「言論の自由」と「コンテンツモデレーション」の罠にハマるイーロン・マスク、ついでにSpacesを停止したりマストドンへのリンクを禁止したり

「言論の自由は民主主義が機能するための基盤であり、Twitterは人類の未来のにとって重要な問題が議論されるデジタル広場です」とツイッター社買収のプレスリリースで述べたイーロン・マスク氏は、数百人いたコンテンツモデレーションに携わるスタッフを15名まで減らして(クーリエ・ジャポン)、以前にアカウント停止されたユーザーを多数呼び戻し(ドナルド・トランプ氏も含まれる)ました。

さらにマスク氏はツイッターが2020年の大統領選直前にバイデン大統領の息子のハンター氏を巡るニューヨーク・ポストの報道を抑圧したとして批判。その一連の内部決定に関する文章を「ツイッター文章」としてまとめ、「ローリング・ストーン」などで活躍して現在はサブスタックで活動するマット・タイビ氏に提供しました(フォーブス)。

マスク氏は「ツイッターは政府からの命令で言論の自由を抑圧した」と述べましたが、情報を閲覧したタイビ氏は政府の関与を否定、内部ではロシアのハッキングにより得られた情報だったのではないかという議論があったそうです。ただし、当時のジャック・ドーシーCEOは後に「誤った決定だった」と謝罪しています。

著名ジャーナリスト数名をブロック

このように「言論の自由」の信奉者のように振る舞うマスク氏でしたが、木曜日の夜に米国の主要報道機関の著名ジャーナリスト数名のアカウントを停止しました。突然の決定の理由は後に明らかになり、ツイッターは「正確なリアルタイムの位置情報の共有を禁止する」という新しいポリシーを制定したようです。

マスク氏はツイッター買収前から、航空当局が開示している同氏のプライベートジェットの位置情報をツイートする@ElonJetのアカウントを批判していて(ただし禁止はしないと11月の述べていた)、新しいポリシーはこれを禁止する事が目的と見られます。実際に@ElonJetとその作者のアカウントが停止されています。

木曜日に凍結された記者は最近、この@ElonJetについて言及していたそうです。

記者たちは木曜夜にこの問題を話し合うTwitter Spacesを開催(凍結されてもなぜかSpacesは利用できたそう)、後半で突然マスク氏も登場したそうです。マスク氏は記者からの質問に対して「誰かの位置情報をリアルタイムで表示するのは不適切なことで、誰でも嫌だと思う」「みなさんもTwitter市民であってジャーナリストだからとって特別扱いはされない」「禁止事項を回避するような行為も許されない」などと述べて去っていたそうです(BuzzFeed News)。

EUや国連からも懸念の声

記者のブロックに対して当事者となった報道機関からは非難が噴出。ワシントン・ポストは編集主幹のサリー・バズビー氏の名前で「当社記者のアカウント停止はイーロン・マスク氏が主張するTwitterを言論の自由のプラットフォームにするという主張に疑念を抱かせるものです。記者はマスク氏についての記事を書いた後で何の警告もプロセスも経ずに停止されました。私達のジャーナリストはただちに回復されるべきです」と述べました

ガーディアンによれば、国連の広報担当者であるステファン・デュジャリック氏はこの動きが危険な前例になることを憂慮していると述べました。「この動きは世界中のジャーナリストや検閲、物理的な驚異に直面している中で、危険な先例を示しています」。

さらに欧州委員会で価値と透明性を担当する副委員長のベラ・ヨウロバー氏は「Twitterでジャーナリストが恣意的に凍結されたニュースに心配しています。EUのデジタルサービス法はメディアの自由と基本的権利の尊重を求めていて、イーロン・マスク氏はこれを認識すべきです。レッドラインはあり、制裁も有り得ます」と踏み込みました

ドイツ外務省は公式ツイッターで、「報道の自由は、自在にオン/オフできるものではありません。今日の時点で以下のジャーナリストたちは私達をフォロー、コメント、または批判することができなくなりました。これは問題があります @Twitter」と凍結されたプロフィール画面を引用して述べました。

