トランプ政権が様々な議論を巻き起こし、さらには新型コロナウィルスが流行したことで、2019年から2020年には米国におけるニュースの需要は大幅に高まり、多くのニュースメディアでトラフィックが増加しました。そして、この好調を活かし、大手日刊紙は次々とデジタル戦略を加速させてきました。
大手日刊紙ワシントン・ポストも、大きく成長したメディアの一つです。2020年末には史上最高のデジタル広告収益を記録し、1月にはデジタルサブスクリプションがおよそ300万人となりました。しかし、米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は、ワシントン・ポストが読者の減少に悩まされていることを報じています。
政治への関心が薄れる
WSJの報道によると、12月初め、ワシントン・ポスト幹部による会議が開かれ、同紙のオンライン読者が激減していることにどのように対応するのか、議論が交わされました。会議のなかで、2019年のある時期には、同紙デジタル版の人気記事50本のほぼ全てが政治関連記事であったのに対し、2021年の同時期には、人気記事上位10本のうち、政治関連記事はわずか3本だったことが報告されたといいます。
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また、WSJが入手した内部文書によれば、ワシントン・ポスト デジタル版の今年10月のユニークビジター数は約6600万人で、昨年同月から28%も減少しています。内部文書では米調査会社Comscoreのデータが引用されており、ワシントン・ポストは、ザ・ヒルやポリティコといった政治専門誌に次いでトラフィックが大きく減少していることが示されたとのこと。一方、競合メディアであるニューヨーク・タイムズやVox Media、CNNなどもトラフィックの減少に苦しんでいるものの、ワシントン・ポストほどではないようです。
さらに、1月時点では約300万人だったデジタルサブスクリプションが、10月には約270万人まで減少したことも明らかになりました。トランプ政権が終わった後、米国のニュース消費者の政治への関心が薄れてきており、ワシントン・ポストはその影響を大きく受けていることがわかります。
同紙は、特集記事や文化といった、より関心を集めているトピックへリソースを割くことを検討しています。今年6月に編集長に就任したサリー・バズビー氏は、「政治には周期性がある。読者の政治への関心が再び高まったときに備えて、準備をしておくべきだ」と述べたと伝えられています。
幅広い製品ラインナップが鍵か
米国の新聞で最もデジタルサブスクリプション戦略に成功しているのは、ニューヨーク・タイムズです。プレス・ガゼットが発表した「デジタルニュースサブスクリプションランキング」によれば、ニューヨーク・タイムズは2位のワシントン・ポストの2倍以上の760万人の購読者を抱え、1位に輝いています。
ニューヨーク・タイムズは、クロスワードパズルなどの娯楽コンテンツを提供する「ゲーム」、レシピサイトの「クッキング」、商品レビューサイト「ワイヤカッター」などニュース以外のサブスクリプションを充実させています。「ゲーム」「クッキング」はそれぞれ単体で100万人の購読者を擁し、十分にデジタル戦略を支えています。たとえ政治への関心が薄れても、これらの周辺ラインナップは人気を失いづらいでしょう。
ワシントン・ポストも、女性向けコンテンツ「リリー」や旅行サイト「バイザウェイ」を発表してきました。しかし、これらのサービスに関わるスタッフのなかには、CEO フレッド・ライアン氏をはじめとする首脳陣が周辺ラインナップを充実させるための投資を十分に行っていない、と批判する人もいるといいます。
政治への関心が次の”周期”を迎えるまでに、ワシントン・ポストは読者をつなぎ止めるための改革を行なう必要があると言