【メディア企業徹底考察 #84】カーライル傘下のNewsPicksへの投資増は期待薄?

アメリカの投資ファンド、カーライル・グループが、経済メディアNewsPicksや経済プラットフォームSPEEDAを運営する株式会社ユーザベースに対してTOBを実施。ユーザベースは非公開化される見込みです。 買付期間は2022年11月10日から12月22日まで。買付価格は、過去3か月…

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アメリカの投資ファンド、カーライル・グループが、経済メディアNewsPicksや経済プラットフォームSPEEDAを運営する株式会社ユーザベースに対してTOBを実施。ユーザベースは非公開化される見込みです。

買付期間は2022年11月10日から12月22日まで。買付価格は、過去3か月間の終値平均値694円に対して116.1%のプレミアムをのせた1,500円。買付予定数の下限を26,023,700株(所有割合の66.67%)と設定し、下限に満たない場合は買付を行わないとしています。

買収成立後の注目ポイントが2022年12月期に赤字となったNewsPicks事業。一部では動画などのコンテンツの強化で更なる成長を目指すのではないかとも言われていますが、メディア事業の過度な投資は抑制し、SaaSを着実に伸ばす堅実な経営に舵を切る可能性が高いと考えられます。

投資ファンドらしからぬ高リスク投資

カーライルのような大手投資ファンドが新興企業を買収するのは稀。通常、大企業の非中核部門のカーブアウトや、安定的な利益が出ている中堅企業を買収対象にします。カーライルは東芝の事業の一つで、セラミックス製品の製造販売を行う東芝セラミックス(現:クアーズテック)のカーブアウト、金融機関向けシステム開発などを行うシンプレクスのMBO、非上場化支援などを行ってきました。

株式市場における投資と同じく、投資ファンドの新興企業への投資はリスクが高まります。ユーザベースへの投資においては、LBOローンにそのリスクが顕在化しています。

ユーザベースによると、今回の買収で三菱UFJ銀行から70億円の借入れを受けるとしています。カーライルの買収額は、TOBの下限で390億円、発行済みの株式すべてを取得すると555億円。下限で成立しても、LBOローンは買収額の2割にも達していません。

2013年にシンプレクスのMBOを支援した際は、カーライルの出資が63億円、銀行からの借入が205億円でした。単純計算で買収額の7割以上をローンで賄っています。シンプレクスの買収においては、カーライルがレバレッジを効かせて投資効率を高めているのがわかります。

ユーザベースの信用力が弱く、借入ができなかったのでしょう。ただし、ユーザベースの市場からの評価が低かったのも事実です。

ユーザベースは2016年10月21日の上場時の時価総額が206億円。2022年10月31日は264億円でした。上場後、売上高は5.1倍、純利益は2.1倍になりましたが、市場の評価は低い状態が続いていました。

2021年12月期の決算説明会において、代表取締役 Co-CEO佐久間衡氏は、「他社のARRマルチプルからすると現在の株価水準は3分の1程度になっていると考えています」と発言しています。説明会が行われた日の株価終値1,084円。経営陣はARRマルチプルという客観的な指標で評価しても、3,000円は十分に狙える水準にあると考えていることになります。TOB価格はちょうどその半分。カーライルはレバレッジ効果が少ないというリスクをとりながらも、割安水準で仕込めた可能性があります。

テレビCMは成功か失敗か?

カーライルがリスクを伴う投資をしている以上、見通しの悪いNewsPicksへの投資を加速することはないでしょう。

ユーザベースの事業別の業績を見てみます。

下のグラフの黒がSPEEDAを中心としたSaaS事業。灰色がNewsPicks事業です。SaaSは右肩上がりで売上高が伸びている一方、NewsPicksは停滞しているのがわかります。特に2022年12月期第3四半期は停滞感が顕著。売上高は40億円で前年同期間比6.4%減少しました。

2022年に入ってからのメディア事業の伸び悩みは、コロナ特需の反動だと思うかもしれません。しかし、NewsPicksの売上減は極めて深刻度の高いものでした。


《不破聡》

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