右脳×時代性から考えるpart2…「メディアのイノベーションを生む50の法則」(#11)

目次 【法則25】アズ・ア・サービス化でユーザーのニーズを一気通貫で叶えるクラウドを利用して提供する新時代のサービスメディアのサービス化の可能性とメリットユーザーの目的を叶える一気通貫のサービス【法則26】双方向のコミュニティでファンと共にメディアを…

特集 連載
右脳×時代性から考えるpart2…「メディアのイノベーションを生む50の法則」(#11)

【法則25】アズ・ア・サービス化でユーザーのニーズを一気通貫で叶える

Key Words
◯MaaS・SaaS・PaaS・IaaS
〇クラウドサービスの利用状況
〇メディア・アズ・ア・サービス

クラウドを利用して提供する新時代のサービス

XaaSが増え続けています。すべてがクラウド上でサービス化していく時代に、メディアはどう対応していけばいいのでしょうか。

XaaSとは、インターネット上でクラウドなどを使用して提供するサービス全般のことを言います。モノを所有する時代からシェアやサブスク、もしくは使った分だけの課金制の時代へと徐々に変わりつつあり、XaaSは注目を集めています。代表的なもので、次のようなものがあります。

  • 「MaaS」――モビリティ・アズ・ア・サービスの略。車や電車など、移動手段を一つにまとめてサービスとして提供し、検索から支払いまで、インターネット上で完結する概念。
  • 「SaaS」――ソフトウェア・アズ・ア・サービスの略。ソフトウェアをクラウド上で提供するサービスのこと。MicrosoftのOffice365や、AdobeのCreative Cloudなど。
  • 「PaaS」――プラットフォーム・アズ・ア・サービスの略。データベースやプログラムが実行できる環境などを提供するサービスのこと。AWSのLambdaや、Google App Engineなど。
  • 「IaaS」――インフラストラクチャー・アズ・ア・サービスの略。サーバーやハードウェアなど、インフラを提供するサービスのこと。

日本ではどういったクラウドサービスが、よく利用されているのでしょうか。総務省の令和2年「通信利用動向調査」によりますと、クラウドサービスの利用内訳は「ファイル保管・データ共有」がもっとも多く53.1%で、続いて「電子メール」が52.2%、「サーバー利用」が51.0%、「社内情報共有・ポータル」が40.5%、「スケジュール共有」が38.4%となっています。

年を追うごとに、クラウドサービスの利用率は伸びています。

メディアのサービス化の可能性とメリット

このように所有や買い切り型の時代が終焉に向かっている今、メディアはどのように対応していけばいいのでしょうか。メディア・アズ・ア・サービスを作ることはできるのでしょうか。

メディア・アズ・ア・サービスの可能性――。

  • PCでもスマホでもテレビでも、ネットにつながっていれば何でも使用できる→いつでもどこでもコンテンツを楽しむことができる
  • 月額制のサブスクリプションか視聴回数分の課金制→自由にたくさんのコンテンツを楽しむことができる
  • コンテンツや情報は常にアップレートされる→常に最新の情報を手に入れることができる
  • SNSなどと連携→双方向で楽しむことができる
  • リリースと同時にコンテンツを楽しめる。また、世界中のどこでもコンテンツを楽しむことができる

メディア・アズ・ア・サービスはたくさんのメリットがありそうです。

ユーザーの目的を叶える一気通貫のサービス

さらにアズ・ア・サービス化を進化させれば、メディアの新しいカタチが見えてきます。

例えば女性ファッション誌の場合。

読者の人たちは本を読みたくて雑誌を買っているわけではありません。情報を欲しいだけとも、少し違うと思います。「きれいになりたい」や「かわいくなりたい」、「オシャレになりたい」など、雑誌を買う本当の目的があるからこそ、雑誌を買うのだと私は考えます。

そういった雑誌を買う読者の人に、雑誌という紙の媒体だけで情報を伝えていては時代に取り残されてしまいます。じっくり読ませる雑誌での記事や、さっと読めるWEB記事、さらに分かりやすく解説した動画や通勤中に聞ける音声など、あらゆる形で女性のニーズにこたえる情報を提供しなければいけません。

さらに、きれいになれるメイク用品が買えたり、洋服が買えたり、きれいになれる旅行のプランを提供できたり、きれいになるために一緒に切磋琢磨できる仲間を見つけられたりと、きれいになれるまでを一つのサービスとして統合し、ECから提供、さらには支払いまで、シームレスに一気通貫でサービスできることが求められています。ここまでサービスを提供できて初めて、ユーザーのニーズにこたえることができます。

今のマスコミのメディアの力があれば、ここまでのサービスを提供できると思いますし、このメディアのアズ・ア・サービス化にこそ、旧メディアが生き残り、そして進化できるチャンスが眠っていると私は考えます。

