「BOOKOFF」を運営するブックオフグループホールディングス株式会社が、新型コロナウイルス感染拡大による商環境の激変に苦心しています。2021年5月期の売上予想を960億円としていましたが、2.5%下回る935億9,700万円で着地しました。2022年5月期の売上高を850億円、営業利益を9億5,000万円と予想しています。予想通りに進捗すると、営業利益率を2.1%から1.1%まで1ポイント落とすことになります。
※ブックオフグループは2021年に決算期を3月から5月に移しました。そのため、2021年5月期の実績値は2020年4月1日~2021年5月31日までのものとなっています。
■ブックオフグループ営業利益率推移

苦戦する様子は、純利益率を見ると一層際立ちます。コロナ前の2019年3月期の純利益率は2.7%。2020年3月期に0.3%まで2.4ポイントも急降下しています。2021年5月期も同水準となる0.2%。2022年5月期はやや回復するものの0.5%に留まる見込みです。
■ブックオフグループ純利益率推移

これは退店に伴う損失や、店舗の収益性が悪化したことによる減損損失などの特別損失が嵩んでいるため。2021年5月期は「BOOKOFF SUPER BAZAAR 307号枚方池之宮店」などの減損損失5億9,200万円を計上しています。減損損失とは当初の計画よりも収益が悪化し、投資回収ができなくなった部分を指します。 「BOOKOFF SUPER BAZAAR 307号枚方池之宮店」は2016年4月にオープンした売場面積1,160坪の関西最大(当時)の複合店舗です。
また、2021年5月期は臨時休業中に発生した家賃などの損失7億7,800万円計上しており、想定外の出来事に振り回されました。
東京都は1店舗当たりの売上高が2,400万円減少
ブックオフグループは直営店が国内393店舗、海外14店舗を運営しています。それ以外にFC加盟店が386店舗あります。2021年5月期は直営店が3店舗増加しました。業績が悪化したとはいえ、これだけの店舗数を運営し、コロナという前代未聞の環境の変化を受けながらも、絶妙に原価・販管費をコントロールして利益を出している点は注目に値します。
原価率はコロナ前の2019年3月期の40.3%から、2021年5月期の39.2%へと1.1ポイント低減。2021年5月期は2019年3月期と比較して社員の人件費が0.9ポイント、アルバイト人件費が1.1ポイントそれぞれ上昇しましたが、販管費率は0.7ポイントの上昇に抑え込みました。
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■原価率、販管費率の変化(単位:百万円)

2022年5月期は営業利益率が2019年3月期比で0.8ポイント悪化する予想を出していますが、これは売上高の17.0%(販管費率の28.9%)を占めるアルバイト人件費上昇の影響が大きいものと考えられます。それでも、原価率や販管費率をこれだけ抑制できるのは驚異的な経営管理力を備えているといえます。
ブックオフグループが悪戦苦闘しているのは集客です。それはブックオフの出店エリアの商いの変化に良く表れています。まず、コロナの影響を全く受けなかった2018年3月期と2019年3月期の各エリア1店舗当たりの直営店の売上高とその差異を見てみます。
2018年3月期の国内のブックオフ1店舗当たりの平均売上高は1億7,400万円。2019年3月期は1億7,600万円でした。大きな差は生じていません。その差は200万円に留まっています。
■2018年3月期、2019年3月期エリア別1店舗当たりの売上高(単位:百万円)

次に、2021年5月期とコロナショックが深刻化する直前の2020年3月期を比較してみます。
※有価証券報告書に記載されている2021年5月期の売上高は14か月(2020年4月1日~2021年5月31日)のため、筆者が独自に12か月に計算し直しています。また、2020年3月期から有価証券報告書のエリア別売上高に小規模店舗の「総合買取窓口」が加わったため、当該店舗の多い東京都においては2019年3月期と2020年3月期とで1店舗当たりの売上高が3,000万円以上減少しています。そのため、2019年3月期と2020年3月期以降の1店舗当たりの売上高の単純比較はできません。
2021年5月期の1店舗当たりの平均売上高は1億8,400万円。2020年3月期と比較して700万円落としました。しかも、東北、茨城県、山梨県以外はすべて減少しています。減少額の大きいのが東京都。1億9,200万円から1億6,800万円へと2,400万円落としました。
■ 2020年3月期、2021年5月期 エリア別1店舗当たりの売上高(単位:百万円)

東京都が最も減少している主要因として、授業の遠隔化やリモートワークが推進されて都市部への人通りが減り、客足が衰えたことがあるものと考えられます。コロナ後の世界を見据えて出退店をいかに進めるか。ブックオフグループは極めて難しい判断を迫られています。
2021年5月期はFC加盟企業から5店舗を譲受しています。この期にFC加盟店は11店舗減少しており、採算が悪化した加盟店の早期退店も頭の痛い問題です。閉店対象となった店舗をグループ内に入れるかどうか。その判断も一筋縄ではいきません。2022年5月期の業績予想にはその難しさが表れています。
ただし、ブックオフグループはこれだけ売上高の影響を受けながらも、原価率や販管費率は上手くコントロールしており、黒字化を実現しています。2022年3月期までは環境の激変に耐える一年。そこから先は成長に向けた投資を重ねる時期となります。
郊外の複合店が成長のカギを握る
ブックオフグループの業績を支えているのは、中古の本・ゲーム・DVD等の単独店(BOOKOFF)です。チェーン全体の8割がこのタイプに該当します。今後の成長を支える店舗として注力しているのが中古の家電や古着、スポーツ用品なども扱う複合店(BOOKOFF SUPER BAZAARなど)です。ブックオフグループは古本業からリサイクル業へと生まれ変わろうとしているのです。2023年5月期から複合店の出店を再開する計画です。
ただし、売り場面積の大きい複合店はハイリスク・ハイリターンの投資です。それは 2021年5月期に「BOOKOFF SUPER BAZAAR 307号枚方池之宮店」などの減損損失5億9,200万円を計上していることからも明らか。ハイリスクであることをどれだけローリスク化できるかがポイントです。
ブックオフグループはスタッフの接客レベルを上げるため、商品知識の専門性を高める取り組みを進めています。アパレルなどのブランド品やゴルフ用品は利益率が高く、集客できるようになれば業績が大幅に改善される可能性があります。また、リモートワーク推進によって郊外型店舗に有利な状況が続けば、複合店は集客しやすくなります。
リサイクル通信によると、2020年の国内のリユース市場規模は2.4兆円。2025年には3.5兆円への成長が見込まれており、極めて有望な市場です。

リユース市場での競合はメルカリやヤフオクなどのC to Cサービスです。店舗としてのエンターテイメント性を上げ、郊外の顧客をどれだけ取り込めるかが勝負になります。接客レベルを上げてスタッフが専門知識を持ち、顧客の相談に乗れるようになればWebとの差別化は図れます。特に客単価が高いファミリー、シニア層からの支持を取り付けることができるかもしれません。コロナを乗り越えた後のブックオフグループの動きに注