ニッチメディアの台頭、どう取り組めば良いのか? 【Media Innovation Weekly】9/4号

広告ビジネスの低迷が顕著になり、従来のメディアビジネスが変質を求められています。米国のVICEの破綻や、BuzzFeedの苦戦は、規模を求め続ける限界を示唆するものです。対して、堅調に展開しているのが、より専門性の高いニッチ領域を手掛ける企業です。

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ニッチメディアの台頭、どう取り組めば良いのか? 【Media Innovation Weekly】9/4号

おはようございます。Media Innovationの土本です。今週の「Media Innovation Newsletter」をお届けします。

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今週のテーマ解説 ニッチメディアの台頭、どう取り組めば良いのか?

広告ビジネスの低迷が顕著になり、従来のメディアビジネスが変質を求められています。米国のVICEの破綻や、BuzzFeedの苦戦は、規模を求め続ける限界を示唆するものです。対して、堅調に展開しているのが、より専門性の高いニッチ領域を手掛ける企業です。

専門雑誌群から発展してデジタルで存在感を発揮するようになった英国のFutureや、米国で専門出版を買収して成長しているRecurrent Ventures、ニュースレターを中核とするMorning Brewも多岐に渡る専門分野をカバーして成長を加速させています。こうしたニッチを手掛け、読者を正しく理解したプレイヤーの台頭は見逃せません。

国際雑誌連合が6月に開催されたFIPP Congress 2023でも大きなテーマになったといい、「Media for Communities」というレポートにまとめられていましたので内容を紹介します。

ニッチメディアに必要なものとは?

ニッチメディアに脚光が当たっています。そうしたニッチメディアと主流のメディアを差別化させるものは何でしょうか? Morning Brewの発行人であるジェイコブ・ドネリー氏は「あなたがニューヨーク・タイムズでもなければ、顧客を明確に定義できなければ成功することはないでしょうか? もし作っているコンテンツの先にいる顧客を知らなければ、必ず問題が起きます。ニッチメディアとは、適切な道を選び、そのコンテンツの顧客が誰なのかを正確に知る事を意味します」と述べています。

歴史ある出版社を変革しつつあるTrusted Media Brandsのポニー・キンツァーCEOはニッチメディアとは双方向なプロセスだと述べます。「『Birds and Blooms』のレシピや鳥の写真であり、『Family Frandyman』の便利なヒントであれ、『Reader's Digest』のジョークであれ、彼らは私達とコンテンツを共有してくれます」「適度な新しさと、適度なコミュニティソースとのバランスを取って、両社は手を取り合い、協力関係を築いているのです」

旅行とレジャービジネスに焦点を当てたSkiftのCEOであるラファト・アリ氏は「分野を選んで、トピックを選んで、最高のスペシャリストになりなさい。その分野はコンシューマーでも、B2Bでも同様です。そして、オーディエンスを売るか、オーディエンスに売るか、ここも変わりません。メディアビジネスがいかにシンプルか、いつも忘れてしまいますが。そしてユーザーとの関係を直接的に持つのは最も良い事です」と述べています。

ビジネスモデルとしての優位性

ニッチメディアでは広告以外のビジネスモデルが既に確立されているのも優位点かもしれません。

Innovation Mediaのフアン・セニョール氏は複数の収益源を保つ重要性を述べています。「確かにディスプレイ広告が依然として中心的な要素であることは変わりはありません。しかし会員登録や購読、アフィリエイト収入、コンテンツベースの広告、イベントやカンファレンスはメディアがコミュニティから収入を得る定番の方法となっています」と話し、新型コロナウイルスで多くのイベントが中止され打撃を受けたように、常に2番目の選択肢を持っておく必要があると強調しました。

専門家によるコンテンツということでアフィリエイトも重要になるようです。Recurrent Venturesのランス・ジョンソン前CEOは「私達が想定しているのは、グーグルは常に専門家によるコンテンツを判断する能力を高めていくだろうということです。専門家によるアフィリエイトコンテンツは収益の20-40%を占めています。これは5-10年前には存在しなかったものです」と述べています。

当然サブスクリプションも重要なテーマです。「大事なのはサブスクビジネスの仕組みを理解することです。一人の顧客から、どのくらいの利益を得られるかという計算です。収益ではなく利益です。昔の私の上司はこう言ってました『売上高は虚栄心、利益は正気である』と。素晴らしい言葉です。お金になる事をしなくてはなりません。そして顧客の生涯価値を考えるとき、それはブランドの過去、現在、未来を理解するための枠組みとなります」とメディアコンサルタントのAtlasのケリン・オコナーCEOは述べています。

ニッチメディアをどう生み出していくか

レポートはニッチメディアが魅力的になってきた背景について「デジタル製品の爆発的な普及により、より深くニッチに踏み込めるようになってきた」「電子メールやニュースレター、ポッドキャストのようなパーソナライズされたメディアの成長」「プレミアムな紙媒体の成長」という点を挙げています。

eSportsに特化したメディアを運営するGfinityの運営責任者であるドム・ニードラー氏はニッチメディアを作る上でのアドバイスを話しています。「私達はニッチなコミュニティを特定し、成長する魔法を手に入れました。ゲームを少し知っているジャーナリストを育てるのではなく、1日に10時間や12時間もゲームをプレイする人を集めて、彼らにお金を払い好きな事をやってもらい、発信してもらう。核となるテーマを知り尽くしていれば、文章を書いたり、コミュニティを管理する人材を育成するのは簡単です」

コロンビア大学のダミアン・ラドクリフ教授(ジャーナリズム)も似たような事を述べています。「例えばMorning BrewのTikTokのように、コミュニティから人を集めて、編集スキルを教える方法もあります」編集スキルを持った人間を専門家として育てるよりも、既に専門家の能力を持っている人にメディア的な能力を教える方が簡単な場面も多そうです。

ニッチなジャンルは無限にあると前述のラファト・アリ氏は言います。「どんな分野でも20そこらのメディアはあるわけです。でも私はメディアには常に余白があると信じています。なぜなら、メディアは『視点』のビジネスだからです。だからあなたが世界に対して異なるレンズを持っていれば、空白を取れます。そのためには独自の視点、独創的な視点を持たねばなりません」

◆ ◆ ◆

巨大な総合メディアから、よりテーマを絞ったニッチメディアへ。一つの選択肢ですが、注目を集めているのは間違いなさそうです。

レポートはこちらからダウンロードできます

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編集部からひとこと

夜などは若干気温が下がり、真夏は終わったかなと思わせる最近ですね。秋というには早いですが、昨夜はサンマを食べました。家がサンマの匂いになって大変です。でも季節物はいいですね。

先日、ストライキをしている池袋の西武百貨店を見てきました。平日なのにシャッターが閉まり、ビラを配り支援を求める声がありました。翌日にはファンドによる買収が成立しましたが、従業員の意思を示すというのは良い事ではないでしょうか。一方で、感じるのは百貨店というビジネスモデルの行き詰まり。後継テナントにヨドバシカメラが、というのは、今回のテーマでも触れた、総合メディアとニッチメディアの関係性を思わせなくもありません。変わらなければ生き残れない、そんな事を感じた訪問でもありました。

《Manabu Tsuchimoto》

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デジタルメディア大好きな「Media Innovation」の責任者。株式会社イード。1984年山口県生まれ。2000年に個人でゲームメディアを立ち上げ、その後売却。いまはイードでデジタルメディアの業務全般に携わっています。

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