グルメメディアのぐるなびが大苦戦を強いられています。2021年3月期第3四半期の売上高は前期比48.6%減の120億4,100万円。営業損失を62億5,000万円計上しました。緊急事態宣言前の2020年3月末に192億7,000万円あった純資産は127億4,400万円まで減少。自己資本比率は80.1%から50.9%まで急降下しました。今期は更に30億円程度の損失を計上する見込みとなっており、純資産額は100億円を割り込む可能性があります。
競合のグルメメディア食べログの2021年3月期第3四半期の売上高は、前期比31.5%減の135億9,800万円となりました。売上高の減少幅はぐるなびが17ポイントも上回っています。ポータルサイトで飲食店の紹介をし、広告料とWeb予約課金から収益を得ている両メディアで、なぜこれほどの差がついたのでしょうか。
■ぐるなび、カカクコム(食べログ)2021年3月期第3四半期業績(単位:百万円)

有料プラン契約店舗数が減少に転じたぐるなび
2020年12月末時点でのぐるなびの有料プラン契約店舗数は56,805。前年比で3.8%減少しています。一方、食べログは前年比0.9%の増の59,900店舗が有料プランに契約しています。食べログはコロナ禍でも契約店舗数を伸ばしました。ぐるなびはストック型サービスと呼ばれる、ポータルサイトへの定額広告料が収益の大半を占めています。2020年3月期第3四半期のストック型サービスの売上高は63億8,500万円。売上高全体の75.0%を占めていました。
2021年3月期第3四半期のストック型サービス売上高は、32億5,000万円と前期比49.0%もの減少となりました。ストック型が全体の売上高に占める割合は52.5%まで縮小。ぐるなびはWeb予約課金のスポット型サービスが、Go To Eatキャンペーンによって膨らみました。2021年第3四半期は17億5,000で50.0%増加していますが、ストック型の穴を埋めるには至っていません。
■ぐるなび売上高内訳(単位:百万円)

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新型コロナウイルスの感染拡大で外食需要が急減した上、自治体から時短営業や休業要請が出されたことにより、飲食店は販促費を抑えざるを得ない状況に追い込まれました。グルメメディア各社は一時的に広告費を減額し、需要回復を待って再び課金するなどの対応をとっています。たとえ飲食店が倒産したとしても、外食需要の回復とともに新たな飲食店が入るだけのこと。グルメメディアは持久戦を強いられているのです。
しかしぐるなびは、その中でもとりわけ厳しい戦況に立たされているといえます。理由は居酒屋と宴会に特化したメディアという位置づけから抜け出すことができていないからです。
飲食店探しの食べログ、宴会場所探しのぐるなび
Webサイトの数値を計測するsimilarwebを使い、ぐるなびと食べログのアクセス数の推移を見てみます。ぐるなびと食べログのアクセス数はコロナ前(2020年2月以前)で2.5倍ほどの開きがありました。
■ぐるなび、食べログの流入数推移(単位:千アクセス)


注目したいのは2021年3月の数字。食べログは緊急事態宣言前に入る直前の2020年3月の水準(前年比98.1%)まで戻しています。しかし、ぐるなびは93.8%に留まりました。ぐるなびと食べログのアクセス数の差はコロナ禍で3倍に広がっているのです。
これは何に起因するのでしょうか。
下の表は「渋谷」「上野」と外食に関連するキーワードを掛け合わせて、Googleで検索した順位の結果を並べたものです。ぐるなびは「宴会」「居酒屋」「個室居酒屋」などのキーワードで1位を獲ることに成功していますが、コロナ禍で外食のトレンドとなった「焼肉」では食べログが圧勝。イタリアン、おいしいお店など、飲食店を選ぶ基準との掛け合わせで食べログが独走しています。
宴会、居酒屋キーワードは需要が消滅し、ぐるなびへの流入数が途絶えたものと考えられます。

黙食、三密の回避が叫ばれる飲食業界において、居酒屋は最も苦戦している分野です。日本フードサービス協会の外食業市場動向調査によると、2021年2月の居酒屋の売上高は前年比30.5%となりました。焼肉は62.8%、洋風レストランが66.6%です。
■日本フードサービス協会「2月度全店データ」

居酒屋の代表的な企業であるワタミの2021年3月期第3四半期の売上高は、前期比33.3%減の465億2,100万円となりました。宴会需要の急減で居酒屋の経営が苦しくなったワタミは、日本政策投資銀行から資本性ローンによって100億円を調達すると報じられています。多くの資金は居酒屋の業態転換費用に投じられるとみられます。「焼肉の和民」への転換です。
ワタミのような居酒屋企業はこれまで、ビルの2階以上の空中階といわれる場所に出店し、家賃を抑えてぐるなびの広告費に充てていました。空中階で目立ちにくく集客しにくいというデメリットを、ぐるなびでまかなっていたのです。ぐるなびは居酒屋が必要としていた宴会を獲得するメディアとして、多額の広告費を得ていたといえます。
居酒屋を焼肉店に転換するワタミにとっては、今後ぐるなびよりも食べログに出稿した方が集客面では有利です。
事業の伸長よりも経費削減に努めた方が得策か
そのような中、ぐるなびは「楽天デリバリー」と「楽天リアルタイムテイクアウト」の事業を楽天から譲受すると発表しました。ぐるなびは2018年7月に楽天と資本業務提携契約を締結。現在では、楽天がぐるなびの株式を15.0%保有する筆頭株主となっています。今回の事業譲渡は、楽天が用意したぐるなび救済策の1つなのでしょう。しかし、ぐるなびの業績が急改善するとは考えられません。2つの事業の売上高はわずか9億1,500万円ほど。事業規模があまりに小さいのです。
ぐるなびは持久戦に向けた組織体制の大幅な変更が必要だと考えられます。実は、ぐるなびは組織の肥大化がカカクコムと比べて鮮明になっていました。
新型コロナウイルスの感染拡大が深刻となる前の2020年3月期のぐるなびの営業利益率は5.9%。カカクコムは44.6%です。カカクコムが価格.comと食べログの2枚看板で事業展開しているとはいえ、その差はあまりに大きいものとなっています。これは主に人件費に起因するものです。
2020年3月末時点でのぐるなびの従業員数は1,476人、カカクコムは1,082人です。従業員1人当たりの売上高は、ぐるなびが2,100万円、カカクコムが5,100万円です。ぐるなびはカカクコムの半分以下しか稼げていません。生産性が極めて低いといえます。
ぐるなびの平均年収は563万円でカカクコムは684万円。従業員数で単純計算した人件費はぐるなびが83億1,900万円で、カカクコムが74億300万円となります。ぐるなびの方が12.3ポイント上回っています。仮にぐるなびの人件費をカカクコムと同水準まで落とした場合、従業員数は1,313人となり、162人少ない計算です。
ぐるなびは業績が急悪化して自己資本比率が下がりました。希望退職者の募集はまだかけておらず、人員削減には後ろ向きです。持久戦が目に見えている今、そこに手を入れる必要があるのかもしれ