【メディア企業徹底考察 #20】エムスリーがコロナ禍で破竹の勢い さらなる成長のカギを握るのは?

医療情報サイトを運営するエムスリー株式会社が、新型コロナウイルスの感染拡大と医療体制の変化を背景に成長ペースを上げています。2021年3月期の売上高は前期比29.2%増の1,691億9,800万円、営業利益が同68.8%増の579億7,200万円となりました。2022年3月期通期の業績予想はコロナの見通しが不透明なために未定としていますが、2022年3月期第1四半期の売上高は前期比30.8%増、営業利益は同119.1%増と、その勢いは留まる気配がありません。

エムスリーは医療情報に特化した特殊なメディアというイメージが強いですが、そのビジネスモデルは極めて普遍的なものであり、細部まで緻密に計算されています。この記事では、エムスリーの強さの源泉について説明します。

また、これだけ急成長している一方で、エムスリーの株価は2021年1月8日に10,675円の上場来高値をつけた後、8月17日の6,762円まで36.7%下げました。業績拡大が続いているにも関わらず、市場の評価はなぜ下がったのでしょうか? その理由も併せて解説します。

時価総額5兆円を超えて三菱商事を追い抜く

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エムスリーは2000年9月にソネット・エムスリーとして設立されました。創業者は経営コンサルティング会社マッキンゼー出身の谷村格氏です。谷村氏はマッキンゼー時代にヘルスケア業界を担当しており、複数の製薬会社と医師を繋ぐプラットフォームがないことに疑問を感じたといいます。MRという言葉がありますが、これは製薬会社の医薬情報担当者のことで、開発した新薬などの有用性を正しく医師に理解してもらう仕事です。それをデジタルプラットフォーム化したのが、エムスリーの「MR君」でした。これが大当たりします。創業からわずか4年後の2004年9月にマザーズに上場。2007年3月に東証1部に指定替えとなりました。

エムスリーの時価総額は2021年8月時点で5兆円を超えており、三菱商事やセブン&アイ・ホールディングスを上回っています。一般的な馴染みは薄いですが、日本を代表する企業の一つです。

■エムスリー業績推移(単位:百万円)

決算短信より筆者作成

エムスリーのサービスは医師会員30万人以上が利用しています。厚生労働省の2018年の調査では、国内の医師数は32万7,000人。およそ92%がエムスリーのプラットフォームを利用していることになります。

営業利益率が30%と極めて高いこともこの会社の特徴の一つです。エムスリーのメディカルプラットフォーム事業は70社と契約し、1社あたり5億円の売上があるとされています。独占的なサービスを展開しているために価格競争に巻き込まれず、高利益体質を保っているのです。

■事業別売上高(単位:百万円)

事業は大きく5つに分かれています。MR情報のメディカルプラットフォーム、治験をサポートするエビデンスソリューション、医療関係者の転職をサポートするキャリアソリューション、患者の悩みに医師が答えるサイトソリューション、そして海外事業です。

主力はメディカルプラットフォームで、2021年3月期は売上全体の44.8%をカバーしています。コロナでこの事業の売上高は前期比50.3%増加しました。これは医療機関に訪問ができなくなり、製薬会社がMRの主戦場をWebに切り替えたためです。

提供する情報の質を上げたことが手放せないポイントに

製薬会社の営業コストの92%(およそ1兆4,000億円)はMR関連費用とされており、エムスリーのサービスがクライアントの費用削減に貢献していることは間違いありません。また、国内の医師92%が会員になっていることも魅力の1つですが、製薬会社がエムスリーと袂を分かちがたい理由がもう1つあります。医師から絶大な信頼を得ていることです。

■有用と考える医薬品の情報源

決算説明資料より

有用な医薬品の情報源のトップに「MR君」がきています。MRや製薬会社の研究会を20%近く引き離しました。これは医薬情報担当者との面談がコロナで削減され、デジタルシフトが加速したことも影響しています。しかし、エムスリーが信頼できる情報発信に努めてきた結果でもあります。

そもそも、このMRプラットフォームとはどのような特性を持っているのでしょうか?

医薬産業政策研究所によると、国内では新医薬品の承認が年間およそ100品目あります。2020年は125品目でした。3日に1品目の承認が下りていることになります。医師はこの新薬についての情報を必要としているのです。

少し古いデータになりますが、2006年のエムスリーの医師登録数は14万人で、このときの「MR君」の月間ログイン数は130万回です。1人当たり月に10回ログインしていることになり、医師の稼働日数を月25日とすると、2.5日に1回はログインをしています。また、このころの月間PV数は3,000万でした。1ログイン当たり23ページ閲覧している計算です。業界は異なりますが、「食べログ」の閲覧数は10ページ、「価格.com」が7ページです。「MR君」は驚異的な閲覧数だと言えます。それだけ濃密な情報を発信していたことになります。

ここまでの内容をまとめると、エムスリーの成功要因は3つあります。

〇製薬会社の営業コストを大幅に削減できたこと(クライアントのメリット)
〇医師が確かな情報を迅速に仕入れることができたこと(ユーザーのメリット)
〇新薬の承認数が多く、新しい情報を業界全体が必要としていること(市場環境)

エムスリーは、中立な立場で情報発信する「中立エリア」とMR情報などを掲載する「スポンサーエリア」を分けたメディア構成にしています。スポンサーエリアを単なる広告にしていたら、今のような拡大はありえませんでした。 医薬情報担当者の人件費を削減できるメリットがあったからこそ、製薬会社が離れられない仕組みにできたのです。

このビジネスモデルは海外にも例がなく、唯一無二のものだと言われています。

決算説明資料より

国内の利用者が頭打ち、海外展開が伸びしろか

伸び盛りに見えるエムスリーの株価が下がっているのは、売上高全体の半分ほどを占めるメディカルプラットフォーム事業が頭打ちになると見られているためです。医師の登録数は絶対数に近づいているために飛躍的な増加は望めません。新型コロナウイルスが収束へと向かった場合、 医薬情報担当者との面談がこれまで通りに戻る可能性もあります。柱となるメディカルプラットフォームの成長性が失われれば、会社全体の業績に大きく影響します。

次の成長性のカギを握るのが海外事業です。海外事業の売上高は2021年3月期で24.5%を占めています。エムスリーは2013年に中国、2016年にインドで事業を開始。また、欧米を中心にM&Aを繰り返し、エムスリーに登録する医師数は600万人に上っています。その一方で、国内事業ほど稼げていません。膨大な数の海外医師会員の利用を促進できるかどうかが、更なる成長に向けた試金石とな

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