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小さな実験の積み重ねが大新聞社を変える、NYタイムズのDXをメディアコラボ古田氏が解説

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Manabu Tsuchimoto
Manabu Tsuchimoto
デジタルメディア大好きな「Media Innovation」の責任者。株式会社イード。1984年山口県生まれ。

Publishing Innovation Summit 2020で、ジャーナリストでメディアコラボ代表の古田 大輔氏は「なぜ、NYタイムズのDXは成功したのか 危機に必要とされるメディアとは」と題した講演を行いました。

古田氏は朝日新聞で記者を勤めた後、バズフィード日本版に創刊編集長として参画。昨年退職してからはメディアコラボを立ち上げ、メディアのデジタルトランスフォーメーションの支援や、日本インターネット協会やファクトチェック・イニシアティブ・ジャパンの理事など業界横断の取り組みに尽力しています。

最近では地方紙のコンサルティングなども行っているという古田氏。講演では、10年前には倒産寸前とも言われた「ニューヨーク・タイムズ」(タイムズ)がいかに立ち上がったのか、その原点となった「イノベーション・レポート」を引用しながら、メディアはどう変わっていくべきなのか話しました。

リーマンショックでは赤字に転落し、危機的な状況であったが、直近ではデジタルの売上が紙の売上を超える大復活を遂げた「ニューヨーク・タイムズ」

古田氏はその同社の復活における3人の重要人物として、アーサー・グレッグ・サルツバーガー、マーク・トンプソン、メレディス・コピット・レビアンの3名を挙げました。マーク・トンプソンはBBCの会長を勤めた後にタイムズに加わり、CEOとして変革を牽引しました。そのCEOを創業家として全面的にバックアップしてきたのが会長を勤めてきたサルツバーガー氏の父です。レビアン氏はForbes出身で2013年にタイムズに加わり、広告事業の責任者などを経てトンプソン氏に代わって今年CEOに就任しました。

変革を定義づけるレポートとしてサルツバーガー氏を中心に10人のチームが2014年にまとめたのが「イノベーション・レポート」です。社内外の数百人にインタビューしてまとめた社内レポートでしたが、バズフィードがスクープして公開したことで世界中のメディア関係者に読まれました。「元々はどう新しいことに取り組むかという話だったのが、社内外の取材をしていくうちに、タイムズ自体を作り替えないといけないということに気がついて、DXを実現するための文章になった」と古田氏は述べました。

読者開発をする

この文章の鍵となるのが、冒頭に書かれている「ニューヨーク・タイムズはジャーナリズムでは勝利している。メディア企業が直面するデジタル時代の課題の中で、偉大なジャーナリズムを提供しつづけるのは最も困難なことだ」「同時に、我々は次の重要な部分で負けている。我々のジャーナリズムを読者に届けるという部分においてだ」という自己認識ではないかと古田氏は言います。

質の高いコンテンツを提供すれば勝手に読者が付いてくるのではなく、きちんと読者と向き合って、どうやったらサイトに来てくれるか、登録して課金してくれるか、カスタマージャーニーを作らないといけないというのがレポートの訴えるポイントでした。

読者開発の必要性が説かれ、「Discovery」(読者の発見)、「Promotion」(積極的に記事をアピールする)、「Connection」(読者との関係性築く)という3つのテーマが掲げられました。

タイムズでは記者や編集者は記事を出稿したら仕事は終わり。ハフィントンポスト(※現在のハフポスト)では、記事を出稿したところから始まる」という印象的な言葉もレポートには登場しています。

あるいは読者目線の必要性です。ウェブやアプリでは大量にあるコンテンツの中から欲しいものを探し出すのは困難ですが、長い歴史で蓄積されたコンテンツを活用する可能性について指摘されています。例えば「12 Years a Slave」(それでも夜は明ける)という映画があり、元々は1853年に出版された原作がありました。実はタイムズは当時、作者にインタビューをしていて、それをTwitterアカウントでツイートして紹介。それを見た「Gawker」が詳細な記事を書いて、それが大いにバズったということがありました。ネタは持っているけど、十分に活用できてない勿体なさをレポートは指摘しています。

自分たちの資産を再点検して、読者のニーズに応えた取り組みが「NYT Cooking」のサブスクリプションサービスです。紙面でも人気コンテンツだったレシピを独立のサービスとして有料で展開。月額5ドルで数十万人の購読者がいる人気サービスへと成長しました。

