【メディア企業徹底考察 #38】ゲーム依存からの脱却を図るDeNAとグリー、成長期待の高いライブ配信は特効薬か劇薬か

ゲームを事業の柱としながら、ライブ配信アプリ、メディアなど別事業にも力を入れている株式会社ディー・エヌ・エー(以下、DeNA)とグリー株式会社。2021年に入って2社の業績の明暗が鮮明になってきました。

DeNAは2021年3月期の売上高に当たる売上収益が前期比12.8%増の1,369億7,100万円、営業利益が224億9,500万円(前年同期は456億7,600万円の営業赤字)となりました。DeNAは2020年3月期にタクシー配車アプリ「MOV」で78億7,700万円のセグメント損失(前年同期は36億1,000万円の損失)を出しており、業績全体の足を引っ張られていました。この事業は2020年2月にJapanTaxi株式会社のタクシー配車アプリと事業統合して株式会社 Mobility Technologiesとなり、Mobility社はDeNAの持分法適用会社となりました。2021年3月期は重荷になっていた事業の業績への影響を縮小したことになります。

また、ライブ配信アプリ「Pococha(ポコチャ)」において51億9,100万円のセグメント利益(前年同期は13億5,600万円の損失)を出すなど、新規事業の黒字化も好影響を与えています。

■DeNAの業績推移(単位:百万円)

決算短信より筆者作成(グラフの営業利益は右軸)

一方、グリーは2021年6月期の売上高が前期比9.4%減の567億6,600万円となりました。売上高は緩やかに下降線を辿っており、精彩を欠いています。2021年6月期の営業利益は同70.1%増の53億7,800万円となったものの、営業利益率は9.5%に留まりました。2015年6月期の営業利益率は20%を優に超えていました。

■グリー業績推移(単位:百万円)

決算短信より筆者作成(グラフの営業利益は右軸)

かつて日本の新興企業を代表する存在だった2社は、なぜこれほどまでに違いが出てきたのでしょうか。事業構造や戦略をもとに読み解きます。

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コンプガチャ問題が分水嶺に

この2社を語る上で外せないのがいわゆる”コンプガチャ問題 ”です。複数のアイテムをそろえるとレアアイテムが得られるソーシャルゲームの仕掛けで、消費者庁はそれが景品表示法に抵触すると2012年5月に名言しました。グリー、DeNAはコンプガチャの自粛へと追い込まれます。ここが2社の転機です。

コンプガチャ問題が表面化する前のグリー2011年6月期の売上高は641億7,800万円、営業利益は311億3,500万円で、営業利益率48.5%という凄まじい収益性を保持していました。2013年6月期はゲームデベロッパーのポケラボ買収の影響で売上高は1,522億3,800万円となったものの、営業利益は486億1,500万円となり、営業利益率は9.4%まで縮小しています。

この現象はDeNAもほぼ同じです。自粛する直前の2012年3月期の売上高は1,457億2,900万円、営業利益は634億1,500万円で営業利益率は43.5%でした。2014年3月期は売上高が1,813億1,300万円、営業利益は531億9,800万円となり、営業利益率は29.3%まで落ち込みました。

コンプガチャへの依存度が高かった2社は軌道修正を迫られました。

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その2社が今になって、これだけの業績の違いが生じた理由はゲーム事業への依存度が関係しています。ソーシャルゲームは競争が激しく、ヒット作に恵まれない限りは業績を伸ばしにくいという特徴があります。DeNAは早期にゲーム依存を抜けて事業の分散に努め、収益の幅を広げました。

グリーは直近通期の売上高の83.2%をゲーム事業が占めている一方、DeNAは66.7%に留めています。DeNAは2015年3月期はゲーム事業への依存度が81%を超えており、グリーとDeNAの事業展開の差は当時それほど明確ではありませんでした。

■DeNA売上構成比率の変化

DeNAはオークションサイト「ビッダーズ」が創業の礎となりましたが、そこから様々な事業を立ち上げてきました。モバイル専門オークションサイト「モバオク」、ソーシャルネットワーク「モバゲー」、コミック投稿サイト「E★エブリスタ」、漫画アプリ「漫画ボックス」、生配信アプリ「ミラティブ」などです。

DeNAの創業者であり代表取締役会長の南場智子氏はコンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニーの出身であり、ハーバード・ビジネス・スクールでMBAを取得したトップエリートです。経営戦略や事業創造、組織構築への知見や経験が深く、IT系新興企業に多い開発・エンジニア寄りではありません。DeNAが事業を分散しているのは、事業家としての手腕そのものです。

