株式会社サイバーエージェントの子会社でマーケティングデータプラットフォーム事業を展開する株式会社マイクロアドが、2022年5月26日に上場承認されました。6月29日にグロース市場に上場する予定です。
マイクロアドは2007年7月にサイバーエージェントが100%出資して設立されました。その後、サイバーエージェントが持株の一部を2016年4月にソフトバンク株式会社、2022年5月にSCSK株式会社に譲渡しました。現在のマイクロアドの主な株主構成は以下のようになっています。
■マイクロアドの主な株主

上場時の売出株数は1,645,000株。ソフトバンクが815,000株、サイバーエージェントが750,000株、SWAYが80,000株を売却します。SWAYは「役員等により総株主の議決権の過半数が所有されている会社」と記されていることから、代表である渡辺健太郎氏の資産管理会社だと予想されます。
マイクロアドが株式市場から資金を調達することを目的とした公募株数は669,000株。マイクロアドの調達額は概算で8億3,400万円。既存株主(特にソフトバンク)の出口戦略としての性格が強いIPOです。
マイクロアドの業績は力強い成長性に欠けており、上場後のかじ取りは困難を極める可能性があります。
マイクロアド単体では債務超過状態に
事業は大きく3つに分かれています。「データソリューションサービス」「海外コンサルティングサービス」「デジタルサイネージサービス」です。
主力事業がデータソリューションサービスで、広告主や広告代理店からの依頼に対し、広告掲載メディアへの出稿とマーケティングデータの提供を行っています。

サイバーエージェントのアメーバブログの誕生が2004年9月。マイクロアドはその3年後に設立されています。このころはアフィリエイト全盛期で、ブロガーからアフィリエイターへと転身する人が続出しました。しかし、Googleによる度重なるアルゴリズムの更新や、多種多様な企業がコンテンツSEOを強化したことによって競合ページが強力になり、個人のアフィリエイトが下火になります。マイクロアドはクリック保証型のサービスを2013年3月末で終了しました。
その後は企業をクライアントとする広告事業へと軸足を移しましたが、レッドオーシャンであるこの分野でマイクロアドは強い力を発揮することができません。
マイクロアドは11社の連結子会社、非連結子会社2社、関連会社1社で構成されていますが、マイクロアド単体の業績を見ると、全くと言っていいほど利益が出ていません。
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■マイクロアド業績推移(単位:百万円)

5期連続で経常赤字を出しています。しかも2018年9月期から債務超過に転落しており、2021年9月末時点で解消されていません。売上高も減少、もしくは横ばいが続いています。
売上高が伸び悩む姿は、競合であるかつての株式会社アドウェイズを彷彿とさせます。
■アドウェイズ業績推移

アドウェイズは2019年11月に博報堂DYホールディングスから出資を受け、更に2022年3月の追加出資で持分法適用関連会社となりました。アドウェイズは博報堂からの案件が増えたために業績は回復しています。
マイクロアドはグループ全体の連結決算では利益が出ています。売上高のおよそ半分が子会社によるものです。
■マイクロアド連結業績推移(単位:百万円)

しかし、2021年9月期は連結でも3,800万円の純損失を計上しています。2022年9月期は1億3,000万円の純利益を予想していますが、純利益率は1.1%と高くありません。
タクシー広告に商機を見出せるか
マイクロアドのデータソリューションサービス最大の特徴は、業界・業種ごとに広告プラットフォームを展開している点です。BtoBの「シラレル」、飲料・食品業界の「Pantry」、医療・製薬業界の「IASO」、自動車業界の「IGNITION」などです。
Web広告業界は、美容や健康食品を販売するクライアントからの大量出稿によって潤っていました。しかし、医薬品医療機器法違反で逮捕者が出ると運用体制を大幅に見直すケースが続出しました。広告の自主規制を強めて業績が急悪化した企業にログリー株式会社があります。
マイクロアドは業種や業界を分散しており、業績が大幅に落ち込む可能性は低いと考えられます。これはマイクロアドの強みです。
事業別の売上高を見ると、2022年9月期のデータソリューションサービスは前期比14.2%増、海外コンサルティングが同14.1%減、デジタルサイネージサービスが26.0%増を予想しています。
データソリューションサービスは2021年10月に営業組織体制を見直し、顧客属性に特化した営業組織に変更しました。クライアントが抱える課題に沿った提案ができるようになり、売上高伸張に一役買っています。ただし、この事業はアドウェイズのように大規模な経営改革を行わない限り、大幅に伸ばすのは難しいでしょう。

海外コンサルティング事業は、台湾、中国、ベトナムなどに進出する日本企業に対してマーケティング支援を行っています。成長に期待できそうな事業ですが、伸び悩んでいます。台湾では一部広告商品の審査厳格化に伴って取引額が減少しました。また、2022年6月に上海の子会社の売却を予定しており、売却損1億3,900万円を見込んでいます。ゼロコロナ政策を推し進める中国は経済の立ち直りが遅く、当面の間は事業縮小に迫られると考えられます。
売上規模は小さいですが、デジタルサイネージは伸びしろがあります。マイクロアドの関連会社であるマイクロアドデジタルサイネージは、デジタルサイネージアドネットワーク「MONOLITHS」を提供しています。タクシーやエレベーターに流れる広告です。マイクロアドはスーパーマーケット「マルエツ」やドラッグストア「ウエルシア薬局」、ネイルサロン「Lumiel」の入口、カウンターなどに設置されたディスプレイにも広告を配信しています。
その中でも注目したいのがタクシー広告。マイクロアドが広告を配信しているのは「THE TOKYO TAXI VISION GROWTH」。株式会社ベクトルの子会社ニューステクノロジーが運用しているものです。
■ベクトルデジタルサイネージ事業売上高推移

ベクトルのデジタルサイネージ事業の売上高は2022年2月期に前期比1.5倍となる30億9,700万円となりました。この数字は新型コロナウイルス感染拡大前の2020年2月期と比較しても1.3倍となるもの。タクシーが頻繁に使われるようになれば、広告の出稿量は増加する可能性があります。
ただし、売上規模8億円のマイクロアドのデジタルサイネージが、主力のデータソリューションサービスを凌駕するほどのサービスになる見込みは薄いでしょう。
マイクロアドは上場後も中期的には苦戦が予想される会社と言