しを行い、固定費を300億円削減します。

今回の大改革のポイントは、新会社の社名の通りLINEが強い力を持つこと。これは、ヤフーの勢いに影が差したことを如実に物語っています。

ヤフーを追い越すという野心がライブドアの泥沼買収劇に発展

LINEとヤフーの力関係をよく表しているのが、4月1日からのトップ交代。もともとは川邊健太郎氏と出澤剛氏のツートップ体制を敷いていました。しかし、出澤氏が代表取締役社長 CEOとなり、川邊氏は代表取締役会長となりました。川邊氏は代表の名がついているものの、CEOという肩書が外されています。

この変化は日本のインターネット史を振り返っても、非常に興味深い内容です。

川邊健太郎氏といえば、青山学院大学在籍中に伝説的なベンチャー企業・電脳隊を設立したことで有名。ホームページ制作などの受託事業を行っていました。やがて孫正義氏との交流が生まれ、最終的にこの会社はヤフーが買収することになります。川邊氏はヤフーに籍を置き、やがて会社をけん引する存在となりました。

ヤフーはポータルサイトの運営会社として国内トップの地位にありました。その後を追いかけていたのが、ライブドア。堀江貴文氏が設立した会社オン・ザ・エッヂが2002年に事業譲受しました。買収後にライブドアと社名を改めた通り、ポータルサイトの運営が主力事業となります。

出澤剛氏は朝日生命保険の社員でしたが、オン・ザ・エッヂへの社内留学を経て2002年に入社しています。ちょうどライブドアを事業譲受したタイミングでした。

堀江貴文氏が率いるライブドアは、近鉄バッファローズやフジテレビに対する買収を仕掛けて世間を驚かせました。無謀とも言える買収戦略は、球団やテレビを使ってライブドアの知名度を上げる目的がありました。日本において絶対王者となったヤフーを追い越すためには、マスメディアや球団など宣伝力の強いものが必要だと考えたのです。

しかし、ライブドアは買収に失敗した上、2006年に粉飾決算が明るみに出て信用が失墜します。クライアントが広告出稿から手を引いた影響で、ポータルサイトの売上高は全盛期の1割程度まで落ち込んだと言われています。

どぶ板営業で信頼回復に務めた出澤氏

服役する堀江貴文氏の後を継いだのが、グループ傘下にあった会計ソフト開発の弥生の社長・平松庚三氏でした。平松氏はライブドアのガバナンス正常化を果たす役割を担いました。その裏で本業の立て直しに尽力していたのが出澤剛氏でした。クライアントの信用を取り戻すため、泥臭い営業を重ねたことで知られています。他の会社に移るという選択肢もある中で、再建に奔走したことは出澤氏の忠誠心の強さや仕事に対する熱意を如実に物語っています。

2007年にライブドアの代表取締役に就任しました。ライブドアは2012年にLINEの前身であるNHN Japanに買収されました。

堀江貴文氏がトップだった時代のライブドアは、インターネット事業とM&Aや投資を行うファイナンス事業が真っ二つに分かれており、粉飾を仕組んだのは取締役の宮内亮治氏が率いるファイナンス事業の方でした。

インターネット事業には優秀なエンジニアが多数集まっており、LINEはその技術者たちを迎え入れることができました。LINEの躍進はライブドアの存在なくして語ることはできません。

出澤氏は2014年にLINEの代表取締役 COOに就任。2015年にCEOとなりました。Zホールディングスとの経営統合後、2021年にZホールディングスの代表取締役Co-CEOとして川邊健太郎氏とのツートップ体制を確立。今回の合併でZホールディングスのCEOに就任します。

出澤氏はかつてその背中を追いかけたヤフーの単独トップに立って、会社のかじ取りを行うことになったのです。

川邊健太郎氏はM&Aでヤフーのコングロマリット化を進め、巨大企業へと押し上げました。しかし、中期目標として掲げた2023年度に調整後EBITDA3,900億円という目標は未達が濃厚。Zホールディングスは2024年3月期の調整後EBITDAを上限で3,660億円と予想しています。

バランス重視の川邊氏は思い切った決断ができず、LINEやPayPayの統合を進めることができませんでした。そこで、推進力や突破力のある出澤氏がトップに立つことになったのでしょう。

広告とEコマース特需が終わりを告げた

■Zホールディングスの業績推移

決算短信より

Zホールディングスの2023年3月期の売上高は前期比6.7%増の1兆6,723億円、営業利益は同66.0%増の3,145億円でした。Zホールディングスは2021年4月期4QにLINEと経営統合し、2023年3月期下期にPayPayを連結子会社化しています。

2022年3月期は広告関連の特需の影響を受け、広告事業の売上高は前期比15.2%増の5,815億円と大幅に伸びました。しかし、2023年3月期はその反動の影響を受け、1.7%増の5,914億円に留まっています。

Eコマースの取扱高も、2021年3月期は24.4%増、2022年3月期は18.7%増と二桁増を続けていましたが、2023年3月期は7.4%に留まりました。特需の影響が消失したことは、Zホールディングスが大改革を決断する要因になったと考えられます。

みずほフィナンシャルグループとLINEが進めていた「LINE Bank」プロジェクトの凍結や、動画配信「GYAO!」のサービス終了も改革の一環。2023年3月期はライブドアやワイジェイFXの売却を行い、スリム化を図りました。

意思決定のスピードが上がったように感じられ、出澤体制を構築する本気度が伝わってきます。

ヤフーはITコングロマリット化する中で、ポータルサイト上に様々な情報が溢れる雑多なものへと変化しました。その一方で、LINEはコミュニケーションツールとしての磨き込みを行い、マーケットにフィットして瞬時に拡大しました。

出澤氏による今回の大改革は、LINE流のスピード感とスリム化がカギとなるでしょう。その手腕に注目が集まります。

《不破聡》

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