世界17カ国で展開されている「Business Insider」(ビジネス・インサイダー)。ミレニアル世代に向けた経済メディアとして破竹の勢いで成長を続けています。日本版は株式会社メディアジーンによって、2017年1月にローンチしました。創刊から2年で月間5000万View(Yahoo!など外部メディアで見られたものも入れているの)を超え、日本でも存在感を高めています。

Business Insider Japan」の統括編集長を務める浜田敬子氏は、朝日新聞社に新卒で入社したのち記者として支局や週刊朝日で勤務。その後、「AERA」で組織や職場の問題、国際ニュースなどを取材、初の女性編集長を務めました。浜田氏に「Business Insider Japan」の目指すメディアや組織像について聞きました。

グローバルで日本企業の情報は求められてない

―――朝日新聞から「Business Insider Japan」の編集長という転身は話題になりましたね

朝日新聞社時代は主に「AERA」の編集部に17年在籍し、最後は編集長をやりました。その後は1年だけ新聞に戻って事業開発に携わっていたのですが、やっぱりニュースの編集に関わりたいと考えていたタイミングで、今田素子氏(メディアジーン代表取締役CEO)に「Business Insider」を一緒にやらないかと声を掛けてもらったんです。

尊敬する元週刊朝日編集長にも、「メディアの創刊に携われるのは一生に一度あるか無いかのチャンス」と言われていたので、迷わず決めました。

―――グローバルで急成長している経済メディアですが、どのように日本版を立ち上げていったのでしょうか?

移ってすぐに本国のCEOとミーティングをしたのですが、そこで言われたのが「日本企業の情報にはあまり興味がない」という言葉でした。どういう経営者を取材すれば面白いかと聞いても「孫正義だけでいい」と。グローバルな経済メディアからすると、日本が先端ビジネスで戦っているという認識はもはやないということにショックを受けました。

―――厳しい現実です

でも日本に関心が無いわけじゃないんですね。日本は海外の人にとって人気の旅行先です。だから関心はある。

でも、その方向は先端ビジネスや技術じゃなくて、ライフスタイルや、食や文化なんだろうなと。映画やアニメも強い。面白い、可愛い、快適、みたいな本当に生活を豊かにするような分野はまだまだ日本は得意なんじゃないかなと。

GAFAに匹敵するようなビジネスは産めなくても、もっとニッチな部分に日本の面白さがあるんじゃないかと思います。

―――「Business Insider Japan」はミレニアル世代のビジネスパーソンをターゲットにした経済メディアを標榜してます

20代、30代を取材すると、社会課題を解決するようなビジネスに取り組んでいる、取り組みたいと思っている人が多いなあと感じます。例えば最近取り上げたものでは、引っ越しのシェアリングサービスや、農水省の元官僚が立ち上げた定額の泊まり放題のサービスというようなものがありました。こういう地に足の付いた社会課題からスタートしたものが、もしかすると世界に通用するようなものになっていくかもしれません。

ミレニアル世代のビジネスパーソンを主要ターゲットとしている「Business Insider Japan」。日本からもミレニアル世代が取り組む、面白いビジネスが続々生まれているといいます。

―――面白いですね。グローバル版とは異なる部分もあるのでしょうか?

ミレニアル世代のビジネスパーソンがターゲットという根本は変わりませんが、作り方は自由にやらせてもらっています。

私が「AERA」という雑誌にいましたので、作り方は雑誌に近いかもしれません。グローバル版はオープンジャーナリズムと言いますか、他のメディアも引用しながら、分かりやすく簡潔に今の世界の出来事を伝えるという点に強みがあります。一方で「Business Insider Japan」は自分たちで企画を立て、オリジナルな視点で取材して記事を作っています。

速報では日経やロイターには勝てません。だから、独自の視点や切り口で第二報を狙おうと言ってます。毎週の企画会議では各編集部員が企画を出し、議論してます。

「AERA」では一つのテーマを20ページ以上やる特集主義だったので、最初
「Business Insider Japan」 でも一つのテーマを連載したり、と特集感を出そうとしていました。ですが、デジタルは単体の記事で勝負だなと気づいのです。

私たちの記事はオンサイトで読まれるだけではありません。ヤフーやSmartNews、LINEなどの配信先にも多くの読者がいます。それぞれのプラットフォームで読者は違います。こちらがこの記事はどう読んでほしい、と決めつけるのでなく、読み方はかなり読者に委ねられていると感じます。プラットフォームごとにどんな記事が読まれるか、研究しながら記事を作ってます。

例えばインフルエンザの記事では、ヤフーでは、受験生の親がピリピリしているという記事が読まれました。一方、SmartNewsではビジネスパーソン向けに職場でのインフルエンザ対策について書いた記事が読まれました。

―――デジタルでは読者を理解するのが大変になりますね

ただ、私の読者の2/3がミレニアル世代です。彼らを理解するのはとても大事だと思っています。

去年は50人ぐらいの読者と朝食を取りながら色々な会話をするという取り組みをしました。そこで読者の方が何に関心を持っていて、どんなものが好きで、どういう記事を面白いと思ってくれるのか吸収することができました。また、イベントも増やしてます。こういうリアルな接点は大切だと思いますね。

―――イベントといえば、アワードも先日実施されましたね

Beyond Millennials 」は1月13日で創刊2周年を迎えるということで、いつもお世話になっている取材先、読者、クライアントの方たちに何を返せるか、どういうコンテンツが一番喜んでもらえるかと考えた時に、私たちが一番今時代を象徴している人たちを紹介しようと考えたのがきっかけです。挑戦するミレニアル世代を「Gamechanger」として表彰させていただきました。私が言うのも変ですが、とても暖かくていいイベントで、皆さんのスピーチも思わず涙ぐんでしまうような素晴らしいものでした。

1月17日に開催された「 Beyond Millennials 」では 固定概念を打ち破り世界を変えるプレイヤーを「Game Changer 2019」として表彰した

会社の看板なしに戦えるか

―――編集部はどういった体制なのでしょうか?

