雑誌「オズマガジン」やメディア「オズモール」、小説投稿サイト「野いちご」を運営するスターツ出版株式会社が2021年11月に2021年12月期の業績予想を上方修正しました。50億円としていた売上高が8.0%上回る54億円、営業利益が予想比32.7%増の7億3,000万円で着地する計画です。飲食店やホテルの予約サイトと連携するメディア「オズモール」が新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けましたが、ライトノベルやコミックが堅調に推移しています。
■スターツ出版(単位:百万円)


スターツ出版は2020年12月期の売上高が前期比9.5%減、営業利益が70.6%減と業績を落としましたが、売上、営業利益ともに急回復し、営業利益率は3.8%から13.5%となる見込みです。スターツ出版は、「オズモール」を運営する東京マーケティングドメイン(この記事の中ではメディア事業と呼びます)と、投稿サイトの小説や漫画を出版する投稿コンテンツドメイン(出版事業と呼びます)の2つの事業が柱となっています。
メディア事業は大きく落ち込んだものの、出版事業が巣ごもり需要を背景として急速に成長しています。かつてメディア事業の売上高は出版を3倍近く上回っていましたが、2020年12月期は出版の売上がメディアを抜き去りました。出版事業は今後の成長を支える可能性が高いです。
売上と営業利益率が同時に伸長
スターツ出版は1980年創業。都市部の看板でよく目にする不動産、建設、金融などのスターツコーポレーション株式会社の子会社です。2021年6月末の段階でスターツコーポレーションが48.58%、賃貸管理のスターツアメニティ―が23.33%、スターツのWebシステム部門であるのウィーブが4.17%の株式を保有しています。上位3つのグループ会社の保有比率が76%を超えており、株主の意向が強く反映される会社だと言えますが、2001年8月にジャスダックに上場を果たしており、現在も上場は維持されています。
女性向けの情報誌、メディア、出版物を得意としていますが、もともとは地域コミュニティー紙の発行を目的としていました。1988年4月に「オズマガジン」を発行、1992年10月にホームページ「オズモール」を開設しました。地域コミュニティー紙の発行が元となっているため、雑誌やメディアは飲食店や美容室、ホテルなどのローカルビジネスを対象とした広告モデルでした。
オズモールは2021年6月末時点でオンライン予約サービスの会員数が360万人ありますが、女性に特化していたために食べログやホットペッパーといったグルメメディアに浸食されず、差別化が図れています。
出版事業の礎となったのが、ケータイ小説でシリーズ累計270万部を超える大ヒットとなった「Deep Love」。現在の出版事業もこの流れを受け継いでいます。
屋台骨となっていたメディア事業は、コロナ前から業績の頭打ちが鮮明になっていました。その一方で出版事業はきれいな成長曲線を描いています。
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■メディア事業売上高と営業利益(単位:百万円)

■出版事業売上高と営業利益(単位:百万円)

二つの事業を比較して目につくのは、出版事業の営業利益率の高さです。出版事業は2020年12月期に31.9%となりました。メディア事業はコロナの影響を受ける前の2019年12月期でも6.7%に留まっています。
■メディア事業と出版事業の営業利益率

スターツ出版の出版事業と近い株式会社アルファポリスの2021年3月期の営業利益率が28.0%。事業単体の数字とは言え、スターツ出版は競合を優に上回っています。
1つのヒット作を複数のレーベルで発売する巧妙な戦略
出版事業の戦略は巧みに設計されています。小説・漫画投稿サイト「野いちご」、「Berry’s cafe」、「ノベマ!」でヒット作の種を見つけ、紙やデジタルの書籍で出版するというサイクルはアルファポリスのビジネスと同じです。スターツ出版は女性をターゲットとしていますが、更に年齢別にレーベルを細分化しています。2017年3月に創刊した「野いちご文庫」は女子高校生向け、2009年4月の「ケータイ小説文庫」は女子中学生、2020年8月創刊の「野いちごジュニア文庫」は女子小学生向けです。
スターツ出版が扱う小説はいわゆる”ケータイ小説”です。書店や図書館で働く多くの人は、未だケータイ小説に対して「Deep Love」や「恋空」のような暴力、性表現を想起します。ターゲットに対して細かくレーベルを分けることにより、売場や書棚に安心して配置できるようにしました。
■レーベルとターゲット

そしてターゲット別のレーベルにすることで、ヒット作を活用するフィールドを広げました。通常、ライトノベルのヒット作は漫画化されて活用先を失います(アニメ、ゲームなどの出版物以外のサービスを除く)。アルファポリスも投稿サイトからライトノベルの出版へと移行し、マンガ化するまでが1サイクルとなっています。
スターツ出版はレーベルを移行させることで部数を稼ぐのです。
ケータイ小説文庫のヒット作に、「総長さま、溺愛中につき。」があります。2020年1月に中学生向けに発売し、3万部を発行しました。このタイトルは2020年12月に装丁を変えて野いちごジュニア文庫から発売し、1.7万部を発行しています。2019年5月に発売し、2.9万部を突破したケータイ小説文庫「今日、キミに告白します」は、2020年8月に挿絵を入れて野いちごジュニア文庫から発売し、2万部を超えました。
スターツ出版は四半期で160近く発刊していますが、人気タイトルをレーベル別で出すことで稼げる体制を構築しました。
■発刊点数の推移

出版事業好調を背景として、2021年からは男性向けの出版を計画しています。スターツ出版は「オズマガジン」の成功により、女性ターゲットという枠組みから長らく抜け出すことができませんでした。しかし、出版事業を伸ばす上でターゲットを女性に絞ることはあまり意味はありません。過去のくびきから解き放たれ、新たな事業展開に邁進して