書店「ヴィレッジヴァンガード」を展開する株式会社ヴィレッジヴァンガードコーポレーションの業績が冴えません。2021年5月期の売上高は前期比3.3%減の282億9,300万円、営業利益は2,900万円(前期は2億8,600万円の営業損失)となりました。かろうじて営業利益を出したものの、新型コロナウイルス感染拡大前から一番の課題になっていた売上高が回復しません。
■ヴィレッジヴァンガードコーポレーション業績推移(単位:百万円)


ヴィレッジヴァンガードといえば、「遊べる本屋」をキーワードに、独自の品ぞろえや陳列を徹底していることが特徴ですが、実はこの特徴こそが業績を圧迫していると考えられます。
この記事はヴィレッジヴァンガードのビジネスモデルと業績を見ながら、コロナ後の成長戦略としてどのような描いているのか、描くべきなのかを独自に分析する内容です。
既存店の売上減、不採算店の撤退で薄氷を踏む経営状態続く
ヴィレッジヴァンガードの経営状況を売上高と営業利益に分けて説明します。
ヴィレッジヴァンガードは2021年3月の既存店売上高が前年比112.9%、4月が255.8%、5月170.1%と驚異的な伸びを見せていますが、これは2020年の緊急事態宣言下と比較をしているためです。これを2019年比でみると、3月が84.0%、4月が85.2%、5月が79.6%で3カ月の平均は82.9%と回復には程遠い状況です。
同じくサブカル系の書籍や雑貨を扱う、まんだらけの同時期の既存店売上高の2019年比平均値は97.6%となり、ヴィレッジヴァンガードとの差を10%以上あけました。
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実はヴィレッジヴァンガードは新型コロナウイルス感染拡大前から店舗の売上減に悩んでいました。2018年6月から2019年5月までの既存店の平均売上高は前年比99.0%です。そのため、不採算店の退店を進めていました。
■ヴィレッジヴァンガード出退店状況

2018年5月期に8店舗、2019年5月期に12店舗、2020年5月期に3店舗、2021年5月期に9店舗減少しています。既存店の収益力の悪化、不採算店の退店。これが会社全体の売上高減少の原因です。
次に利益を見てみます。2019年5月期のヴィレッジヴァンガードの営業利益率は1.3%です。業績不振にあえぐ文教堂でさえも営業利益率は1.9%です。極めて営業利益率の低い状態が続いています。
ヴィレッジヴァンガードの2019年5月期の原価率は62.4%、販管費率は36.3%で圧倒的に原価率が高くなっています。この原価率がポイントです。
ヴィレッジヴァンガード一番のウリが弱点に
ヴィレッジヴァンガードの書籍が売上高に占める割合はわずか8%で8割以上はSPICEと呼ばれる雑貨が占めています。
■売上構成比率

そして注目したいのが、商品本部以外の雑貨が売上の50%を占めていることです。ヴィレッジヴァンガード最大のセールスポイントは、出店地域の特性に合わせて店舗が独自に店づくりを行い、販売する商品の選択をしていることです。これが競合他店との明確な差別化になっています。顧客との距離が近い現場のスタッフが商品を選ぶことにより、大きな売上に繋がることがあります。
しかし、これが原価率を圧迫している一番の要因になっていると考えられます。通常、仕入れは大量一括で行うことによって価格交渉力が上がって値段が下がります。店舗単位での依存度が高まればそれだけ利益が圧迫されることを意味しています。
コロナ前までは薄利であっても競合店との差別化が図れ、出退店を上手く組み合わせて利益を出せたので問題ありませんでした。しかし、新型コロナウイルスによって集客力が落ちた今、そのビジネスモデルが通用しなくなっています。
事実、2021年に入って一部店舗で販売していた限定商品やコラボ商品を、オンライン通販で全国販売する取り組みを開始しています。また、これまではサブカル系の若い女性を主なターゲットとしていましたが、アイドルグループ『22/7(ナナブンノニジュウニ)』や『ラブライブ!』とのコラボ商品を出している通り、ターゲットをアニメやアイドルファンへと軸を移しています。
■オンライン通販で全国販売したコラボ企画商品

店舗への依存度を低くしたいヴィレッジヴァンガードにとって、全国的に根強いファンがいるアニメーションやアイドルを主要ターゲットとし、オンライン通販で売上を獲得するのは自然な流れと言えます。
ただし、オンライン事業は業績を支えるほどには育っていません。
■その他事業の業績推移(単位:百万円)

ヴィレッジヴァンガードは、オンラインと中国の海外子会社2社を「その他事業」としています。2021年5月期の売上高は8億9,100万円ほど。海外の子会社と合わせても10億円に届いておらず、全体の3%程度に留まっています。このカテゴリを急伸させるのは至難の業です。
一時的とはいえ集客力を失った以上、会社としては原価率を抑えようとするはずです。そうすると、必然的に店舗の仕入れ分を削減するしか道はないものと考えられます。それが集客力の更なる減少を招くのか、生産性が向上して利益率が上がるのか。コロナ後の難しい舵取りが要求されて