【メディア企業徹底考察 #56】業績予想上方修正のアドウェイズ、その要因はあのサイトの閉鎖?

デジタル広告の代理店事業や広告配信プラットフォームを展開する株式会社アドウェイズが、2022年5月2日に2022年12月期の業績予想を上方修正しました。売上高を従来予想の135億円から2.2%増の138億円、営業利益を11億円から29.1%増となる14億2,000万円、純利益を7億円から42.9%増となる10億円へとそれぞれ修正しています。

業績予想に加えて配当予想も修正。従来の3円69銭から5円49銭へと引き上げました。この好材料に低迷気味だった株価が反応。5月2日の終値は787円でしたが、発表後の5月6日に一時16.7%高となる919円をつけました。

上方修正の理由として、マンガアプリを展開するクライアントからの需要が増加したことなどを挙げています。マンガアプリは海賊版サイトが次々と閉鎖されたことで活況。アプリユーザー獲得のためのデジタル広告にもその好影響が広がっています。

クライアントの広告成果を最大化する組織づくり

アドウェイズはデジタル広告を取り扱う会社です。

この会社がユニークなのは、クライアントとの接点にマーケティングコンサルティング事業を置いている点。自社の広告配信プラットフォームだけでなく、広告効果を最大化させるツールを開発してリスティング広告など他社のプラットフォームを有効活用しています。この仕組みにより、クライアントが抱える課題解決に沿った最適な提案・運用ができるようにしています。

2019年12月に株式会社博報堂DYメディアパートナーズがアドウェイズの発行済み株式総数の7.40%に当たる株式を取得。資本業務提携契約を締結しました。さらに2021年11月株式会社博報堂DYホールディングスが8.66%の株式を取得しました。アドウェイズはこのタイミングで自己株式の処分を行ったため、博報堂グループは合計で15.42%を株式を保有することになりました。これによってアドウェイズは博報堂DYホールディングスの持分法適用関連会社となっています。

大手広告代理店がアドウェイズをグループ内に組み入れた背景には、アドウェイズのビジネスモデルが広告配信プラットフォームの提供に限らず、コンサルティング部門を設けてクライアントの課題解決を優先していることがあると考えられます。

博報堂によって押し上げられた広告取扱高

アドウェイズは2021年に決算期を3月から12月に移したうえ、収益認識を純額表示に切り替えました。そのため、過去の業績推移で成長性を見るのが難しくなっています。

アドウェイズの成長性を示すものとして比較的わかりやすく出ているのが、年間の広告取扱高です。

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アドウェイズが開示しているグラフが少しわかりづらいため、月間の平均取扱高に変換したものが下のグラフです。

決算説明資料より筆者作成

アドウェイズの広告取扱高は2017年3月期から横這いとなりました。2020年3月期に大きく落ち込んでいます。これは広告出稿の基準を厳格化したため。審査を厳しくした背景には、健康食品の広告などを中心に規制が強化されていたことと、博報堂が出資するにあたって、いわゆるグレーな広告を一掃する狙いがあったものと考えられます。

博報堂の資本提携後は取扱高が大きく伸張しました。2021年3月期は31.4%増、2021年12月期は15.1%増と2桁増が続いています。

この成長性の高さは、デジタル広告業界の競合でアフィリエイト広告サービス「A8.net」などを運営する株式会社ファンコミュニケーションズと比較するとよくわかります。

※開示資料をもとに筆者作成

ファンコミュニケーションズとアドウェイズとの広告取扱高の差は、2019年は10ポイント程度でしたが、2021年には倍以上の差がつけられました。

早々と3,000万ダウンロードを達成したピッコマ

アドウェイズが2022年12月期の業績を上方修正した理由として、マンガアプリを展開するクライアントの需要が増加したことを挙げています。マンガアプリ広告には今後の伸張が期待できます。

2021年11月に閉鎖された海賊版マンガサイト「漫画BANK」に対し、国内の大手出版社4社がサイト運営者の氏名や住所などの情報をグーグルに開示するようアメリカの裁判所に申し立てました。裁判所は11月12日付で申し立てを認め、開示命令を出しています。

2022年2月には同じく国内の大手出版社4社が、マンガの海賊版サイトのデータ配信に使われる「コンテンツ・デリバリー・ネットワーク」を提供する米IT企業クラウドフレアを相手取り、サービス差し止めや4億6,000万円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こしました。

かつて問題となっていた「漫画村」の運営者は逮捕され、懲役3年、罰金1,000万円、追徴金約6,257万円の判決が下されて刑が確定しています。

近年、出版社は海賊版サイトの運営者やサービスを提供する企業に対して、以前よりも厳しい行動をとるようになりました。クラウドフレアと契約する海賊版サイトはアクセス数が月3億回に上るサイトもあるとされ、その影響は甚大です。訴訟という強硬手段をとることにより、海賊版サイトは少しずつ力を失うでしょう。マンガアプリにとっては追い風です。

「ピッコマ」は2021年10月にダウンロード数が3,000万を突破しました。わずか1年5か月ほどで1,000万のユーザーを集めたことになります。1,000万から2,000万到達には1年10か月かかっていました。ダウンロード数のスピードが上がっています。

インプレス総合研究所の調査によると、2020年度のマンガアプリ広告市場は260億円。2021年度は280億円を予想しています。

広告市場も堅調に拡大しています。マンガアプリの種類も増えているため、各社広告を出稿してユーザーの取り合い合戦が激化するものと予想できます。そうなると、クリック単価などの上昇によって広告費が嵩みがちです。これはクライアントにとってはデメリットですが、広告配信側にとっては取扱高が増えるので有利です。

博報堂のグループ入りを果たしたアドウェイズの成長がどこまで続くのか。注目のポイン

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