経済金融メディア「ZUU online」を運用する株式会社ZUUが、2019年10月に買収したCOOLと2020年2月に連結子会社化したユニコーンの「のれん」2億4,700万円の減損損失を計上しました。これによって、ZUUは2021年3月期に3億円の純損失(前年同期は9,200万円の純損失)を出しました。COOLとユニコーンはクラウドファンディングの会社です。損失額はさほど大きくありませんが、この買収の失敗はZUUの事業展開の本質をよく表しています。
この記事は、クラウドファンディング事業の失敗を通して、ZUUの強みと弱みがどこにあるのかを炙り出すものです。
ZUUはシナジー効果で2社を黒字化できると見込んだか?
まず、「のれん」の減損損失が何なのかを説明します。「のれん」とは、買収金額と被買収企業の純資産の差のことを言います。例えば、純資産1億円の会社を3億円で買収すれば「のれん」は2億円です。通常、企業価値は将来的にどれだけのキャッシュフローを生むかという試算値を出し、それを現在価値に割り戻して計算します。つまり、買収金額は多くの場合、目に見えない将来価値を算出根拠としているのです。よほどの赤字企業でない限り、買収額は純資産額を上回ります。その差額が「のれん」です。
会計的な話をすると、「のれん」は貸借対照表の固定資産に無形資産として計上されます。ZUUのように日本の会計基準を採用している場合、最長20年で償却します。2億円を10年で償却しようとすれば、毎年2,000万円を販管費などとして計上するのです。
企業価値の算出根拠をもとに、買収後の(子会社の)業績が計画通りに進んでいれば問題ありません。しかし、想定どおりに進まない場合、「のれん」の減損処理をしなければなりません。2億円の「のれん」が積まれていれば、最悪の場合その2億円を損失として一度に処理するルールなのです。ZUUはこの金額が2億4,700万円でした。

ZUUのクラウドファンディング事業は全く利益の出ない状態が続いています。2021年3月期の売上高は1億1,300万円、営業損失が2億3,200万円でした。COOLとユニコーンはもともと赤字だったのではないかと考えられます。ZUUは2社を傘下に入れることで、黒字化できると踏んでいたのでしょう。ZUUのクライアントや取引先をクラウドファンディング事業に横滑りさせることにより、COOLやユニコーンが顧客獲得できるためです。それが大誤算となります。
ZUUのビジネスモデルは古典的なメディア企業そのもの
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次にZUUの基幹ビジネスがどこにあるのか見てみましょう。事業は大きく2つに分かれています。リテール・フィンテックとコーポレート・フィンテックです。非常にイメージしづらい名前ですが、ビジネスモデルそのものは単純です。メディア「ZUU online」を運用して広告やセミナーによる収入、有料会員の獲得を行うのがリテール・フィンテックです。
ZUUはM&A仲介のM&Aセンターと2019年7月に提携し、経営者向けのメディア「ザ オーナー」を立ち上げました。ZUUは得意なメディア運用を行い、M&Aに興味を持つ経営者を集め、セミナーへの集客へと繋げています。すなわち、M&Aセンターに代わってオウンドメディアを運用し、リードを獲得しているのです。これがコーポレート・フィンテックです。
ここからはリテール・フィンテックを軸に話を進めます。
見てきたように、ZUUのビジネスモデルはスタンダードなものでした。このとき、メディアの運用方法を左右するポイントが一つあります。広告にマッチした読者をどれだけ獲得できるかです。テーマへの興味関心が高い読者が多ければ、自然に広告が集まります。広告の反応率が高いためです。それほどでもなければ、法人営業を強化して広告を獲得しなければなりません。ZUUはどちらかというと後者になります。
「ZUU online」の月間訪問者数は約1,300万人。ジャンルは異なりますが、「価格.com」は7,000万人、「食べログ」が1億1,600万人です。 まず、ZUUの訪問者数が他メディアを圧倒しているわけではありません。
「ZUU online」が投資情報に特化しており、投資意欲の強い読者が1,300万人集まるのであれば、証券会社などが広告出稿する動機は強まります。しかし、「ZUU online」は他メディアからの転載や自動車、時計など様々な情報を発信しており、ターゲットユーザーが富裕層に特化しているとは考えにくいです。

