9月8日、オーストラリアの最上級裁判所であるオーストラリア高等裁判所は、フェイスブック上に掲載されたニュース記事に書き込まれた誹謗中傷コメントの公開責任について、ニュースを掲載したメディア側に責任があるという判決を下しました。誹謗中傷を広めるという意図で公開しなければ公開責任は問われない、とするニュースメディア側の主張を退けた形です。
この裁判はフェイスブック上に公開された記事のコメントで誹謗中傷を受けたDylan Voller氏が、記事を公開したニュースメディアを訴える形で始まり、メディアに誹謗中傷コメントの公開責任があるかが焦点となっていました。今回、メディア側の責任が認められたことで、各社がSNS上に公開したコンテンツの管理方法をめぐり、波紋が広がっていくと考えられます。
誹謗中傷コメントに対する裁判
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裁判の発端は、2016年、Dylan Voller氏の少年院収監時の画像がフェイスブック上に大手ニュースメディアの記事として公開され、同記事のコメントで第三者により誹謗中傷を受けたことに始まります。同氏は、誹謗中傷コメントが付くことになった記事の公開元The Sydney Morning Herald、The Australian and Sky Newsなど数社を名誉毀損で訴えることとなりました。
今回、誹謗中傷コメントはニュースメディア各社の記事そのものではなく、各社が記事を掲載するフェイスブックページに書き込まれました。そのため、記事発行元の各社が誹謗中傷コメントの公開責任を問われるかどうかが裁判の焦点となったようです。ニュースメディア側は、「公開責任を問われるためには、問題のコメントを広めるという意図がなければならない」と主張し、意図がなかったとして争う姿勢でした。
ニュースメディア側の主張を棄却
2019年、 ニューサウスウェールズ州の最高裁判所は「メディア企業に名誉棄損の責任を追及する」判決を下し、メディア企業はこれを不服として控訴しました。しかし9月8日、オーストラリア高等裁判所はニュースメディア側の主張を退ける判決を下しました。裁判所は、一般公開されるフェイスブックページ上に問題の記事を投稿することで、第三者による誹謗中傷コメントの拡散を容易かつ促進したとして、ニュースメディアに公開責任があると判断したのです。
この発表を受けて、ニュースメディアのNineは判決結果への失望を表明しました。Nineの広報担当は、「この判決は、将来的に当社がソーシャルメディアに投稿する内容に大きなインパクトを与えるため、大変失望している」と述べています。ニュースメディア各社には、SNS上へ掲載した記事に対してどのように監視と管理をすべきかという課題を残しました。
今後の動向
一方、Dylan Voller氏側の弁護団は今回の判決を「歴史的な一歩」と称賛しています。弁護団はまた、「今回の判決はDylan氏へ正義をもたらしただけでなく、ソーシャルメディア上で無差別的な誹謗中傷に苦しむ弱い立場の人々を守ることにもなるでしょう。」と述べています。
Dylan Voller氏もまた今回の判決に満足しており、裁判を継続する意向を示しています。争点となっている誹謗中傷コメントについて、名誉毀損に当たるかの判決が出ていないため、今後の裁判で争っていく形で、まだニュースメディア側にも抗弁の余地があるということです。
公開責任を負うことになったニュースメディア側にも今回の件を防ぐことができなかった事情があります。当時、フェイスブックはコメント欄を閉鎖することを認めていなかったのです。しかしこの一連の裁判はフェイスブックにも影響を与え、現在同社はコメント欄を閉鎖することを認めて