【解説】新型コロナウイルスで加速する、メディアのサブスク現在地・・・特集「メディアのサブスクリプション戦略2020」

MIの6月特集「メディアとサブスクリプション戦略」では、メディアの新しいビジネスモデルとして世界的にチャレンジが続くサブスクリプションについて取り上げます。6月30日(火)にはオンラインセミナーも開催。サブスクリプションに挑戦するメディアの話を直接聞けるチャンスです。ぜひご参加ください。

新型コロナウイルスの感染拡大は世界を大きく変えました。日本では県境を超えた移動自粛要請が解除され、一定の新規感染者はいるものの小康状態にあると言えますが、18日には1日の世界の新規感染者が15万人と過去最大になったと報告されています。

有効なワクチンのない新しい感染症、対応策としてのロックダウンはメディアにとっての景色も一変させました。最も大きいのは広告ビジネスの崩壊です。SaaSなど一部の広告主は広告費を増やしていますが、旅行を筆頭に飲食、ファッション、自動車などが大きく落ち込みました(パブリッシャーの98%が2020年の広告収入の減少を予想・・・米国の業界団体調査)。世界の広告費は今年7.2%減少し、日本はそれを上回る14.2%の減少になるという予測もあります。

これは当然ながら広告を筆頭のビジネスに置いてきたメディア企業に大きな打撃を与えています。特に体力の弱っていた米国のローカルメディアは次々に廃刊、レイオフに追い込まれています。デジタルでも広告出稿の落ち込みは見られ、世界のデジタル広告費を支配するグーグルフェイクブックですら、3月上旬から広告出稿が大きく減少したことを報告しています。

こうした状況の中で光明になっているのがユーザーから直接収益を得る課金、特に継続的な契約であるサブスクリプションのビジネスです。

新型コロナウイルスの影響でサブスクリプションが急成長

メディアの広告に並ぶ新しいビジネスモデルとして特に欧米メディアがサブスクリプションに力を入れてきたのは昨年もお伝えした通りです。

サブスクリプションは定期購読で継続的に契約を結ぶもので、典型的には月数ドルを支払う事で、プレミアム記事が読み放題になるというものです。継続課金であり、途中解約以上の新規登録を獲得できれば、収益が積み上がっていき、予測可能なビジネスになります。

広告ビジネスは、記事を提供する読者と、広告費を支払う広告主という2者に対して価値を提供していくというものでしたが、サブスクリプションでは読者を継続的に満足させるコンテンツを提供するという一点に集中することができるという利点もあります。

米国ではニューヨーク・タイムズやウォール・ストリート・ジャーナルが先行し、日本ではNewsPicksがいち早く取り組み成長してきました。そして各社ともに新型コロナウイルスにとって契約者数の増加が拡大したことを報告しています。

ニューヨーク・タイムズは1-3月で過去最高となる58万7000件の新規登録を獲得。ウォール・ストリート・ジャーナルは同時期に20万人の新規登録があったそうです。NewsPicksは新規登録者数を公表していませんが、登録数は新型コロナウイルス影響前の約3倍になり、月の売上高が1.84億円まで増加したとしています。

広告とは異なる予想可能な成長曲線

ビジネスとして考えた際にサブスクリプションの魅力となるのは、予想可能な成長曲線を描くことです。広告はどうしても季節性から逃れられませんし、受注するか、受注しないか、という一点で売上が大きく左右されます。新型コロナウイルスに起因する景気の浮き沈みなど、外部環境に依存する部分も大きくなります。

再度ニューヨーク・タイムズの例を引きますが、同社の広告収益を約3年分並べたのが下記のグラフです。四半期ごとの数字で、デジタル・印刷ともに季節要因が大きい事が分かります。年末商戦を含む第4四半期(10-12月)に例年高くなる傾向にあります。また、順調に成長しているとも取れないグラフです。

The New York Times Companyが発表している業績発表を基にMedia Innovationが作成(次の図も同様)

一方、同期間でのデジタル購読者数の推移を見てみましょう。同社では「ニュース」と、クロスワードやレシピなど「その他」のサブスクリプションに分別していますが、いずれも積み上げ式のグラフになっている事が分かります。広告と比べると、爆発的な成長は計画し辛いものの、順調に伸びていく事が期待できるビジネスだという事が分かります。