モノ・カタチにとらわれない、さらには情報を伝達するということだけにとらわれないメディアの進化が、未来の新しいメディアの形を作っていくと私は考えます。

【法則26】双方向のコミュニティでファンと共にメディアを育てる

Key Words
〇コミュニティと組織
〇ファンベース
〇オンラインサロン

双方向へ、メディアの変化によりユーザーも変化

インターネットの発展とともにメディアが一方通行から双方向に変化し、その変化につれてコミュニティの重要性が増してきています。オンラインサロンやSNS、リアルイベントなどを駆使して、メディアがいかにコミュニティを作り育てていけるかが、今後のメディアの生き残りのポイントになってくるのではないでしょうか。

「コミュニティ」とは、同じ趣味や専門分野などの共通点をもとに集まった人々の集合のことを言い、強制力がなく自主的につながる集団のことを言います。家族や仕事など強制力を持った集合体とは違い、仲間や生きがい、やりがいなどを求めて集うサードプレイス的な場所のことを指します。

コミュニティという言葉は、コロンビア大学の元教授で社会学者のロバート・M. マッキーバーが最初に定義づけしました。コミュニティを語るうえでよく比較されるのが、組織との違いです。

  • 「コミュニティ」――自主的に集まる。強制力はない。共通の趣味や価値観により、まとまっている。固定的なルールなどはない。
  • 「組織」――共通の目的を実現するために作られた集まり。固定的なルールや秩序、構造がある。

ファンやアンバサダーがビジネスを支える時代へ

ではなぜ今、コミュニティがここまで注目されているのでしょうか。それは、メディアが一方通行から双方向に変化するにつれて、ユーザーの考え方や行動も変化してきたからです。これまでは、“いち視聴者”や“いち読者”だったユーザーが、コミュニティに入ってくれることによりファンになりビジネスを支えてくれ、さらにコアファンやアンバサダーになって主体的に情報を発信してくれて新たなユーザーを生み出してくれる時代になったからです。

ファンベースという言葉が話題になっています。元電通クリエイティブ局出身の佐藤尚之氏が提唱したマーケティング手法で、「ファンを大切にし、ファンをベースにして中長期的に売り上げや事業価値を高めていく」概念のことを言います。

ファンベースを実践していくために、佐藤氏は次の3つのアプローチが大切だと伝えています。

  • 共感を強くする→熱狂される存在になる
  • 愛着を強くする→無二の存在になる
  • 信頼を強くする→応援される存在になる

この3つのアプローチを実践することにより、ユーザーがファンに、そしてファンがコアファンに変化していき、ビジネスを支えて成長させてくれることへとつながっていくのです。コミュニティは、“いちユーザー”をファンにもコアファンにも変えてくれます。これからメディアの双方向性がどんどん増すにつれて、コミュニティの重要性もますます高くなっていきます。

メディアに合うオンラインサロンのタイプを選ぶ

メディアがコミュニティを作り育てていく手法として欠かせないのが、オンラインサロンです。オンラインサロンとはインターネット上でユーザーに有益な情報や体験を提供する会員制のサービスのことをいい、参加者同士がコミュニケーションを取れて主体的に行動できるコミュニティのことをいいます。共通の価値観を持った人が集まれ、安心安全な環境で集えるとあって、近年、急速に人気が高まっています。

オンラインサロンは次のようなタイプに分かれます。

  • ①「ノウハウ提供タイプ」――専門家など“先生”がスキルや知識を提供。限定情報やノウハウを受け取ることができる。
  • ②「ファンクラブタイプ」――歌手や作家など、有名人が運営。著名人と接点を持つことができる。
  • ③「交流会タイプ」――参加者同士のマッチングや共通の趣味の情報交換が目的。同じ価値観を持った仲間に会えたり、人脈を広げたりできる。
  • ④「共同プロジェクトタイプ」――運営者と参加者が一緒にプロジェクトに取り組む。やりがいや生きがいを作ることができる。

自分のメディアに合ったオンラインサロンのタイプを選び、運営していくことで、コアファンを作っていくことにつながります。これまでのメディア作りから一歩踏み出さなければ、ユーザーはファン、そしてコアファンには変わってくれません。既存のメディアが、オンラインサロンやSNSなどさまざまな形で双方向のコミュニティを持つことによって、ビジネスをどんどんと発展、成長していける起爆剤になっていってくれることでしょう。

【法則27】「事業会社のメディア化」と「メディアの事業会社化」の融和

Key Words
〇編集者、プロデューサー
〇ツールへの習熟、メディア的活動
〇広告の変化

コンテンツマーケティングという言葉が流行っています。企業でも個人でも、誰もがメディア化できる時代になり、世の中と直接、コミュニケーションを取れるようになりました。そんな誰もがメディア的な活動ができる時代に、われわれメディアはどう対応していけばいいのでしょうか。

