【メディア企業徹底考察 #35】主力の手帳販売から転換・・・「ほぼ日」がサブスクアプリに大型投資する理由とは?

ほぼ日刊イトイ新聞」を運営する株式会社ほぼ日が、主力となる手帳販売ビジネスからの大転換を水面下で進めています。

2021年8月期の売上高は前期比6.2%増の56億3,900万円、営業利益は86.7%増の1億5,500万円となり、コロナ禍で減収減益となった2020年8月期からの復活が鮮明になりました。しかし、ポイントはコロナ前の11%超という驚異的な営業利益率から3%以下の水準まで落ち込んだことです。

■ほぼ日業績推移(単位:百万円)

決算短信より筆者作成(グラフの営業利益の目盛は右軸)

2022年8月期には営業利益率が5%程度まで戻る見込みですが、2桁の水準には程遠い状態です。ほぼ日の営業利益率が低下した要因は、販管費率の上昇です。2019年8月期と比較して、2021年8月期はおよそ10ポイント高くなっています。

■原価と販管費(単位:百万円)

決算短信より筆者作成

ほぼ日は手帳の直販比率を引き上げることにより、原価率は1.5ポイント低減することに成功しています。しかし、固定費が中心の販管費が膨らみました。販管費が増加した要因はどこにあるのでしょうか?また、この状態から抜け出すための戦略として、どのような青写真を描いているのでしょうか?

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手帳の売上不振に影響した3つの要因

ほぼ日のビジネスモデルは非常に単純です。Webメディア「ほぼ日刊イトイ新聞」を運営し、メーカーなどから仕入れた商品を紹介して販売します。販路は2つに分かれています。メディアに内包されるECサイトにて顧客に販売するものと、書籍や小売店などへの卸販売です。

■ほぼ日の事業系統図

ほぼ日は店舗や展示会などで販促のためのイベントを開催しており、それが商品PRにも繋がっています。主力となる商材は「ほぼ日手帳」です。会社全体の売上高の半分以上を支えています。しかし、この手帳の売上高はコロナを境として減少に転じました。

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■ほぼ日手帳とその他商品の売上構成(単位:百万円)

決算説明資料より筆者作成

手帳の売上高が減少した要因は3つ考えられます。1つ目はリモートワークが進んだことによってPCやスマートフォンでのスケジュール管理がしやすくなり、紙の手帳そのものの需要が縮小したこと。2つ目はコロナ禍で小売店への客足が衰えたこと。3つ目は販促イベント自粛でPRの機会を失ったことです。ほぼ日は手帳の卸売が減ったとの説明をしていますが、この3つの要因が複合的に絡んだ結果だと予想できます。コロナの収束でPR手法が多様化し、手帳の販売数は戻る可能性はあります。しかし、需給が緩んで価格競争が激化し、単価が安くなる不吉な未来も視野に入ります。

手帳の販売不振をカバーしているのがその他商品です。2021年8月期の売上高はコロナ前の2019年8月期と比較しても3.1%増加。売上構成比率は34.4%から40.1%となりました。ほぼ日は食料品からタオルなどの日用品まで、多種多様な商品を扱っています。しかし、ほぼ日手帳のようなヒット商品には恵まれていません。販管費が膨らんだ要因として、その他商品への依存度が高まったことがあると考えられます。商品企画、開発、販路開拓、プロモーションなどにかかる、人件費や広告費が嵩んでしまうためです。

利益率の高い主力の手帳に注力したい。しかし、活動制限や需要減退で思うように売れない。だから新たな商品を開発してヒットにつなげるほかないが、今のところはそれに恵まれない。ほぼ日はこのような状態に置かれていると考えられます。

大型投資で大人向け学習アプリの立ち上げ

2021年8月期に入って、ほぼ日の事業への投資額は著しく変化しました。コロナ前までは有形固定資産、無形固定資産への投資額は数百万~数千万円に留まっていましたが、設備投資に当たる有形固定資産への投資額は3億4,900万円、システムなどのへの投資に当たる無形固定資産への投資額は2億円となりました。

■有形固定資産、無形固定資産への投資額(単位:百万円)

決算短信より筆者作成

明らかに潮目が変化しています。目下、力をかけているのが「ほぼ日の學校」です。大人の学びをテーマとしているもので、落語家の笑福亭鶴瓶氏や建築家の隈研吾氏、ミュージシャンの矢野顕子氏などの著名人を講師に迎え、仕事への向き合い方や人生哲学について語るというものです。ほぼ日代表の糸井重里氏の人脈を多いに活用したアプリです。利用料金は月額680円。アプリの提供は以前から行っていましたが、今回は投資額の桁が違います。それだけ期待をかけていると見るべきでしょう。

この事業はこれまでのビジネスモデルの大転換として注目できます。ほぼ日はメディアの運用によって商品販売につなげていました。上場後の「ほぼ日刊イトイ新聞」は販促に関わるコンテンツが必然的に多くなった印象があります。しかし、このメディアの面白みは、様々な業界で活躍する人々のインタビューや対談です。「ほぼ日の學校」は、「ほぼ日刊イトイ新聞」のコンテンツの拡充を図ることができ、アプリの利用が広がればストック型のビジネスモデルへと変化して利益率を上げることも視野に入ります。

サイバーエージェントやミクシィ、ディー・エヌ・エーなど、メディアやプラットフォーム関連の企業の多くはスマートフォンゲームで再成長の足掛かりをつかみました。ほぼ日は別の角度から再起しようとして

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【12月6日更新】メディアのサブスクリプションを学ぶための記事まとめ

デジタルメディアの生き残りを賭けた戦略の中で世界的に注目を集めているサブスクリプション。月額の有料購読をしてもらい、会員IDを軸に読者との長期的な関係を構築。ウェブのコンテンツだけでなく、ポッドキャストやニュースレター、オンライン/オフラインのイベント事業などメディアの立体的なビジネスモデルをサブスクリプションを中核に組み立てていく流れもあります。

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