これは日本だけの話ではありません。NewsPicksの伸びを示した図をご覧いただければお分かりいただけるかと思います。広告と違い、特定の時期に大きな売上を立てる事は難しく、損益分岐点に達するまでは赤字が続きますが、それ以降は継続的に利益が上がるモデルということになります。

ユーザベースが発表した2021年度3月期の第1四半期決算説明資料より(MRR=Monthly Recurring Revenue=継続課金による月次収益の推移)

サブスクリプションで成功するためには? 米国での先行事例

ではどのようにサブスクリプションを始めれば良いのでしょうか? 先行事例の多い米国ではNews Revenue HubMembership Puzzle Projectなど、メディアにおけるサブスクリプションを専門に研究するプロジェクトも立ち上がっています。

News Revenue Hubは以下の3点が重要であると述べています。

1.オーディエンスファーストの文化を育む
チームは、ユーザーのために仕事をする有能で十分な訓練を受けた人材を育成しなければなりません。多くのメディアは読者育成の重要性を理解していましたが、専任の人材を配置していませんでした。中には戦略を試す時間がなくて困っている人もいました。また、保守的な編集部の文化に妨げられるケースもあります。

2.フォーカスし続けることで結果を得る
リソースは限られていて、少数の集中すべき分野にフォーカスするのをオススメします。特に、ロイヤリティ分析(読者をエンゲージメント別に分析し対策を打つこと)、ニュースレター(読者と繋がる手段を再構築する)、発見性(SEOなど読者と出会う場所を改めて点検する)を高める事に集中すべきです。

3.ミッドファネルの読者を見逃さない
重要なのは読者のエンゲージメントです。SEOを研究する際にも、そうした手段で得られた読者をいかに習慣化させる事に力を注ぐべきです。再度訪れてくれるための仕掛け、ニュースレター登録の強化、プッシュ通知の提供などは、中間層に再びサイトに訪れてもらうための戦略の一つです。

これらの指摘は的を射ているように思えます。伝統的な編集部では、”作りたいものを作る”的な価値観が強いように思いますが、読者を理解することで、それを最適化していく努力は必要でしょう。そして毎日訪れてくれるような忠誠心の高い読者が、最もお金を払ってくれる可能性の高い読者です。そうした読者を増やしていくのがサブスクリプションの鍵で、実際には今までのメディア運営とそう外れた行動が求められるわけではなさそうです。

ここで強調されているニュースレターについては、ニュースレターのみでサブスクリプションを展開しているQuartz Japanのインタビューで詳しく紹介します。

情報をウォールの後ろに置くことへの批判

メディアにとっては有望なビジネスモデルであると同時に、理想的な読者との関係のあり方とも言えるサブスクリプションですが、批判もあります。

例えば、購読を促すために使われるペイウォールは、重要なニュースにアクセスできる機会を購読者のみに限定する事になります。ペイウォールについて英国での調査では33%が「全く受け入れられない」、18%が「受け入れられない」と回答しています。また、サブスクリプションを契約しない理由として39%が「無料のニュースを利用できるから」と回答しています。

New York Timesのペイウォール

インターネット上には無料のニュースが溢れていて、そうした状況の中で、有料での購読を促すためには、特別なコンテンツや特別な体験が求められます。

情報へのアクセスを制限することは、特に新型コロナウイルスのような緊急事態には熟慮か必要かもしれません。ただ、多くの欧米メディアでは新型コロナウイルスに関する報道にはペイウォールを設置しないという判断を行いました。それでも、この時期にサブスクリプションの契約者数が大きく伸びた事は、それらのメディアの信頼性の置けるニュースをサポートする必要が理解されたと言えそうです。

別のアプローチで注目されるのは英国のガーディアンの例です。ガーディアンは「全ての人への情報アクセスを保証する」と述べ、ペイウォールから距離を置くとしています。その代わりに読者からの寄付を募っています。寄付というだけあって、幾ら寄付するのかは読者の自由で、それによって情報にアクセスできるようになるわけではありませんが、ガーディアンのように信頼性の高いメディアではこうした手段が成り立ちそうです。

