【メディア企業徹底考察 #104】業績絶好調だったリクルートが失速した理由

株式会社リクルートホールディングスの業績が曲がり角を迎えました。

2023年3月23日に、2023年3月期の通期業績予想の修正を発表。営業利益を前年同期比10.0%減の3,410億円としました。2022年3月期の営業利益は前年同期の2.3倍となる3,789億円でしたが、今期は減益での着地を見込んでいます。

成長をけん引していた求人プラットフォームのインディードが失速。2,400名の従業員の削減に伴う180億円の費用などが発生し、利益を下押ししました。

しかし、苦境を物語るのは一時的な費用計上による減益ではなく、インディードの成長が止まってしまったこと。リクルートは中期的な業績の伸び悩みという悪夢が視野に入りました。

リクルートの成長をけん引する存在となったインディード

リクルートは新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けた2021年3月期の売上高が、前年同期比5.4%減の2兆2,693億円となりました。しかし、2022年3月はその反動によって売上高が同26.5%増の2兆8,717億円と大幅に伸張します。

決算短信より

リクルートは3つの事業を展開しています。インディードを中心とした求人プラットフォームのHRテクノロジー事業、求人広告や広告メディアを運営するマッチング&ソリューション事業(旧:メディア&ソリューション事業)、人材派遣事業です。

世界中で新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言が発令されるという異例の事態を前に、雇用環境は激変しました。多くの企業が採用広告を出稿を抑制します。また、リクルートが得意としていたローカルビジネス向けの集客メディアである、ホットペッパー、ホットペッパービューティー、ゼクシィの広告収入も低調となりました。

2021年3月期のHRテクノロジー事業の売上高は前期比0.4%減の4,232億円、マッチング&ソリューションズ事業の売上高は同11.1%減の6,720億円でした。

その後、アメリカはコロナ禍から立ち直って雇用環境が好転します。その影響を受け、2022年3月期のHRテクノロジー事業の売上高は、前期の2倍となる8,614億円まで伸びました。マッチング&ソリューションズ事業は苦戦が継続し、売上高は前期比2.0%減の6,586億円に留まりました。

リクルートはコロナ禍を経て収益構造が大きく変化しました。それはコロナの影響を全く受けなかった2019年3月期と、2022年3月期の事業別の売上高を比較するとよくわかります。

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HRテクノロジー事業の売上高は全体の15%ほどでしたが、30%近い水準まで上がりました。

リクルートにとってHRテクノロジー事業の伸長は歓迎すべきことでした。利益率が他事業と比較して極めて高いためです。

決算短信より

リクルートの2022年3月期の営業利益率は13.2%。2019年3月期は9.7%でした。コロナ後は2.5ポイント上昇しています。これは利益率が高いHRテクノロジー事業の売上構成比率が上がったためです。

ジェットコースターのようなアメリカの雇用環境の変化

2022年のアメリカの雇用環境は異例とも言えるものでした。2022年3月の米国労働省の雇用動態調査によると、求人件数は1,155万件、離職者数は44万人で、2000年の調査以来ともに過去最高となったのです。2カ月連続の増加で、人手不足が深刻化している様子が良くわかります。労働者はより良い労働条件を求めて離職し、人手不足を補おうとする企業は好条件を提示するため、求人広告に資金を投じました。

2022年3月の充足率(求人件数に対する採用人数)は58%。2019年の平均は80%でした。アメリカは2022年3月から利上げを本格化しましたが、雇用環境や物価上昇を鑑みると他国に先んじて利上げを強行したのも頷けます。

しかし、コロナ特需からの揺り戻しと急速な利上げ、利上げに伴う急激なドル高で、テック関連の企業を中心に業績に急ブレーキがかかります。Metaは2022年11月に1.1万人、Amazonも同時期に1万人(その後1.8万人に増加)、2023年1月にMicrosoftが1万人を削減する方針を打ち出しました。

スタートアップを中心に貸付をしていたシリコンバレー銀行は2023年3月に破綻しました。アメリカは景気減速が鮮明になりました。当然、その影響は雇用環境に直結するインディードにも及びます。

HRテクノロジーは2023年3月期3Qにおいて、減収となりました。4Qの売上高は3Qよりも減少する見込みです。

■HRテクノロジー事業の売上高と調整後EBITDA(マージン)

従業員の解雇を発表したインディードのCEOクリス・ハイアムズ氏は、求人広告は今後も冷え込むだろうと語っています。つまり、しばらくは大幅な増収が見込めず、利益率を高めるために解雇したことになります。ハイアムズ氏は、アメリカでのインディードのようなプラットフォームを利用した求人数が、前年と比較して3割程度減少していることも明かしました。

リクルートにとって、成長期待と利益率が高かったインディードの伸び悩みは頭の痛い問題でしょう。アメリカの雇用状況というマクロ環境に左右されるため、収益コントロールがしづらい点も課題の一つです。

HRテクノロジー事業には買収で生じた2,270億円ののれんが積まれています。のれんは収益性に見合った価値に見直す必要があり、収益性が悪化すると評価額の見直しをしなければなりません。減価による巨額の減損損失も視野に入ります。

インディードの買収はクロスボーダーM&Aの成功モデルとして有名。成功神話として語られていました。それが今、正念場を迎えて

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