【メディア企業徹底考察 #95】WordPressを爆速にする「KUSANAGI」のプライム・ストラテジーが上場、売上急伸の理由は?

オウンドメディアを構築・運用する上で欠かせなくなった無料のCMS「WordPress」に特化したサービスを展開するプライム・ストラテジー株式会社が、2023年1月19日に上場承認を受け、2月22日にスタンダード市場に新規上場します。

主力サービスはWordPressの表示速度を高速化するKUSANAGI。アクセスの集中でサイトが表示されない、アプリケーション処理が重いなどの課題を解決し、CMSの安定運用に欠かせないアップデートなどをバックアップします。

月間8,000万ページビューがあるWebメディア『デイリー新潮』が同サービスを導入し、大量アクセスによるサーバーダウンの防止やページ表示速度が向上するなど、実績を出しました。そのほか、『WANIMAGAZINE』や『電ファミニコゲーマー』、『biz SPA!フレッシュ』など中規模メディアに多く採用されています。

プライム・ストラテジーは海外展開に力を入れていますが、成長力をつけるには国内の営業力・顧客開拓力の強化が欠かせないでしょう。

売上高を4割以上伸ばした理由は?

プライム・ストラテジーは2002年12月設立。もともとは中小企業向けのWebマーケティングサービスの提供を目指していました。2005年4月にインドネシアにPT. Prime Strategy Indonesiaを立ち上げました。早い段階からオフショア開発によるコスト削減に取り組んでいます。2008年11月にWordPressに関連するサービスの構築を進めました。2015年7月にKUSANAGIをリリースしています。

2015年に、海外の販路を確立するための子会社をシンガポールとニューヨークに設立しました。

創業したのは代表取締役・中村けん牛氏。1993年4月に野村證券に入社して営業畑を歩んだ後、1994年1月会計士などの資格取得をバックアップするTACに転籍。公認会計士二次試験に合格し、1998年10月に中村けん牛会計士補事務所を設立して所長に就任しました。その後、プライム・ストラテジーを設立しています。

プライム・ストラテジーは2022年5月に旅行業の株式会社エアトリ、家賃保証の株式会社イントラスト、同年6月に投資銀行業務のフィンテック・グローバル株式会社と資本業務提携契約を締結しています。

エアトリは3.71%、イントラストは1.19%、フィンテック・グローバルは1.19%の株式を保有しています。筆頭株主は中村けん牛氏で56.73%、第2位の株主はその配偶者である中村八千代氏で23.64%を保有。2名で8割を超えています。上場で中村けん牛氏は325,000株、八千代氏は92,400株を売り出しますが、引き続き会社に強い影響力を持つのは間違いありません。

会社の業績はしばらく停滞していましたが、2022年11月期に突如として突き抜けました。

なお、プライム・ストラテジーは、2020年11月期から海外の子会社を含めた連結決算表を作成していますが、売上高への影響が一千万円程度と小さいうえ、2期分の決算書しかないため、ここでは国内で事業を展開する単体での業績推移を見ます。また、2022年11月期の数字は監査を受ける前のものです。

2021年11月期の売上高は前期比3.2%減の5億3,800万円となりましたが、2022年11月期は同43.1%増の7億7,000万円と大幅に伸張しました。利益率も大きく改善しています。突如として数字を伸ばした理由が、プライム・ストラテジー成長の一番のポイントです。

潜在顧客となる上場企業は3,000以上

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プライム・ストラテジーの2022年8月末時点での契約者数は113。2020年11月末と比較して12社(およそ1割)減少しています。しかし、顧客単価は2020年11月期の29万円から30万円、35万円と段階的に上がっています。MRR(月次経常収益)においては、2022年8月末に5,100万円となり、2021年11月期の3,500万円から1.5倍に跳ね上がりました。

■プライム・ストラテジー販売実績

実はプライム・ストラテジーは、2022年11月期に住友不動産株式会社と契約し、2022年11月期の販売額がこの1社単体で1億5,200万円に上っています。単価の低い会社の解約が進み、大口顧客との契約が決まったことで顧客単価、MRRが押し上げられたものと考えられます。

プライム・ストラテジーは、2022年12月末の段階で連結の従業員数が23人しかいません。少数精鋭型の開発、販売体制を確立しています。2021年11月期の人件費(原価の労務費8,600万円と販管費の給与7,000万円の合計)は1億5,600万円。IT企業の売上高に占める人件費は3割程度と言われており、それを下回る水準です。また、外注費も1,100万円(売上高に占める割合はわずか2%)程度と高くありません。多くのIT企業では、3~4割の水準が普通です。

経費がかかりづらい体制を築いているため、単価が高い顧客が獲得できると利益率が急伸するのです。2020年11月の経常利益率は8.1%、2021年11月は24.9%、2022年11月期は37.8%まで伸びています。

プライム・ストラテジーの成長は顧客開拓にかかっています。幸いなことに、WordPressは数多くの企業で利用されています。データ関連のコンサルティングを行うデータサインの調査によると、2022年8月の上場企業のWebサイトにおいてWordPressを利用しているのは3,399社。潜在顧客が数多くあります。

代表取締役・中村けん牛氏は証券会社で営業活動を行っていました。上場後、調達した資金で営業部を強化し、大口顧客を開拓することができれば、急成長できる会社になるで

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