電子書籍取次の国内トップ、メディアドゥの業績が好調です。2021年2月期の売上高が前期比26.8%増の835億4,000万円、営業利益が43.8%増の26億6,400万円となりました。売上高は2桁での増収増益を続けており、2022年2月期の売上高も19.7%増の1,000億円、営業利益を12.6%増の30億円と2桁成長継続の予想を出しています。出版不況といわれる中でも急成長を遂げている数少ない会社の一つです。
■メディアドゥ業績推移(単位:百万円)


2021年3月25日、メディアドゥは紙の出版取次国内第2位のトーハンと、資本業務提携を締結しました。メディアドゥはトーハンの株式5.56%を保有し、筆頭株主となります。3,000の出版社と5,000の書店を結ぶトーハンは、書籍流通の1/3を占める老舗企業ですが、紙の本の市場規模縮小とともに業績の悪化が止まりません。
■トーハン業績推移(単位:百万円)


電子書籍の取次で急成長中のメディアドゥと、紙の取次で苦戦するトーハン。相反する2社の資本業務提携にはどのような狙いがあるのでしょうか?メディアドゥのこれまで辿った道と成長戦略、電子書籍の市場規模の推移を見ながら、その狙いを解説します。
Amazonに次ぐ第2位の電子書籍流通事業者
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メディアドゥは売上高835億円のうち、823億円が電子流通事業です。実に98.6%を占める主力事業です。
メディアドゥはもともと携帯電話の「着うた」の配信サービスを行っていました。ガラケーと呼ばれる携帯電話全盛期に、着メロと着うた、着うたフルの3つのサービスが台頭していました。着メロはメロディだけだったためにJASRACを通せば誰でも許諾がとれましたが、着うたや着うたフルはオリジナル音源を使用していたため、アーティストやレーベルに許諾を受ける必要があります。
メディアドゥはアーティストに許諾をとり、音源を配信して利用料を支払うシステムを提供していましたが、着うた、着うたフルともにスマートフォンの台頭によって市場が急速に縮小します。
■モバイル音楽コンテンツ市場規模推移(単位:億円)


メディアドゥは先細りが鮮明になった音楽事業から、電子書籍へと軸足を移します。コンテンツ管理システムの構築が得意だったメディアドゥは、出版社などとの著作権の許諾、利用料の支払いなどを行う仕組みを整え、コンテンツを電子書籍端末に配信し始めました。2013年2月期の売上高は40億8,600万円。そのうち、電子書籍事業は74.7%となる30億5,100万円でした。早期に参入していたことで、先行者利益を得ることができたのです。
メディアドゥはコミックを中心として電子書籍事業を拡大してきましたが、2017年3月に出版デジタル機構を80億円で買収。出版デジタル機構は官民ファンドの産業革新機構が出資して設立した会社で、国内の書籍のデジタル化を推進することが目的となっていました。文芸書や学術書などの人文書に強みを持っており、この買収でテキストコンテンツにも事業領域を広げることができました。そして2019年に完全子会社化したことで、メディアドゥは国内トップの電子書籍取次事業者となりました。
国内の電子書籍市場は、コミック・文字ともに右肩上がりで成長しているだけでなく、今後の成長余力も極めて大きい領域です。2019年でコミック・文字を合わせた市場規模は3,473億円でした。2024年には5,669億円まで63.2%伸びる予想となっています。
■国内電子書籍市場規模推移(単位:億円)

■国内電子書籍市場規模予測(単位:億円)

メディアドゥは2020年2月期の電子書籍事業売上高が645億2,900万円でした。2019年の電子書籍の市場規模が3,473億円ですので、18.6%のシェアを握っていることになります。そして同社は、2022年2月期の売上高を1,000億円と予想。シェアは20.7%まで拡大することになります。シェアを21%程度まで拡大すると、2025年2月期には1,200億円まで売上高が拡大する計算です。
メディアドゥの電子書籍事業の拡大はまだまだ続く見込みです。しかし、市場規模の拡大とシェアの獲得だけを進めていても、着うた時代と同じように、急速に市場が縮小することもないわけではありません。そこで、デジタルコンテンツに新たな付加価値をつけようとしたのです。それがトーハンとの資本提携に繋がります。
紙の希少性をデジタルで表現する新たなサービス
電子書籍などのデジタルコンテンツは消費されて終わりです。電子書籍で読んだものに所有する概念は無く、メディアドゥはこれがデジタルの弱点であることに気づいていました。デジタルに希少性を持たせ、コンテンツのファンを虜にする。それが新たな付加価値の創造です。メディアドゥはこの取り組みをNFTに位置づけています。
■NFTへの取り組み

NFTの成功例がカナダのブロックチェーンベンチャー「Dapper Labs」です。この会社は「NBA Top Shot」というアニメーション・トレーディングカードを扱っており、デジタルカードでスポーツのコレクターズアイテムとしての認知を獲得しました。すでに5億ドル(550億円以上)の売上を記録しています。ブロックチェーン技術を利用したデジタルアートに近いサービスであり、近年注目を集めている分野です。
メディアドゥはトーハンを通してデジタル付録つきの書籍を販売し、ファンを獲得する仕組みを構築しようとしています。すでにKADOKAWA、講談社、集英社、小学館との企画を進めています。電子書籍を機械的に配信するのではなく、ファンを書店に集め、所有感を満たすデジタルコンテンツを販売する、リアルとデジタルを繋ぐサービスです。

メディアドゥの取り組みはここで終わりません。この唯一無二のデジタルコンテンツを売買するNFTのマーケットプレイスを構築する計画です。これにより、ファン同士が所有しているコンテンツをヤフオクやメルカリのように売買することが可能となります。マーケットプレイスは2021年にリリースする予定です。
メディアドゥはデジタルコンテンツの弱点を克服すべく、所有権の概念を持たせましたが、その限定商品を広めるためには、ファンを集めやすいリアル店舗の活用が必要になります。出版社や書店との繋がりが強く、事業領域も近いトーハンはうってつけの相手だった