批判の高まりに方針を転換したのか、マスク氏は解除の時期を問う投票を呼びかけ、「いますぐ解除すべき」という意見が約6割に達した事を受け、記者のアカウント停止は解除されています(NHK)。

「言論の自由」と「コンテンツモデレーション」の関係

「言論の自由」は米国では憲法の修正第一条に連邦議会が侵してはならない権利として書かれている事もあり、特に重要性を持って語られる権利となっています。個人が自由に意見を表明できることは、個人や社会の多様性にとって大事です。

他方、公共の場であるソーシャルメディアなどのインターネットプラットフォームでは、暴力的や偏向的な情報、個人を中傷するような情報などが公開されることによって社会的トラブルを引き起こす可能性があり「コンテンツモデレーション」が行われています。

この2つは適切なバランスを取る必要があります。特にTwitterやFacebook、YouTubeのような人口の大半が参加するようなプラットフォームでは問題が大きくなります。情報の拡散力は選挙を左右するような規模になります(そこに誤った情報が拡散したら…)。また人口の大半が参加するようなプラットフォームから「アカウント停止」されることは社会からの参加を拒否されるのに近い効果を持ってしまいます(修正第一条は政府を制約するものですが、巨大なプラットフォームは政府のような力を持ってしまう)。

このバランスは度々議論の的になってきました。しかし頭を痛めながらもバランスを取る努力をする必要があります。TechDirtが主張するように、完全な「言論の自由」を主張するようなプラットフォームも、必ず「コンテンツモデレーション」を行うようになります。トランプ氏が立ち上げたTruth Socialや、元報道官が立ち上げたGettrもそうした活動が行われているといいます。

「法律には違反しないけど、さすがにマズイだろう」というラインを定める仕事で、海外では「信頼と安全」というタイトルが付いていたりするのですが、大義があり、客観性を持ち、コミュニティが納得できるルールが必要です。数億人のユーザーがいるプラットフォームで、これを担当する人員が15名というのは危惧を覚えます。

マスク氏の「リアルタイムの位置情報を共有するのは危険」という主張に大義がないわけではありません。しかし、明らかに自分の安全が前面に出て、自らに批判的な記者も停止するというのには納得が得られないでしょう。

イーロン・マスクのプラットフォームになったTwitter

10月末にツイッターの買収を完了したマスク氏。上場企業から個人所有になり、文字通り「イーロン・マスクのプラットフォーム」になったTwitterですが、買収直後からの半端ない動きの速さは、さすがはテスラやSpaceXを率いてきた経営者と思わされる部分があります。朝令暮改でも新しい機能が次々に投入されているのは良い方向だと思います。長年、利益を上げてこなかった会社の改革には大きな犠牲も付き物だというのも理解ができます。

しかし今回の騒動は「イーロン・マスクのプラットフォーム」のマイナス方向の発露をどうしても感じてしまいます。

@ElonJetを禁止するために新しいルールを導入した王様が、今度はテスラやSpaceXを守るための新ルールを導入しないと誰が確信できるでしょうか? そして新ルール導入に当たってどんな議論があったか公開される日は来ないでしょうし、内部メールをまとめてマット・タイビ氏に送る事もないでしょう。王様が決めて「やれ」と言っただけでしょうから。

他の気になる話もあります。中盤でTwitter Spacesにマスク氏が参加した話を取り上げましたが、マスク氏が立ち去った後で、そのスペースは削除されてしまったのだそうです。さらに、Twitter Spacesの機能自体も週末にかけて使えない状態になっていました(現在は復活)。これも故意にやったことなのでしょうか?

また、Twitterがマストドンへのリンクを禁止し始めている事も明らかになっています。マストドンは分散型Twitterとも言われるサービスで、マスク氏による買収移行、マストドンへの移行を目指すユーザーもいるようです。投稿でURLを含むと以下のスクリーンショットのような警告が表示されます。プロフィールのテキストでも弾かれてしまいます。

良くも悪くも「イーロン・マスクのプラットフォーム」となったTwitter。どう付き合っていくか考える必要があるのかもしれません。

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Manabu Tsuchimoto
Manabu Tsuchimoto
デジタルメディア大好きな「Media Innovation」の責任者。株式会社イード。1984年山口県生まれ。

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