いま編集部は総勢12名です。営業とエンジニアは他の編集部と共有しているので、編集部とは別にいます。元々は翻訳記事も多かったのですが、現在ではオリジナル記事に注力していて、記者の割合が増えてます。

―――どういった人材を求めてますか?

ビジネスメディアですので、ビジネスやテクノロジーの取材経験のある人。でもミレニアル世代に向けたメディアですのでできれば読者と年齢が近い人が欲しいですね。今は20代から40代前後が多いです。オールラウンダーより、何かに特化した尖った人材がいいですね。

少ない人数で運営してますので、指示待ちではなく、自ら企画を出して動けることが必須です。新聞社では教育がしっかりしていて基礎的な取材力がついている人は多いのですが、、各自の持ち味が削がれてしまうケースもあるように思います。記者クラブに所属していれば、勝手に情報が集まると錯覚するような環境もあって、なかなか自分から企画を立てて、独自の視点を養う、という機会を自分で意識していかないと身につきにくいと感じます。一方のデジタルメディアでは速報のニュースばかりを手がけているメディアも多いです。それが嫌でここに来てくれる人も居ますね。

若い記者には指導もしますが、最初は自分で突っ走って、学ぶのが大事かなと思います。25,6歳でもどんどん大きな取材を任せるなど場数を踏んでいくと、自分で工夫して、こうすればもっと面白くなる、読まれる、と提案できるようになります「TikTok」も私達はいち早く報じていましたが、私たちが全く知らないけど、若い記者の嗅覚を信じました。

―――面接ではどんなことを?

結構シンプルで「どんなニュースが面白いと思っているか」「どういう記事を書きたいと思っているか」というような事を聞きます。意外と答えられない人が多いんです。どこに所属していた、というのは余り関係ないですね。「Business Insider Japan」はまだまだ新興メディアで、少人数で戦ってますので、会社の看板や記者クラブを取り払った時に、何を持ってるか、というのが問われると思います。

―――ビジネス面では広告収益がメインでしょうか?

創刊から2年が経ち、編集部の体制が整い、ようやく規模も大きくなってきました。ビジネスプロデューサーも加わって、ようやく昨年夏頃から広告も成長しています。ようやく歯車が回ってきたように感じてます。

―――今後はどのように伸ばしていく考えでしょうか? サブスクリプションも検討されているのでしょうか?

イベントや会員制などは視野に入れてます。本国では広告モデル以外のビジネスもやっていて、そのうちいくつかは私たちもやってみたい取り組みです。

―――コンテンツ面では動画にも力を入れられているように見受けられます

取材したコンテンツの見せ方はまだまだ工夫の余地が十分あると思います。動画は、まだまだこれからですね。今「dTVチャンネル」で放送されている「NewsX」という番組では金曜日を担当していて、毎週経済ニュースを深掘りしてます。

新聞記者時代は「あまり個人が出過ぎる」ことを躊躇させる雰囲気をありましたが、これからの記者は記事を書いたり、写真や動画を撮ったりするのは当たり前、他のメディアに出演して喋ったり、解説することもできるスター記者になっていかないといけないと思います。私自身もテレビのコメンテーターをしてますし、他の編集部員を推薦することもあります。媒体を宣伝するチャンスでもありますし(笑)。

―――コンテンツ作りの面でグローバル版からの学びはありますか?

USとは毎月1回はテレビ会議をしていて、そこでの学びもあります。毎年1回、ニューヨークで各国版の編集長が集まるサミットもあって、そこでは各国の取り組みや成功事例が共有されます。各国で人気の記事は毎日メールやチャットで共有されてます。

例えば、データやチャートを多用したものや、画像がメインでテキストがサブのようなスライドショーの記事も本国では人気を集めています。「Business Insider Japan」は重めの記事が多くなってますが、どんどん各国版を参考にして、新しいフォーマットにも今後は挑戦していきたいと思います。

―――ありがとうございました

いま経済メディアが熱い

Media Innovationの2019年2月特集は「経済メディア」。主要経済メディアに直撃。各社の戦略や目指す未来について聞きます。(順次公開予定)

  1. いま経済メディアが熱い、新旧プレイヤーが入り乱れる経済メディアを大特集<予告編>
  2. 日産に「クーデターですよね」と聞く、ソーシャル経済メディア「NewsPicks」金泉俊輔編集長インタビュー
  3. ミレニアル世代が向き合う社会課題解決型ビジネスが日本を面白くする・・・17カ国で展開する「Business Insider」日本版の浜田敬子統括編集長インタビュー
  4. 2億PVの国内有数の規模を誇るメディアはこれから何を目指すのか・・・「東洋経済オンライン」武政秀明編集長インタビュー
  5. データとビジュアルで世界の企業情報を分かりやすく発信する・・・「Stockclip」代表取締役CEO野添雄介インタビュー
  6. 「日経電子版」山崎浩志 デジタル編成ユニット長インタビュー

Media Innovationでは、「Media Innovation Meetup」として毎月イベントを開催していきます。第一弾としてNewsPicksの金泉編集長を招いて「経済メディアが考えるサブスク時代のメディア作り」を2月13日(水)19時より渋谷で開催します。ぜひご参加ください。現在Peatixでチケットを販売中です。