コスメ・美容の総合サイト@cosmeを運営する株式会社アイスタイルが、2022年8月15日の取締役会で、Amazon.com, Inc.との間で資本業務提携契約の締結を決議しました。
日本の新興企業がアマゾンから出資を受けるのは極めて異例。アイスタイルはアマゾン内に「@cosme SHOPPING(仮称)」のオンラインストアをオープンする予定です。国内のアマゾンの女性利用比率は低く、提携することで欲しい層を呼び込むことができます。
アイスタイルはコロナ禍で実店舗が苦戦。3期連続の営業赤字を計上していました。銀行からの長期借入金の返済期限も迫っており、今回の資金調達は会社を救済する重要な意味を持ちます。
コロナ禍をきっかけとしてスリム化を図る
アイスタイルは2022年6月期に4億5,300万円の営業損失を計上しました。2023年6月期は営業黒字を予想。化粧品需要の回復を見込んでいます。


アイスタイルは2022年6月末時点で国内に23店舗、3店舗を海外に出店しています。新型コロナウイルス感染拡大が鮮明になった2020年6月期に売上高が前期比5.1%減の305億6,400万円、23億2,500万円の営業損失(前年同期は4億7,600万円の営業利益)を出しました。
ECから実店舗へと事業領域を広げたことが仇となりました。
注目したいのは、2019年6月期の営業利益率が1.5%となり、前年同期の6.5%から5ポイントも落としていること。実はアイスタイルは成長に向けた人材への投資を加速していました。2018年6月末時点で1,359人だった人員数を、1年で1,514人へと155人(11.4%)も増やしていたのです。
2018年4-6月に12億円だった人件費は、2019年4-6月に14億2,600万円へと18.8%増加しました。そのタイミングでコロナ禍を迎えてしまったのです。
アイスタイルは事業環境の急速な変化に合わせ、スリム化を図ります。2020年9月に8つあった海外店は2022年6月末で3店舗まで絞り込みました。国内でも1店舗を閉店しています。2019年6月末に1,514人いた人員は2022年6月末に1,253人へと17.3%削減しました。
アマゾンが出資を決めた要因の一つに、アイスタイルが利益を出しやすい体質へと変化していたことがあったと考えられます。
化粧品市場はインバウンドの盛り上がりとともに回復するか
化粧品市場はコロナ禍で縮小しましたが、反転する可能性が高まりました。マーケットの将来的な拡張もアマゾンは見逃さなかったはずです。
矢野経済研究所によると、2021年度の国内化粧品の市場規模は2兆2,7000億円。2019年比14.3%もの縮小に見舞われました。
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矢野経済研究所は市場縮小の要因を2つ挙げています。1つはインバウンドの消失。もう1つはテレワークの拡大による国内需要の落ち込み。裏を返すと、この2つが戻ることでマーケットは2019年度の水準を取り戻すことになります。
日本政府は2022年10月11日から水際対策を緩和し、海外観光客の受け入れを実質的に解禁しました。折しも日本は空前の円安。2022年10月12日には1ドル146円台まで円安が進行し、およそ24年ぶりに円安水準を更新しました。観光業には追い風です。
また、東京都心のオフィスの空室率は高止まりを続けています。2020年4月ごろまで空室率は2%を下回っていましたが、コロナ禍でオフィス面積を減らす動きが加速し、2021年6月ごろには6%を上回りました。ただし、そこからは平行線で推移しています。
テレワークが進んだのは間違いありませんが、これ以上進行することはないと予想できます。ジェネラリストが多い日本の会社でテレワークは馴染みづらく、出社する動きは強まる公算が高いと考えられます。
アイスタイルは国内の店舗に限っては、大幅に削減をしていません。インバウンド、国内需要の高まりを受けて実店舗の回復が見込めます。アイスタイルは「スリム化+需要の高まり」により、成長力をつけられる可能性があります。
更に円安であったことも、アマゾンが日本企業に出資をしやすかった背景の一つにあると考えられます。
ユーザーの親和性が高い2つのプラットフォーム
@cosmeのユーザー層は20代~30代の女性が中心。過半数が毎月利用しており、リピート頻度が高いという特徴があります。
■@cosmeユーザー層

プラネットの「インターネットは一般消費財流通をどう変えるか2022」によると、20代女性のアマゾンの利用率は44.4%。男性は20代~70代までで50%を超えており、高い比率を占めています。しかし、アマゾンは若い女性を十分に取り込めていません。

アマゾンは@cosmeと提携することにより、20代の女性を呼び込むことができます。化粧品以外の購入や、サブスクリプションサービスのアマゾンプライムの登録などへと繋げることもできるでしょう。
アマゾンが確実に儲けられるワラントを発行
アイスタイルは資金繰りに窮しており、出資条件で有利に立てることもありました。2022年10月末に60億円の長期借入金を一括返済する必要があったのです。

この借入は人員強化を行った2019年10月のもの。アイスタイルの現金は2021年6月末に70億9,400万円ありましたが、コロナ禍の影響もあり、2022年6月末に56億9,000万円まで減少していました。50億円の一括返済を行うと、7億円程度しか残らないことになります。
アイスタイルは急いでキャッシュを手にする必要がありました。
今回、アイスタイルはアマゾンに4,300万株分のワラントを発行します。

ワラントとは市場の株価よりも低い価格で新株を発行できる権利。株価が一定の水準まで下がったとしても、更に低い価格で買い付けることができるため、ワラントを引き受けた会社は簡単に儲けを出すことができます。ただし、株価が下がりやすいために既存の株主を軽視した資金調達方法だと言われています。
アマゾンに割り当てられているのはすべて新株予約権であり、権利を行使しなければアイスタイルは資金調達ができません。そのため、アマゾンは有利な条件で交渉を進められたと考えら