ワーナー・ブラザース・ディスカバリーとパラマウントが合併交渉【Media Innovation Weekly】12/25号

ワーナー・ブラザース・ディスカバリーとパラマウント・グローバルという2つの巨大メディア企業が合併の可能性について話し合ったということです。更に長い社名の企業が誕生するのでしょうか?

特集 ニュースレター

メリークリスマス♪ Media Innovationの土本です。プレゼントはありませんが、今週の「Media Innovation Newsletter」をお届けします。

メディアの未来を一緒に考えるMedia Innovation Guildの会員向けのニュースレター「Media Innovation Newsletter」 では毎週、ここでしか読めないメディア業界の注目トピックスの解説や、人気記事を紹介していきます。ウェブでの閲覧やバックナンバーはこちらから

会員限定のコミュニティ「イノベーターズギルド」を開設しました。Discordにて運営しています、こちらからご参加ください

★アプリも提供中です →AppStore/Google Play

今週のテーマ解説 ワーナー・ブラザース・ディスカバリーとパラマウントが合併交渉

ワーナー・ブラザース・ディスカバリーとパラマウント・グローバルという2つの巨大メディア企業が合併の可能性について話し合ったということです。更に長い社名の企業が誕生するのでしょうか?

合併に次ぐ合併

ワーナー・ブラザース・ディスカバリーは2022年に「ディスカバリーチャンネル」などを展開するディスカバリーが、AT&Tからワーナーメディアを買収して誕生した企業です。対するパラマウント・グローバルはCBSとバイアコムが合併して誕生した企業です。いずれもテレビネットワーク、映画スタジオなど多岐に渡るメディア事業を保有するコングロマリットです。

いずれも合併を重ねて巨大化してきた企業で、ワーナーは270億ドル、パラマウントは100億ドルの時価総額を誇ります。

交渉の事実はアクシオスが20日付で報じたもので、ワーナーのデイビッド・ザスラフCEOが、パラマウントのボブ・バキシュCEOとニューヨークのパラマウント本社で数時間もの会談をしたということです。またザスラフ氏はパラマウントの親会社を所有するシャリ・レッドストーン氏とも取引について話し合っているとのこと。

両社が合併すれば、ストリーミングサービスの「Paramount+」と「Max」(HBO MaxとDiscovery+が統合されたブランド)の統合、ニュース分野ではCNNとCBS Newsの統合、CBSスポーツとターナースポーツの統合など、幾つかの分野でより強力なブランドを構築する事に繋がる可能性があります。

攻めなのか、守りなのか

更に巨大なメディア企業を誕生させようという動きですが、市場の見方は守りの合併ではないかという見方が優勢のようです。

パラマウントは、歴史あるハリウッドスタジオのパラマウント・スタジオのほか、テレビネットワークのCBS、有料テレビのMTV、ニコロデオン、ストリーミングサービスのParamount+などを展開しますが、テレビはコードカッティング(テレビの有料契約からネットの動画配信への移行)の影響が色濃く、株価は1年間で12.3%下落しました。

他方、ワーナー・ブラザース・ディスカバリーはザスラフ氏の強力なリーダーシップで2018年のスクリップスとの合併、2022年のワーナー・メディアとの合併をこなして巨大化しましたが、同じくテレビのディスカバリーチャンネルなどは困難があると見られます。ただ、積極的なコスト削減で足元のキャッシュフローは改善していて、株価は逆に18.13%上昇しています。

合併はディスカバリーが主導すると見られますが、ロイターは「合併により更に巨大な債務を抱え、瀕死のテレビ資産を抱えたままになるため両社の経営は悪化する可能性が高い」というアナリストの言葉を伝えています。

キルター・チェビオットの技術アナリスト、ベン・バリンジャー氏は「(潜在的な取引は)何としても生き残るための作戦のようです。両社とも多額の負債を抱えており、この取引にはさらなる債務の発行が必要になる可能性が高い」と述べています。

不安定要素として大統領選挙を挙げる声もあります。2024年末は大統領選挙があり、こうした巨大な企業合併は選挙の争点となり、両社にとってコントロール不能な事態になる懸念もあります。

消費者にとってプラスか?

両社が合併を検討する裏にあるのが、NetflixやDisney+のようなストリーミングサービスで先行するプレイヤーがあるのは間違いありません。特にNetflixの支配力は、両社のような伝統的なプレイヤーの力を削いでいっています。統合によって対抗する勢力を作ろうというのが基本的な考え方です。

これは消費者にとって大きなマイナスでは? という投げかけをしているのがThe Vergeです

価格高騰の懸念もその一つです。2023年は大きな話題になったNetflixの他にも、Hulu、Disney+、Max、Apple TV+、Paramount+、Peacockなど主要なサービスは全て値上げに踏み切りました。競争が減ったとき、懸念されるのは価格のサービス価格の高騰です。

