【メディア企業徹底考察 #49】書店の営業利益率0.4%で失速した丸善、次の成長を支えるのは図書館の運営受託か

都市部の大型書店「MARUZEN」や「ジュンク堂書店」を運営する丸善CHIホールディングス株式会社の2022年1月期の売上高は前期比1.6%増の1,743億5,500万円、営業利益は前期比41.7%増の40億8,400万円となりました。新型コロナウイルス感染拡大で書店への客足が途絶え、売上高を大きく落とした2021年1月期から業績は回復しました。特に営業利益率の改善が著しく、2022年1月期は2.3%。コロナ前の2020年1月期の2.0%を上回りました。

■丸善CHIホールディングス業績推移(単位:百万円)

決算短信より筆者作成
※営業利益の目盛は右軸

丸善は大きく5つの事業展開をしています。図書館のデータベースや電子図書館サービスを提供する「文教市場販売事業」、書籍を書店とインターネットで販売する「店舗・ネット販売事業」、図書館の運営受託を行う「図書館サポート事業」、専門書や児童書などを出版する「出版事業」、主に書店の設計デザインなどを行う「その他事業」です。

消費者に馴染み深い店舗・ネット販売事業の2022年1月期の営業利益率0.4%で、三洋堂の3.0%、文教堂の1.9%と比較すると極めて低い水準です。丸善の書店事業は収益性が低下しており、長期的に縮小することは目に見えています。市場の成長余力と事業としての利益率が高いのが図書館サポート事業です。この記事では、丸善の事業別の収益性を解説した後、図書館の運営受託がいかに期待の持てる分野なのかを解説します。

5%のペースで成長する図書館サポート

売上高を事業別に見ると、店舗・ネット販売事業が全体の40.0%を占めており、主力事業となっていることがわかります。ただし、グラフを見るとわかる通り(店舗・ネット販売事業は橙色)、コロナ前の2021年1月期までは微減が続いており、コロナ禍の2021年1月期にこの事業は9.2%の減少に見舞われます。2022年1月期に4.2%の増加に転じましたが、2020年1月の水準は回復していません。

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決算短信より筆者作成

文教市場(グラフ青色)の2022年1月期の売上高は全体の32.4%を占めています。書店に次ぐ水準ですが、成長性があるかというと疑問が残ります。この事業はコロナ禍の2021年1月期に電子図書館の需要が伸びたものの、大学内売店の休業などが影響して売上高は前期比0.3%増に留まりました。2022年1月期は0.1%の増加でほぼ横ばいです。

コロナに左右されることなく5%の成長ペースを維持しているのが、図書館サポート(グラフ灰色)です。売上高の構成比率は18.2%に留まっていますが、他の事業と比べると早いペースで伸びています。

事業別の営業利益と営業利益率を見るとこの事業の力強さが際立ちます。

決算短信より筆者作成

図書館サポートの営業利益は2021年1月期に25億1,700万円となり、高利益体質の文教市場の29億9,800万円に近づきました。2022年1月期は図書館の休館が続いて図書館内設備の更新など整備作業が3月に集中。運営コストが増加して減益となりましたが、これは一時的な要因です。

事業別の営業利益率を見ると、2022年1月期の図書館サポートは7.9%。文教市場は6.6%、店舗・ネット販売は0.4%です。この事業の成長性、利益率には目を見張るものがあります。

死に体となった書店事業

図書館サポートに期待できる理由をマーケットの側面から説明する前に、丸善の書店事業がいかに行き詰っているかを見てみましょう。

下のグラフは丸善CHIホールディングスの1店舗当たりの売上高(棒グラフ)と店舗数(折れ線グラフ)の推移です。丸善は2020年1月期まで1店舗当たりの売上高が8億円以上ありました。

決算短信より筆者作成

2021年1月期に1店舗当たりの売上高は6億6,300万円となり、前期比20.9%減少しています。売上高が減少した理由は大きく2つあります。1つは新型コロナウイルス感染拡大で客足が衰えたこと。もう1つが戸田書店8店舗の譲受です。静岡県など地方都市を中心に出店していました。都市型の大型店に比べて集客力の低い書店が増えたため、1店舗当たりの売上高を押し下げる結果となりました。

下のグラフは書店チェーン三洋堂の店舗数と1店舗当たりの売上高の推移です。2021年3月期の売上高が急増しています。増加した理由は2つあります。1つは不採算店を削減して集客力のある店を戦略的に残していたこと。もう1つは「鬼滅の刃」のスマッシュヒットがあったことです。

※三洋堂決算短信より筆者作成

都市型の丸善はコミック特需の恩恵が受けられなかった上、店舗の増加によって収益性が悪化していると言えます。丸善の書店事業の営業利益率は0.4%。三洋堂の3.0%と比べると極めて低い水準に留まっているのは、都市部の一等地で家賃が高額であることと、大型店舗を運営する書店員の数が多いためと考えられます。丸善は今後、廃業寸前となった全国の書店を譲受し、スケールメリットの獲得へと動く可能性があります。しかし、利益率の低い都市部大型店主体の丸善が、戸田書店のように売上高が低い小型店を買収して利益率を高めることができるかどうかは不透明です。

減少する書店と増加する図書館

丸善の売上高の構成比率で2番目の文教市場の主力サービスに「TRC MARC」があります。これは汎用書誌のデータベースで、バーコードラベルやICタグなどの図書装備や選書・検索ツールの提供を行うものです。この事業の利益率が高いのは、プラットフォーム事業に近いため。「TRC MARC」 は2021年1月に全国の図書館2,897館に採用され、導入率は88%となりました。ほぼすべての大型図書館に導入されていると言って良く、今後更なる成長には期待できません。むしろ丸善の業績を下支えし、事業投資の基盤となる事業です。

その一方で期待できるのが図書館の運営受託です。

※日本図書館協会「日本の図書館統計」より筆者作成

全国書店数は減少していますが、図書館の数は増加しています。2021年の図書館数は3,316となり、2020年と比較して6施設増加しています。2014年以外はすべて増加でした。その一方で専任職員数は減少しています。これは常勤職員数が減少し、兼任の職員によって運営されている図書館が増加していることを示しています。また、2003年に図書館への指定管理者制度が導入され、民間事業者の施設管理が可能になりました。これがいわゆる民間業者の運営受託です。

日本図書館協会の調査によると、2018年までに民間への運営を委託した図書館数は582。仮に2021年で600程度になっていたとすると、導入割合は18.1%。2,200もの図書館が委託をしていないことになります。図書館の運営は専任職員数を減らすことで、効率的な運営を行おうとしています。その中でサービス力を落とすことがあっては図書館を運営する意味を失います。外注するメリットの方が高ければ、委託は進む可能性があります。

丸善はすでに運営実績を持っており、提案しやすい土壌が整っています。マーケットの拡大、事業の成長率と利益率の高さ、ビジネスが拡大する要素が詰まった事業が図書館の運営受

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