大赤字のMOVを統合へと導いた華麗な技

そして、その手腕は見事です。鮮やかな手さばきが垣間見えたのが配車アプリの一件。

タクシー配車アプリMOVは2017年6月にテスト配信を行い、実用実験を行っています。この時期の日本はインバウンド景気に沸いており、東京オリンピック開催で観光業が最高潮に達することが期待されていました。オリンピック閉幕後までにどれだけシェアを獲得するか。それが配車アプリの行く末を占う一つの分岐点でした。大型のアプリ開発は投資を先行させて初期段階では大赤字を出しますが、利用者の拡大とともに回収するモデルが一般的です。そのため、シェアをどれだけ獲得できるかが勝負になります。

しかし、新型コロナウイルス感染拡大でオリンピックの無観客化が決定。タクシーアプリは勝負所を失いました。そうなると、緩やかに利用者を拡大しながら、開発費と利益の分岐点を見極める必要があります。すなわち、長期にわたって赤字を出し続ける可能性があります。

そこで、DeNAはJapan Taxiとの事業統合を選びました。Mobility Technologiesは日本交通ホールディングスが38.17%、DeNAが38.17%、トヨタ自動車が9.57%の株式を保有しています。この会社はDeNAの持分法適用会社となりました。持分法適用会社は連結子会社とは異なり、持分に応じて損益を計上します。MOVは2020年3月期に80億円近い損失を出していましたが、持分法適用会社となったことで今後は損失額を小さくすることができるのです。

しかも事業売却ではなく、Mobility Technologiesの株式を保有する道を選んでいます。配車アプリの収益性が上がった際には当然利益が得られる上、株式の保有比率を高める選択肢も出てきます。目先の損益にとらわれることなく、包括的なビジネススキームが構築できるのはコンサルティング経験の長い南場氏ならではのものと言えます。

2021年3月期はライブ配信アプリPococha(ポコチャ)で51億9,100万円のセグメント利益を出しました。この分野が好調と見るや、すぐさまこの事業への追加投資を決めています。2021年7月に2Dアバターを活用したライブ配信アプリ「IRIAM」の株式会社IRIAMの完全子会社化を決定。もともとDeNAの持分法適用会社でしたが、150億円を追加投資して完全子会社化しました。DeNAの次の成長戦略はライブストリーミング事業であり、ゲームへの依存度をどれだけ下げられるかがポイントです。

グリーはメタバースで生まれ変わることができるか

グリーの創業者であり代表取締役社長の田中良和氏はソニーコミュニケーションネットワークで通信技術の経験を積んだ後、楽天でオークションやブログ、アフィリエイトプログラムなどのコンシューマ向けサービスの開発を行っていました。南場氏とは異なり、エンジニア寄りの経験が豊富にあります。

複雑な事業展開をしているDeNAと比較すると、グリーの事業内容はシンプルです。

■グリー事業系統図

ソーシャルゲームの グリー、ポケラボ、WFS。ライブ配信のREALITY、そしてLIMIAなどのメディア運営です。2021年6月期はグリー単体の売上高が179億9,700万円、WFSが156億2,800万円、ポケラボが136億3,200万円でした。ゲーム3社で全体の83.2%を占めています。

事業を過度にゲームに依存し、ヒット作に恵まれないで苦しむ典型的な会社が、かつて「白猫プロジェクト」や「魔法使いと黒猫のウィズ」で一時代を築いた株式会社コロプラ。2016年9月期の売上高は847億3,000万円でしたが、2021年9月期は半分以下の371億2,500万円で着地しました。

■コロプラ業績推移(単位:百万円)

※コロプラ決算説明資料より

グリーの業績にもややその兆しが見え始めています。そこで、成長戦略の一つとして期待をかけているのがメタバースです。

REALITY」はスマホ1台でアバター姿になり、誰でもライブ配信できるアプリです。グリーはそのコンテンツの拡充を図り、バーチャル空間でアバターコミュニケーションを活性化するワールド機能を追加しました。これにより、アバター姿のユーザーが双方向でコミュニケーションをとるアプリへと変貌を遂げています。

メタバースの市場規模は1兆ドルに達するとの試算を暗号資産投資大手グレイスケールが出しました。世界的な成長が見込まれる分野であり、この大波に乗れるかどうかがグリー成長のカギを握っています。

気がかりなのは、DeNA、グリーともに力を入れているライブ配信アプリ。ライブ配信は視聴者がアイテムやスタンプ、装飾品などを送る”投げ銭システム”が収益の源泉です。これによって巨額の稼ぎを得るライバーが登場する一方、未成年者の過度な課金が社会問題化しつつあります。これはかつてのコンプガチャ問題を彷彿とさせます。何らかの規制を受ければ、またも苦境に立たされることは間違いあり

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