さらに作品を制作する企業が減ることで多様性が失われる事も懸念されます。同誌は100年前のハリウッドがスタジオと映画館が垂直統合された構造で、コンテンツ流通が完全に支配されてしまっていた事に触れ、同様の事態がストリーミング時代に起こり得ると指摘。ハリウッドによる支配は独禁法違反としてスタジオが映画館を保有することが禁じられましたが、ストリーミングではそうした歯止めは存在しません。

巨大なフランチャイズは安泰でしょうが、小規模なプロジェクト、マイノリティが制作するようなプロジェクトは影響を与えられる可能性があるとThe Vergeは指摘しています。実際、パラマウントは、黒人コメディアンのジウェが主演する「ジウェ」をキャンセルし、1950年代のブッチレズビアンの経験を中心に描いた「グリース」の前日譚「ライズ・オブ・ザ・ピンク・レディース」を中止し、ディズニーはレズビアンのロマンスが核となる「ウィロー」の続編も同様にキャンセルしました。

◆ ◆ ◆

より巨大になって競争力と安定を手に入れようとする企業の努力は直ちに否定されるものではありませんが、様々な懸念もあるのも事実で、ぜひ良いコンテンツが生まれる土壌を作る事に繋がる事を期待したいところです。

今週の人気記事から ドン・キホーテと博報堂がリテールメディアで新会社

小売業が持つデータや顧客接点をメディア化するリテールメディアは日に日に注目度を増していますが、ドン・キホーテを展開するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングスと博報堂がリテールメディアに取り組む新会社を設立しました。新会社pHmediaでは世界700店舗網、1300万人ユーザーのアプリを活用したマーケティングソリューションを展開していくということです。続きを読む

1.スマートニュースが有料ビジネスニュースとクーポンを一堂に集約した「SmartNews+」を開始

2.ドン・キホーテと博報堂、リテールメディア事業の新会社「pHmedia」設立

3.メディアジーン、Amazonブラックフライデーで数億円の売上達成・・・前年比125%

4.「SmartNews Awards 2023」受賞メディア11社を発表、大賞は「集英社オンライン」

5.売れるネット広告社、D2C事業領域への参入を発表・・・オルリンクス製薬を買収

6.「デイリーポータルZ」運営企業が独立し、有料コミュニティ「はげます会」中心のビジネスモデルに

7.日経電子版、個々の興味に応じた記事配信「For You」開始

8.朝日新聞社、有料購読数は387万件・・・最新のメディア指標を公開

9.ユーザベース「SPEEDA」が、新機能「AI決算サマリー」をリリース

10.CTVで視聴者を引きつけるCMは?REVISIOがCM注目度ランキングを発表

会員限定記事から 完全にAIで生成されたニュースネットワーク

来年、完全にAIによって生成された世界初のニュースネットワーク『チャンネル1』(Channel 1)がスタートするそうです。AIによって生成されたレポーターが、国際問題、金融、エンターテイメントなどのニュースを届けます。春に広告付きのストリーミングサービスとして提供開始され、夏にはアプリ版も予定しているとのこと。今までにない体験になりそうですね。様々な問題も含んでいそうですが、興味深いです。続きを読む

1.AIの検索統合がメディアのトラフィックを大きく低下させる恐れ【Media Innovation Weekly】12/18号

2.【メディア企業徹底考察 #139】弁護士ドットコムが「判例秘書」を取得、法曹界で盤石な基盤構築へ

3.ワイアード、約20人の記者と編集者を解雇・・・コンデナスト発表を上回るレイオフ

4.完全にAIによって生成された世界初のニュースネットワーク「Channel 1」が来年開局

5.【メディア企業徹底考察 #138】東宝の東京楽天地TOBは好条件のディールか?

6.Chrome、年始からサードパーティクッキー制限のテストを開始・・・2024年には全展開

7.世界の気温が初めて産業革命前平均を一時的に2℃上昇・・・気候変動ニュースの重要性(後編)

8.OpenAIが独アクセル・シュプリンガーとライセンス契約を締結、ニュースコンテンツを学習用に提供

9.米国のティーンエイジャーの15%以上がYouTubeやTikTokを「ほぼ常時」利用している

10.欧州メディア自由法が成立・・・報道機関の独立性とメディアの多元主義の醸成が目的

編集部からひとこと

クリスマスを終えて、早くもお正月に向けてといったところ。クリスマスツリーを片付けて、おせち料理の準備を始めなくてはいけません。週末は家族でゆっくりしていたのですが、子供たちとケーキを作ったり、大人たちはスパークリングワインで乾杯しました。慌ただしい日々が続きますが、残り一週間ほど、一年を振り返って、2024年に備えていきたいところです。

《Manabu Tsuchimoto》

関連タグ

Manabu Tsuchimoto

Manabu Tsuchimoto

デジタルメディア大好きな「Media Innovation」の責任者。株式会社イード。1984年山口県生まれ。2000年に個人でゲームメディアを立ち上げ、その後売却。いまはイードでデジタルメディアの業務全般に携わっています。

特集