ベテラン経営者がテレグラフの買収まであと一歩、ただし資金提供者に懸念【Media Innovation Weekly】11/27号

売りに出されている英国のテレグラフ・メディア・グループ。傘下には保守系の有力紙「デイリー・テレグラフ」と、尊敬される政治雑誌「ザ・スペクテイター」が存在します。

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ベテラン経営者がテレグラフの買収まであと一歩、ただし資金提供者に懸念【Media Innovation Weekly】11/27号

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今週のテーマ解説 ベテラン経営者がテレグラフの買収まであと一歩、ただし資金提供者に懸念

売りに出されている英国のテレグラフ・メディア・グループ。傘下には保守系の有力紙「デイリー・テレグラフ」と、尊敬される政治雑誌「ザ・スペクテイター」が存在します。

その買収レースについては以前のニュースレターでもお伝えしましたが、ドイツのメディア・コングロマリットであるアクセル・シュプリンガー、デイリー・メールのオーナー家のジョナサン・ハームズワース氏、新聞チェーンのナショナル・ワールド、ロンドンを拠点とするヘッドファンド創業者のマーシャル・ウェイス氏(現在取締役も務める)、ニューズ・コーポレーション(スペクテイターに関心)などのプレイヤーが名乗りを挙げていました。

お騒がせ? のベテラン経営者が戻ってきた

そんな中、有力な候補として登場したのが、レッドバードIMIという聞き慣れない投資ファンド。それを率いるのはジェフ・ザッカー氏。NBCユニバーサルのCEOを務めた後、CNN Worldwideの社長を先日まで務めてきたメディア業界のベテラン経営者です。

ザッカー氏はワーナー・ブラザーズ・ディスカバリーという世紀の大合併の渦中のCNNを経営しましたが、スター司会者だったクリオ・クオモ氏が性的虐待を告発された実兄でニューヨーク州知事を支援したとして解雇されたり、ザッカー氏自身も親会社との確執の末、部下と親密な関係を持っていたとして解任されるという憂き目を見ています。

そんなザッカー氏を抱えるレッドバードIMIはアブダビの投資ファンドであり、言論の自由を持たない国のファンドが報道機関を買収するのは許されないという声も上がっています。(投資ファンド・レッドバードとアブダビ首長家のシェイク・マンスール・ビン・ザーイド・アル・ナヒヤーン氏のファンドの合弁)

テレグラフは1000-2000億円規模の価値を持つと言われていて、工面できる投資家は限られます。先日お伝えしたフォーブス買収の破綻劇でも、有力な資金提供者として数えられていたインドのSun Groupはロシアとの繋がりが指摘されたこともあります。「反民主主義勢力が有力な報道機関を狙っているのではないか」という警戒もここにはあります。

テレグラフ買収の行方

おさらいです。テレグラフは1855年に創刊された英国を代表する新聞で、保守系の論調で知られます。2004年にバークレイズ兄弟が買収しましたが、買収資金の返済に苦しみ、債権者であったロイズ銀行が経営権を取得。債務の返済を求めてきましたが、いよいよ難しいと判断したのか、売却に向けて動き出しました。

バークレイズ家は11億6000万ポンド(約1800億円)をロイズ銀行から借りていて、両者は12月1日までに返済されない場合は、バークレイズ家が保有する持株会社の清算を申し立てる事で合意したと21日に明らかになりました。融資が返済されなければ会社は清算され、保有する新聞と雑誌を入札で売却に向かうと見られています。

そんな中、バークレイズ家は借入の返済に必要な資金を確保するため、アブダビが支援するレッドバードIMIと契約を締結したと明らかにしました。当然デューデリジェンスは未了ながら、融資が実行され、然るべきタイミングで株式に転換されれば、レッドバードIMIがテレグラフの経営権を握ることになります。

「バークレイズ家にロイズ銀行への債務を全額返済し、テレグラフとスペクテイターを管財人の管理から外す事を可能にする、一連の融資を提供することで合意に達した」とレッドバードIMIは述べています。同ファンドはメディアを担保に6億ドル、その他の利益を担保に6億ドルの計12億ドルを融資するということです。

アブダビへの懸念は政府からも挙がっていて、文化・メディア・スポーツ庁のルーシー・レイザー長官は関係者に対して、公共の利益に対する懸念があるとして「公益介入」を行う意向であると通知しました。これによって取引を政府が阻止する可能性が出てきました。

レッドバードIMI側はメディア規制当局の代表を務めた経験もあるエド・リチャーズ氏をロビイストとして起用した事を明らかにし、対抗する姿勢を見せています。

ジェフ・ザッカーはテレグラフはどう料理するか?

NBCユニバーサルとCNNを率いた経験のあるザッカー氏はテレグラフをどのように成長させることを狙っているのでしょうか?

レッドバードIMIの声明では「私達は英国、米国、その他の英語圏諸国でのリーチを拡大するために、既存の経営陣をサポートする機会に興奮しています」と述べられています。

ニューヨーク・タイムズは、詳しい関係者の言葉として、ザッカー氏が米国進出の可能性を考えていて、米国での中道右派のニュース市場に注目していると伝えています。同氏は米国に留まり、経営を監督する意向のようです。

英国のメディア企業は、同じ言語圏で、歴史的な繋がりがあり、5倍の市場規模を持つ米国進出に躍起になっています。サンやデイリー・メール、インディペンデント、ガーディアンなどが新たに支社を開設したり、継続的にチームを拡大しています。デジタルメディアでもフューチャーなどが米国での買収を積極的に進めています。テレグラフはそうした動きは弱かったのですが、ザッカー氏が率いる事になれば自然と目は米国に向くのでしょう。

複数の巨大メディア企業を率いた実績を持つ一方、NBCユニバーサルでは低迷の原因となったと囁かれ、CNNも地盤沈下は否定できず、どちらの企業でも最後は解任されてしまっているザッカー氏。黒船に乗って復活となるのでしょうか。

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編集部からひとこと

昔から街づくりゲームが大好きで、先日発売された『Cities Skylines 2』がとても気になっているのですが、評判を聞く限り、かなりバグ満載のようで、まだ見送った方がいいかなという心境で、久しぶりに『1』を引っ張り出してきました。当時と比べてPCのスペックも上がって快適に遊べます。まあ、これでいいじゃん、という気がしました。100万人都市を作るぞー。

《Manabu Tsuchimoto》

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Manabu Tsuchimoto

デジタルメディア大好きな「Media Innovation」の責任者。株式会社イード。1984年山口県生まれ。2000年に個人でゲームメディアを立ち上げ、その後売却。いまはイードでデジタルメディアの業務全般に携わっています。

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