ジャーナリズムを維持するために寄付を呼びかけるガーディアン。最近では無料で読める代わりに、ユーザー登録を求める表示もされるようになった

また、ガーディアンも一定額の寄付を毎月提供するというようなオプションを設けています。これは実質的にはサブスクリプションと代わりがありません。同社も、読者のエンゲージメントを高めて、寄付する可能性の高い読者に育成していくという事を、他のサブスクリプション型メディアと同様の戦略で行っていると伝えられています。新型コロナウイルスの危機の中で無料のメディアでも寄付を募る例が出てきています。サブスクリプションと同様に、読者からの信頼を勝ち得ているかが重要になりますが、有望なモデルなのではないでしょうか。

◆ ◆ ◆

Media Innovationの6月特集では「メディアのサブスクリプション戦略2020」と題して、メディアにおけるサブスクリプションの現在地を、まさにサブスクリプションのビジネスに取り組むキーパーソンへの取材を通じて明らかにしていきます。

6月30日にはオンラインイベント「メディアのサブスクリプション戦略2020」も開催します。Media Innovation Guildの有料会員の皆様には無料招待チケットも配布していますので、ぜひ奮ってご参加ください。

特集: メディアのサブスクリプション戦略2020

1. 【解説】新型コロナウイルスで加速する、メディアのサブスク現在地
2. 【インタビュー】PIANO Japan株式会社 代表取締役 江川亮一氏
3. 【インタビュー】株式会社フライヤー 代表取締役CEO 大賀康史氏
4. 【インタビュー】株式会社文藝春秋 文藝春秋digitalプロジェクトマネージャー 村井弦氏
5. 【インタビュー】株式会社ニューズピックス Quartz Japan編集部 年吉聡太氏、小西悠介氏
6. 【インタビュー】株式会社メディアジーン BUSINESS INSIDER編集部 BI PRIME担当 常盤亜由子氏
7. 【実例】Media Innovationでサブスクリプションを始めたらこうなった!?
掲載順は前後する可能性があります

6月30日(火)はオンラインイベントを開催!

今月は6月30日に(火)にオンラインイベントとして「メディアのサブスクリプション戦略2020」を開催。特集に登場いただいた皆様から生でサブスクリプションへのチャレンジについて語っていただきます。パネルディスカッションや質疑応答もあります。

■開催概要

・Media Innovation Meetup Online #16 メディアのサブスクリプション戦略2020
・日時: 2020年6月30日(火) 17:00~19:00 (予定)
・参加費: 1000円
 ※Media Innovation Guildの有料会員(ライト会員:月額980円、プレミアム会員:月額4000円)に加入してもらえますと、本イベントの無料招待のコードを配布しています。この機会に加入をご検討ください
・主催: 株式会社イード

■内容

メディアにおけるサブスクリプションビジネスについてチャレンジされている方からお話を聞きます。
後半はパネルディスカッションとして、会場からの質問も受けながらインタラクティブに進行します。

17:00-17:05 主催者から挨拶
17:05-18:20 各社からプレゼンテーション
 株式会社コンテンツジャパン 代表取締役 堀鉄彦氏「世界のメディアにおけるサブスクリプションビジネスの潮流」
 PIANO Japan株式会社 代表取締役 江川亮一氏
 株式会社フライヤー 代表取締役CEO 大賀康史氏
 株式会社文藝春秋 文藝春秋digitalプロジェクトマネージャー 村井弦氏
 株式会社メディアジーン BUSINESS INSIDER編集部 BI PRIME担当 常盤亜由子氏
 株式会社イード Media Innovation 運営チーム
18:20-18:50 パネルディスカッション&質疑応答

※内容は変更になる可能性があります

有料イベントですが、Media Innovation Guildのライト会員(月額980円)以上の登録をいただけますと、無料で参加できるクーポンコードを配布しています。この機会にぜひご登録をお待ちしております。

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【10月12日更新】メディアのサブスクリプションを学ぶための記事まとめ

デジタルメディアの生き残りを賭けた戦略の中で世界的に注目を集めているサブスクリプション。月額の有料購読をしてもらい、会員IDを軸に読者との長期的な関係を構築。ウェブのコンテンツだけでなく、ポッドキャストやニュースレター、オンライン/オフラインのイベント事業などメディアの立体的なビジネスモデルをサブスクリプションを中核に組み立てていく流れもあります。

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Manabu Tsuchimoto
デジタルメディア大好きな「Media Innovation」の責任者。株式会社イード。1984年山口県生まれ。

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