このような取り組み重要なのは「実験して改善していく」という精神です。新しいチャレンジをして成功することを称賛するのではなく、いい実験をしたこと自体を称賛して、みんなが失敗を怖がらないようにする。そして小さい実験を素早く繰り返していくことを大切にしていくということがレポートでは説かれています。

サブスクリプションを成功に導く

タイムズは課金を中核に据えました。その為に必要なのは、一見さんが読者になる一連の流れ、カスタマージャーニーを設計することです。そのポイントとして古田氏が挙げたのはジャーナリストの魅力です(単に記者だけでなく、デザイナーやエンジニアも含め)。各個人がキャラ立ちしていて、Twitterのアカウントも持ち、それぞれの魅力の集合体としてのメディア像を描こうとしました。これはニュースレターの人気にも通じる考え方でしょう。

ファイアーウォールはあって然るべきだが、そのポイントは変わるかもしれない

このサブスクリプションを成功に導くために古田氏が重要ではないかと指摘したのが「”教会と国家の分断”を乗り越えることです」この”教会と国家”は政教分離の考え方ですが、メディアでは”編集と営業”の問題と考えれば分かりやすいでしょう。この壁は伝統的なメディアであればあるほど重要視されてきました。もちろん線引きは必要です。編集権の独立は重要で、ビジネスで筆が曲がることはあってはなりません。

ただ、ことさらに編集部が独立志向を貫いて、組織戦が行えないのは問題です。例えば、データを扱うチームとは一緒に仕事をするべきでしょう。また、レポートの中でも、「編集局の人間はビジネスサイドに近い人間だと見られることを偏執狂的に気にしている」というコメントがありました。一方でビジネスサイドには「我々が編集局のために働かないとしたら、この会社の最も重要な部分のために働いてないことになる」という想いもあったようです。

しかし何と言ってもタイムズの求心力はジャーナリズムにあります。タイムズの超一流のジャーナリズムと一緒に仕事をしたい人が会社には集まります。組織間の壁を超えて、協力し合うことができるようになれば、そうした人たちの能力を最大限に発揮することにも繋がります。

デジタルファーストは最後に

実は「イノベーション・レポート」は最後の章が「デジタルファースト」という構成になっています。この理由について古田氏は、チームのメンバーに直接聞いた話として、「編集局の人たちが心を開いてくれるように、細かい実験の成功体験を沢山紹介して、最後にデジタルファーストを持ってくる構成になった」と解説しました。

また、「デジタルファースト」は、デジタルで最初に記事を出すという単純なものではなく、新聞紙の制約から離れて、最高のデジタルコンテンツの制作を最優先し、最高のデジタルコンテンツを再パッケージ化して、最後に紙に印刷する、という全ての人員配置、組織構造、ワークフローを再考するという革命的な仕事になります。

レポートでも圧倒的に巨大でリソースを持っている伝統メディアがデジタルで苦戦する理由について、新興メディアはデジタルコンテンツを作るのに集中できるというアドバンテージがあると指摘されています。一般的には、どうしても大多数が紙に集中して、一部のチームでデジタルに取り組むという構成になりがちです。これを逆転させなければならないとレポートは説いています。

古田氏はこれを理想的なプロダクト・ポートフォリオ・マネジメントだったと振り返ります。紙は収益を生み出しているものの、将来性は限られた「牛」です。デジタルは将来性があるけれど収益性がこれからの「問題児」で、「牛」が収益を産まなくなる前に「問題児」を「スター」に変えなくてはなりません。

タイムズはこの為に、絶対的存在の創業家のバックアップで、外様のCEOが徹底的な会社の作り直しを行いました。トンプソン氏は退任後のインタビューで、2015年にはこの方針を固めるために、5,6名の経営陣で毎週半日かけて徹底的な議論を行ったと振り返っています。会社の在り方を転換する仕事で、このくらいの覚悟が求められるというのは間違いなさそうです。

一方で古田氏はレポートでも触れられている、コンテンツの出し方などは、特にデジタル人材がいなくても、すぐに挑戦できることで、小さな成功体験を積み上げていくことはボトムアップでもできることで、それを通じて経営陣を動かしていくことができるのではないかと話して講演を締めくくりました。

「イノベーション・レポート」は100ページに満たないレポートにエッセンスが凝縮されたものですので、この機会に触れたことの無い方は、ぜひ読んでみてください。

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