メディア的な活動の定義と編集者の介在

メディアとはそもそも何なのでしょうか。media(メディア)はmedium(メディウム)の複数形であり、 medium は「中間にあるもの、間に取り入って媒介するもの」だと定義されています。では、メディア的な活動とは何なのでしょうか。SNSの普及により、個人、企業含めて、誰もが情報発信をすることが簡単になりました。では、YouTuberはメディアなのでしょうか。Instagrammerもメディアなのでしょうか。私はメディアと言えると考えます。

マスメディアが行っているメディア活動と、企業や個人が行っているメディア的な活動とは、どこが異なるのでしょうか。私は、その活動の中に、編集作業が入っているか入っていないかのように感じます。YouTubeでも他のSNSでの発信でも、自身で編集作業を行っていることだと思います。

しかし、マスメディアのコンテンツ作りでは、作り手と一緒に編集者や、プロデューサーが介在することが多く、たくさんの人の手によって、「編集」もしくは「プロデュース」されています。どちらのコンテンツが優れている、優れていないというわけではありません。

ただ、人が求めている状況、状態において、適切なコンテンツは存在すると思いますし、その状況の違いによって、コンテンツの情報量が過剰だったり、過小だったりすることがあります。その違いを埋め、適切なコンテンツを届けるために、編集やプロデュースの手を通る必要があるように感じます。

ツールの普及によるメディア化の加速と競争激化

WixやWordpressなどのホームページ作成ツールの普及により、HPやニュースサイトを開設するコストがグンと下がり、誰もがオウンドメディアを持つことができるようになりました。簡易的にメディアにチャレンジができるようにはなっていますが、やはりそう簡単に成功することは少なく、自社のHPに人が溢れかえったり、商品が次々と売れたりといった状況になるサイトは少ないように感じます。

自身のHPを知ってもらうためには、ビジョンやコンテンツの方向性、サービスの魅力など、さまざまな情報を伝えていかなければいけません。テキスト、動画、音声、画像を駆使して、それらの思いを適切に表現して、それぞれのフォーマットに合うように届けていく必要があるでしょう。

自身や自社の立ち位置を明確にし、価値を作り続けていくためには、各種のツールに広く精通し、ツールを使いこなしていくことが大切になってきます。

メディアと事業会社の垣根は限りなく低くなる

事業会社がメディア化してくると、PR、マーケティング活動にも変化が起てきます。事業会社からしたら、従来型のメディアに対しする広告費用の扱いが変わり、「いかにお金をかけずに自社商品を知ってもらい、購買に繋げるか」が目標となってきます。事業会社からしたら広告費にお金をかけないことが、究極的には理想かもしれません。テスラは、従来型の広告に投資をしないことで有名です。しかし、テスラの商品は有名であり、テスラのアイコンでもあるイーロン・マスクも同様に知名度はとても高いです。テスラのように完全に広告費をかけないまでも、ある程度従来型の広告を減らし、自社でPRできることは可能です。デジタルマーケティングの進化とともにファンを囲む流れは加速し、ユーザー動向を把握しての広告出稿は当たり前になってきています。

反対に、従来のメディアの事業会社化も進んでいます。

メディア企業自体が、ECや商品開発、商品のプロデュースなども行っていて、事業会社化が進んでいます。この「事業会社のメディア化」と「メディアの事業会社化」の融和は単純ではなく、衝突も繰り返しながら、緩やかに、時には急速に行われていくことでしょう。

そうした時に大切になるのが、垣根がなくなっていったとしても、事業会社、メディア自体のどちらも、大切にしている信念や、ユーザーに届けようとしている価値は何か、ということに収斂されていくのではないでしょうか。活動の表現手法自体は多様化していくのに、これまでに権威的な形でユーザーニーズと異なるのに無理して保っていたものは、段々と継続していくことが難しくなっていくのではないでしょうか。

(以下、第12回に続く)

メディアのイノベーションを生む50の法則

第1回:メディアの変遷と未来
第2回:イノベーション理論の歴史
第3回:「左脳」×「普遍性」
第4回:「右脳」×「普遍性」
第5回:「左脳」×「時代性」
第7回:その他の領域 part1
第8回:「左脳」×「普遍性」 part2
第9回:「右脳」×「普遍性」 part2

第10回:「左脳」×「時代性」 part2
第11回:「右脳」×「時代性」 part2
第12回:その他の領域 part2(10/26ごろ公開)

以下、続く。

《出村大進》

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出村大進

出村大進

株式会社小学館マーケティング局。 毎月開催するメディア・マスコミ業界中心の勉強会&交流会「一冊会」を主催。 早稲田大学大学院経営管理研究科卒業。石川県生まれ。

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