電子書籍の流通事業を手掛ける株式会社メディアドゥが、業績の曲がり角を迎えました。
2023年2月期の売上高は前期比2.9%減の1,016億6,700万円、営業利益は同14.9%減の23億9,300万円でした。2024年は更なる減収減益を予想しており、売上高は1,000億円、営業利益は20億円程度まで縮小する見込みです。
業績悪化の主要因は、大口顧客だったLINEマンガとの取引が段階的に終わりを迎えていること。メディアドゥは2024年2月期の業績が底で、それ以降は反転するとの見通しを出していますが、成長する見通しはあるのでしょうか?
Zホールディングスの大規模な経営統合の煽りを受ける

メディアドゥは2018年2月期の売上高が400億円に届かないレベルでしたが、電子書籍マーケット(特にマンガ)の伸長に合わせて旺盛に成長。4年後には1,000億円企業となりました。
しかし、2021年11月にLINEマンガを手掛けるLINE Digital Frontier株式会社が、電子書籍販売サービ「ebookjapan」を運営する株式会社イーブックイニシアティブジャパンの株式36.05%をTOBで取得。イーブックイニシアティブは上場廃止となってLINE Digital Frontierの完全子会社となりました。
イーブックイニシアティブは2003年にヤフー株式会社と提携しており、もともとZホールデングス株式会社とは縁の深い会社でした。ヤフーはイーブックイニシアティブ上場後の2016年9月にTOBと第三者割当増資で40%超の株式を取得。子会社化していました。
ZホールディングスはLINEとヤフーを2023年度中を目処に合併する計画を明らかにしていますが、LINE Digital Frontierによるイーブックイニシアティブの完全子会社化も、ヤフーが持つ資産をLINEと統合する経営合理化の一環でした。
LINEマンガとイーブックは競合する相手でしたが、協業する関係へと変化しました。メディアドゥはLINEマンガのバックオフィス業務を引き受けており、その影響を真正面から受けました。2022年2月期においては190億円、2023年2月期は130億円の減収要因になっています。
その影響が一服し、2024年2月期以降は成長路線へと転じることをメディアドゥは強調しています。

強気の目標は現実的なのか?
メディアドゥは底打ち反転した後、2025年2月期の売上高を1,200億円、2027年2月期は1,500億円との目標を掲げています。確かに、LINEマンガ業務の移管が済んだ後は、マーケットの拡大に合わせて売上高が成長するのは間違いないと考えられます。
しかし、市場の伸長に合わせて売上高が回復するというシナリオなのであれば、この目標はやや強気なものだと言えるでしょう。
インプレス総合研究所は、電子書籍ビジネスの2021年の市場規模を5,510億円であると算出しています。これが2026年には8,048億円と1.5倍程度まで伸びる予想を出しています。市場が旺盛に伸びているのは間違いありません。

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この市場の成長率を、メディアドゥの電子書籍事業の売上高に当てはめてみましょう。
メディアドゥの電子書籍事業は、2023年2月期において売上高全体の92.8%を占めていました。2024年2月期の売上高を1,000億円と予想しており、同様の売上比率だったとすると、事業単体の売上高は928億円と予想できます。
この数字を起点として、市場規模の伸長を事業単体の売上高に当てはめたものが下のグラフです。2023年2月期までは実績、2024年2月期以降は独自予想になります。

2025年2月期の電子書籍事業の売上高はおよそ1,000億円。2027年2月期が1,157億円です。仮に電子書籍事業の売上構成比率が現在の93%程度だったとすると、会社全体の売上高は2025年2月期が1,083億円、2027年2月期が1,244億円となります。
2025年2月期 | 2027年2月期 | |
メディアドゥの目標 | 1,200億円 | 1,500億円 |
市場の伸長に合わせた予測値 | 1,083億円 | 1,244億円 |
10~20%程度の乖離があります。
メディアドゥの切り札の一つが、トーハンと資本業務提携で誕生したデジタルと紙書籍の融合。NFTテクノロジーでデジタルアイテムや映像、音楽などを書籍に特典として付与し、商品の付加価値を高めようというものです。
確かに販売単価を3割引き上げるなど、成果はありました。しかし、2021年10月から2023年3月までのNFTデジタル特典付き出版物の総売上高はわずか3億1,400万円。業績に寄与するサービスには成長していません。
電子書籍以外の事業強化が欠かせない
主力事業の伸びが限定的なのであれば、それ以外の事業を強化するのが一番の近道です。メディアドゥはM&Aに力を入れており、2021年3月にRIZAPグループから日本文芸社を15億円で取得。その年の12月にはDeNAからエブリスタを取得しています。
この2社の買収は見逃せないでしょう。
日本文芸社は「週刊漫画ゴラク」を発行する会社で、「ミナミの帝王」などの人気連載作品を持っているほか、男塾といった根強いファンを持つシリーズを手掛けています。エブリスタは小説などのコンテンツを投稿するプラットフォームで、「エブリスタ小説大賞」に選ばれた作品は書籍化する取り組みを行っています。
これまでに「王様ゲーム」や「ブラックアウト」などのヒット作を送り出しました。
書籍をデジタルで流通させるという出版業界の裏方を担っていたメディアドゥは、コンテンツを生み出す側へと事業の幅を広げました。電子書籍事業以外は未だ黒字化はできていません。しかし、将来的に大ヒット作が生まれることや、別の出版社を買収するようなことになれば、面白いことになるでしょう。
メディアドゥが逆境に立たされているのは間違いありませんが、新たなチャレンジを行うちょうど良いタイミングが来ていると見ることもできるで