ZUUを創業した富田和成氏は、野村證券でリテールやプライベートバンクで営業力を磨いてきました。メディア編集出身ではなく、営業寄りです。2013年に設立したZUUはわずか5年でマザーズに上場しています。上場時は売上のほとんどが広告収入でしたが、富田氏が会社員時代に築いた土台があったからこそ実現したものだと考えられます。現在もその流れを色濃く映しているのです。
流通総額が勝敗を分けるクラウドファンディングの世界
COOLは不動産などへの出資を小口で募り、運用中は利益に応じた利回りが得られ、プロジェクトが終了すると元金を償還するソーシャルレンディングです。ユニコーンはベンチャー企業の未公開株に出資をする株式投資プラットフォームです。ZUUは資金調達に苦労する企業を見つけ、投資家からの貸付または投資を促して手数料を得ようとしました。
確かに、ZUUは成長するための資金が不足している会社を見つけることには、長けていたと考えられます。経営者向けのセミナーやインタビューなどを多数行っており、中小、ベンチャー企業などとのパイプを作りやすいためです。
しかし、クラウドファンディングのようなプラットフォーム事業は基本的に手数料ビジネスであり、流通総額がものを言う世界です。法人営業とは方向性がまるで違います。
株式投資型で最も知名度があるプラットフォームに、日本クラウドキャピタルが運用する「ファンディーノ」があります。2017年にサービスを開始していますが、開始から2年も経たないうちに累計成約額17億円を突破しました。「ファンディーノ」は俳優の大森南朋さんを起用したCMを放送し、ユーザー(投資家)とベンチャー企業の経営者双方への認知拡大を行っています。
プラットフォームの拡大に必要なのは営業力ではなく、マーケティング戦略です。営業力で出資者を集めたとしても割に合いません。仮に1,000万円の出資案件があり、手数料が15%だったとします。一口10万円の出資者を100人集めても、プラットフォームの提供者が得られる金額はわずか150万円です。それを営業力でカバーするよりは、記事広告の案件を獲った方が生産性は高いでしょう。
プラットフォームビジネスは、自然に案件への出資者が集まる状況をマーケティング施策に投資をして作り上げる必要があります。そして、そのマーケティング戦略はZUUの得意領域ではありません。それは多数運営するメディアのユーザー数が決して多くないことが物語っています。
法人営業の強さを活かせるのはメディアの運用代行か?
ただし、ZUUの成長力は旺盛です。売上高は30~50%増のペースで成長しています。2022年3月期は61.3%増の45億円、営業利益は前期比14倍の2億円を予想しています。
■ZUU業績推移(単位:百万円)


ZUUの最大の強みはBtoBの営業力です。伸びしろはコーポレート・フィンテック(企業に代わってオウンドメディアを運用し、リードを獲得する)にあると予想できます。かつてオウンドメディアブームが起こった際、多くの企業が自社でコントロールできるメディアを持ちました。しかし、アサヒビールが日経BP社とタッグを組んで運用を開始した「カンパネラ」のように、閉鎖へと追い込まれる事例が相次いでいます。結局は多くの企業が自前では運用しきれず、成果も見合わないと判断しました。今では放置状態になったオウンドメディアを数多く目にします。
ZUUはマーケティングに弱いという話をしましたが、その一分野で飛びぬけている分野があります。SEOです。自然検索での上位表示獲得に強みを持っており、それをフックとしてリード獲得につなげられるのです。法人営業とSEOノウハウ、オウンドメディアが量産されて放置されている外部環境を考慮すると、この分野で強みを発揮する可能性は極めて高いと考えら